昼休み
「しゃあああ! 午前の授業終わり!」
俺は固まった身体を解すため伸びをした。
「さて、飯メシ」
俺は机の横にかけていたリュックから弁当箱を取り出す。
「弁当なんていつぶりだろうな。最近は食堂とコンビニだったしな」
中身は何だろうと思いワクワクして蓋を開ける。
「……こんだけ?」
掌サイズの弁当箱の半分は白米とふりかけ。もう半分は玉子焼きとタコさんウインナーそれぞれ二個づつ。
「……え? 少なくね? 女子の弁当ってこんなんなの?」
別に手抜きな感じはない。
それどころか冷凍食品を入れる時代に手間のかかる玉子焼きとタコさんウインナーをわざわざ作るなんて愛さえ感じる。
俺の母親も俺が高校生のときに毎日作ってくれてたな。
この世界の母親も毎朝早起きして作ってくれてるんだから感謝しないと。
俺は一緒についていたケースからマイ箸を出すと昼食を始め……
「どうしたの?」
視線を感じて俺が顔を上げる。
クラスメイトの女子が二人、俺の机の横でそわそわしていた。
「相島さん、その~一緒に食べても良いかな?」
「良いけど。面白い話とかは出来ないよ?」
「良いよ良いよ! 一緒に食べたいだけだし」
「それだと机が狭いな。友野、机貸して」
「え、俺の?」
今まさにコンビニのパンをかじろうとしていた友野が呆ける。
「お前も一緒に食えば問題ないだろ。それに両手に花だぞ」
「いや、俺は別に良いけど」
友野の目が二人の女子に移る。
ああ、男のノリで誘ってしまったが、友野からしたら俺も含めて女子三人に囲まれるし、女子側からしたって恋人でもないのに男と食べるのは嫌なのかもしれない。
「私は気にしないよ。凪も良いだろ?」
「う、うん」
案外うまくいった。
それなら話が早い。
俺たちは二つの机を合わせて昼食を再開する。
「いや~でも、相島さんと一緒にお弁当を食べられるなんて思わなかったな」
そう言ったのは女子の片方で黒髪は短く切り揃えられていて、目にも有り余る元気が宿っているTHE運動部な女の子。
胸はブラウスでも分からないほどのすとーん! ←おい。
「………………」
対して無言でお弁当を食べているもう片方は目まで隠れてしまうほど前髪が長く、暗いイメージがするがブラウスだけでなくブレザーまで押し広げる胸の大きさは素晴らしい! ←おいおい。
言っておくが俺はどっちも好きである。
勘違いしないでほしいのは女性の胸ならどんなのでも良いというわけではないことだ。
やっぱりハリがあり、形が整っていて…………。
何か想像したらしたらで悲しくなってきた。
現実で直接、女性の胸を拝めたことはなかった。
それなのにまさか自分がなるとは当時思ってもいなかったしな。
……ん? 待てよ。
自分に憧れの"アレ"がついてるってことは自分で揉めてラッキーなのでは?
気付くと俺の両手は自分の胸にーー
「相島さん?」
「え、あッ!? 何か!?」
あぶねっ。
急に自分の胸を揉み出す痴女になるとこだった!
落ち着け俺。
落ち着くんだ。
チャンスはいつでもある。
今は目の前の胸……じゃなくて! 二人に集中しないと。
「覚えてないとは思うんだけど。あのときはありがとね」
「あのとき……?」
何かを懐かしむように微笑む……
「その前に名前なんだっけ?」
失礼だとは思うが、名前を知らないまま話を聞くのも悪い気がした。
「そうだったね。私は矢沢 照美。こっちは中学から友達の兵藤 凪。私たちは高一のときに相島さんに助けてもらったんだよ」
「私が?」
「うん。ちょっとね。私のせいで凪が悪い奴らに絡まれちゃって。男数人が相手だったから私も手が出せなくて」
頬をポリポリ掻いて苦笑する照美。
「そのときに相島さんが警察の人を呼んでくれたから二人ともこうして元気で居れるんだ。だからありがとね」
「ありがとう、ございます」
照美も凪も俺に頭を下げる。
「えーあー。どういたしまして?」
「相島さんてヒーローだったんだね」
パンをかじりながらニヤニヤと俺を笑う友野。
後で覚えてろ。
「だからさ。高二になって相島さんと一緒のクラスになれたからラッキーだと思ったんだよね。まあ、相島さんの近付くなオーラが凄かったから一ヶ月も話せなかったんだけどね」
「え、それは何かごめん」
相島 立花という少女はどんだけボッチが好きだったんだ? それともあれか? 友達を作るのが苦手でいつの間にかにボッチか?
「これから友達として仲良くしてくれると嬉しいかな?」
願い、そして不安げな照美と凪。
相島 立花だったら断っているだろう。
だが、いやだからこそ俺は違う相島 立花で居たいと思う。
「よろしくね。矢沢さん、兵藤さん!」