さくらルート38
「は~良かった」
麻衣が固まった身体を解すために伸びをする。
「そうだね」
俺も同じように短く感想を言う。
「あ、私トイレ行ってくる」
麻衣の言葉で俺も急に行きたくなった。
「ああ、私も。さくらちゃんは?」
「私は大丈夫だよ」
「ダメだ。映画館のトイレ混んでる」
麻衣に言われてトイレの方向を見ると女性の方は出入口まで列が出来ていた。皆、映画が終わったあとは同じなのだろう。こういうとき男子トイレは大して列にならないから便利なんだけど今は我慢だ。
「映画館出てすぐのところにあったと思うよ」
「本当に? じゃあ探してみるよ。映画館のそばで待ち合わせで」
俺と麻衣はさくらちゃんに教えてもらったトイレを探す。といってもすぐに見つかった。
他の人は映画館の方で順番を待っているので、こちらのトイレには誰も居なかった。
俺は個室に入ーー
「何で?」
何故か麻衣が一緒の個室に入ってきた。
「良いでしょ。二人っきりになりたかったの」
「私は一人になりたいんだけど……」
もう身体は準備に入ってるから出ていってほしいんだが。
「すぐに終わるから我慢して」
「えー」
麻衣が譲らなそうなので俺はあそこの筋肉をフル活用して引っ込める。
「それでどうしたの?」
「何でアイツなの?」
「アイツって、さくらちゃん?」
麻衣はコクリと頷く。
「アイツじゃなくて良いじゃん。クラスメイトの男子とか、お姉ちゃんが良いなら他の女の子だって。どうしてアイツなの。お姉ちゃんを裏切った奴なのに」
さくらちゃんと麻衣の間にある深い溝は中学時代のいじめだ。
だが、さくらちゃんは相島 立花との平穏な学園生活を手に入れるために行動したのだ。
相島 立花本人はどうであれ、俺は彼女を責める気はない。
だから、さくらちゃんと一緒に居る理由は単純だ。
「私が、さくらちゃんを好きだからだよ」
「また裏切られても?」
「うん」
「何度も、何度も何度も裏切られたとしても?」
「私はさくらちゃんと一緒に居ようと思う。さくらちゃんが私を必要としなくなる日まで」
「そんなの」
麻衣が俯く。
彼女の身体が震え出す。
「そんなの! アイツにとって都合の良い存在ってだけじゃん!? アイツに利用されるだけされてそれで満足だって言うの?」
麻衣の怒りの表情が悲しみへ。
「そんなの……お姉ちゃんが報われないじゃん」
麻衣の頬を一筋の涙が伝う。
相島 立花は何て幸せな少女だったんだろう。
ここまで想ってくれる家族が居るなんて。
君はどうして麻衣を置いていってしまったんだ。
俺は涙を止めようと歯を食いしばる麻衣を両腕で優しく抱きしめる。
「ありがとう、麻衣。私のために怒ってくれて、泣いてくれて。本当にありがとう。私の自慢の妹だよ」




