天ルート38
「さくらちゃんの意地悪〜」
「もうごめんってば〜」
俺は椅子に座ってさくらちゃんに背中を洗ってもらってる。
「もうお嫁に行けない……」
「え〜。うちに来るんだから良いじゃん。うちに来てくれたら私のこと触り放題だよ? まあ、今もだけど」
さくらちゃんの優しい笑い声。
「さくらちゃんの家にもお嫁に行けませーん」
「じゃありっちゃんのお嫁さんになるから平気だよ〜」
「むう〜」
何を言ってもさくらちゃんに笑われてしまう。
「ひゃう!?」
背中の筋をなぞられる。
「く、くすぐったいよ!」
「ふふっ。ごめんね」
その声に悲しみが混じる。
「傷だらけだね、りっちゃん」
「……え?」
俺はさくらちゃんの言葉の意味が分からなかった。
「傷だらけって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ」
さくらちゃんが後ろから俺を抱き締める。
さくらちゃんの大質量の柔らかさが背中に押しつけられる。
「さ、さくらちゃん!?」
頭に一気に血が昇る。
さくらちゃんのoppaiが!?
「前に二人でお風呂に入ったときのこと覚えてる?」
「え? あ、ああ、さくらちゃんが泊まりに来たときのだよね?」
俺はなんとか頭を働かせて記憶を引っ張る。
「うん。そのときのりっちゃんの背中は、ね。白くて綺麗だった」
耳元で囁かれる声。
とても悲しそうな声。
「でも、でもね。今のりっちゃんの背中は傷だらけなんだよ? りっちゃん気にしたことないでしょ?」
「……そうかも」
顔や前は自分でも鏡を見て分かる。
でも背中を見たことはないかもしれない。
「夏休み。かぐやちゃんの別荘でお泊まりしたときだよ。私もかぐやちゃんも、それに麻衣ちゃんも。りっちゃんの背中を見て驚いた」
ああ、そうだ。
あのときは、かぐやの希望で四人でお風呂に入ったんだ。
そのときに俺は三人に背中を見られたのだ。
「半年も経ってないんだよ? なのに、なのに。こんなに傷だらけになって」
ぎゅーっとさくらちゃんの腕に力がこもる。
俺はそれを受け入れる。
「私の背中、そんなに酷い?」
「擦り傷だらけだよ。それに背中だけじゃない。おでこも首も掌も腕も足も。傷痕が薄くなっても私は覚えるからね。私だってりっちゃんを傷つけたんだから」
「私はさくらちゃんに傷つけられたって思ってないよ?」
「……じゃあ、ここは?」
さくらちゃんが俺の後頭部に触れる。
「そこがどうしたの?」
「……私がりっちゃんから逃げた傷だよ」
「逃げた? あー、なるほどね」
さくらちゃんが今触れている場所。
麻衣が言っていた。
死ぬかもしれなかったと。
立花が階段から落ちたときの傷なのだ。




