天ルート2
と、いうことで、俺は素直に辞退した。
その代わりに体育祭実行委員になったのは矢沢さんと兵藤さんのコンビだった。
この二人は夏休みのときも会っているので、俺の事情を知ってくれている。
こうしてすんなりと決まったので、今日のところは解散となった。
俺たちは帰り支度を始める。
「りっちゃん」
さくらちゃんが俺の手に触れてくる。
「ん? どうしたの?」
「ごめんね。体育祭の実行委員にしてあげられなくて」
しょんぼり顔のさくらちゃん。
俺は微笑むしかない。
「何を言ってるの。さくらちゃんは私のことを思ってくれたんでしょ? 右目が見えないのは私の責任だし、あのまま実行委員になってたら怪我が増えたかもしれなかった。さくらちゃんは私を守ってくれたんだよ。だからありがとう」
「で、でも」
沈んだ声。
「でもじゃないでーす。ほら、私の感謝を受け取るが良い〜」
ぎゅーっと、さくらちゃんを抱き締める。
「……ありがとう、りっちゃん」
さくらちゃんも俺のことを抱き締めてくれる。
ああ、もう!
大好きッ!
「あの〜、相島さん?」
俺は声に顔だけ振り返る。
相手は矢沢さんだった。
隣には兵藤さんも。
「この後ってさ。用事とかある?」
「用事? ううん。帰るだけだけど」
「そっか。良かった〜」
矢沢さんが文字通り胸を撫で下ろす。
「え、何? どうしたの?」
「あー、いや。船渡先輩が、相島さんを連れて来てって」
船渡って、此方先輩のことだよな?
「何かあったの?」
「うーん。分からないけど、『瞳の能力』を持っている人を集めてるみたい」
「じゃあーー」
俺は隣の席を見る。
「うん。俺も呼ばれてる。八重橋さんと、神崎さんもね?」
「私も?」
さくらちゃんが俺の胸から顔を上げる。
「私、船渡先輩は苦手。なんだか怖いから」
さくらちゃんの腕に力が込もる。
俺を守るように抱き締めてくれる。
「あの人、私の目を怖がらなかった。死ぬのに躊躇いがないみたいだった。だから、怖い」
ああ。
さくらちゃんが『瞳の能力』で殺そうとしたときも、右目を要求したときも、此方先輩は笑っていた。
未練などないとでもいうように。
悪い人ではないのは分かったけど、確かに怖いのは同意かもしれない。
いや、本当に優しくて良い人なんだけどね?
「何の用事か気になるし、行くしかないよね」
俺たちは、かぐやとも合流して此方先輩に指定された空き教室へ。
始業式しかなかったので、外も静かだ。
だけど空き教室には跳ねるような声。
中に居たのはーー
「あ! 相島様!」
彼方先輩だった。




