天ルート19
体育祭の練習も終わり、着替えたらそのまま授業。
今思えばメチャクチャハードスケジュールだが、学生というのはこういうものだったのだと思い出す。
体力は減っていたが、気力は意外にも残っていた。
クーラーで冷やされた教室の中、特に居眠りをすることもなく授業も終わる。
そして放課後。
「りっちゃ〜ん。今日は委員会だから一緒に帰れないよ〜」
椅子に座る俺の膝には半泣きのさくらちゃん。
ぎゅーっと抱きつかれてしまっていて、これでは帰れない。
「よしよし。委員会頑張って偉いよ、さくらちゃん。ほら、他の人たちが待ってるんでしょ? 早く行かないと」
「やーだ! りっちゃんが冷たいから行かなーい」
俺の首に自分の額をスリスリ。
普段はしっかりものなのに、こういう時は幼子のようになってしまう。
教室に残っているクラスメイトはほのぼのとした温かい目で俺たちを見守ってくれている。
「あはは。これは参ったね」
苦笑するのは矢沢さん。
隣には困り顔の兵藤さんも一緒だ。
実は今日の学級委員の集まりは体育祭実行委員と合同なのだ。
そのため一緒に行こうと二人がさくらちゃんのことを誘ってくれているのだが……
「今日はサボる。最近、ずーっと体育祭のことばかりだから嫌〜」
体育祭の準備が始まってから学級委員は体育祭の手伝いに駆り出されているらしく、ほぼ毎日さくらちゃんとは帰る時間がズレている。
初めのうちは気にもしていなかったが、だんだん帰れない日が続き、さくらちゃんが駄々をこね始めた。
その度になんとか説得して行かせていたが、今日は無理そうである。
「さくらちゃん、どうしても行けない?」
「ん〜無理〜。今日はキスされても行かなーい」
さくらちゃんは真面目で良い子だから黙って帰ったりはしない子だ。
最後の最後は行ってくれると信じてはいるが、そろそろ時間が……
「今日は欠席する? ほら、会議の内容は後で伝えるし」
矢沢さんの言葉にさくらちゃんの肩がピクンと反応する。
「さくらちゃん、今日はサボろうか? 毎日、頑張ってるもんね」
「……良いの?」
さくらちゃんが顔をあげる。
「別に良いじゃん。いや、良くはないんだろうけどさ。たまには、ね。私も一人で帰るのは寂しかったし」
ぎゅーっとさくらちゃんを抱き締める。
「どうしたいかは、さくらちゃんが選んで良いんだよ。委員会に行っても、このまま帰っても、私は嬉しいから」
「……じゃあ行く」
ポンポンとさくらちゃんが俺の背中を叩くので、俺はさくらちゃんを解放してあげる。
「今日はさくらちゃんの委員会が終わるまで待っててあげるから。だから頑張ってね」
「うん。行ってきます、りっちゃん」
俺はさくらちゃんの背を見送った。




