外伝ルート 瞳と宴と32
勝敗は決した。
勝者はそのままの流れで赤組だった。
残っていた騎馬が退場していく。
だが、一騎だけ俺たちの前に来る。
「楽しんでくれたかい、相島」
兜の下につけていた面頬を外して此方先輩は微笑む。
「はい! 間近で見れて興奮しました!」
この身体になる前は戦国時代を舞台にした某ゲームが好きだったから本物が見れて熱くなっている。
「此方先輩はやっぱり強いんですね」
此方先輩は三人を倒す大快挙だったのだ。
試合終了後にはまさに溢れんばかりの歓声と拍手が此方先輩に送られていた。
「君のおかげだよ」
此方先輩が馬から降りる。
「君が居たから、こうして私はここに居るんだよ」
「あ、まあ。それはもう良いですよ。お礼なんて数え切れないぐらいもらってますから」
此方先輩の言葉に恥ずかしくて俺は苦笑してしまう。
こうしてお祭りに来れるのは妖怪との戦争が終わったから。
そう思うと、やっぱり感慨深いなぁ。
「船渡、次の演目が始められないので早々に立ち去りなさい」
薫さんの方を見ると、にっこり笑顔。
だけど言葉は棘があって痛々しい。
「言われなくても分かっているよ。守羽家の番犬はよく吠える」
此方先輩は面頬を付け直すと、馬に乗る。
「じゃあまた。引き続き楽しんでくれ」
優しく目を細めて此方先輩は去っていく。
すると、周りの観客から視線を集める。
「お嬢ちゃんたち何処の子だい?」
「守羽家とも船渡とも縁が深いなんて」
「きっと立派な家のご令嬢なんだろう?」
どうやら俺たちはとても目立っているらしい。
守羽さん、薫さん、そして此方先輩。
朱乃宮でも有力な人たちと仲良しだと、この辺に住んでる人たちからしたら驚くことなのだろう。
返答に困っていると、薫さんが観客たちに振り返って微笑む。
「この方たちは守羽家の大事な宝です。何かあれば助けてくださると嬉しく思います」
薫さんの言葉に観客たちからは、おお〜という声。
宝って更に凄くなった気がする。
「か、薫さん」
俺は薫さんに小声で囁く。
「それは言い過ぎなんじゃないですかね。私たちそんなに凄いわけじゃ」
「あら?」
薫さんは口に手を当てて上品にクスリ。
「姉様が仰っていたことです。何かあれば守羽の名で守ると。姉様から守羽の名を使って良いと言われてませんか?」
「名前? ああ〜」
そういえば俺が此方先輩に捕まって牢屋に入れられたとき。
そこから出してくれた守羽さんが言ってたっけ。
「でもあれは、此方先輩に対抗するためで。今はもう此方先輩とは争ってないし」
「お嫌でしたか?」
薫さんの笑みが苦笑になってしまう。
ああ、ズルいよもう。
「い、嫌じゃないです」
「では、これからもよろしくお願いします。姉様も喜びますから」
なんだか嵌められた気がするが黙っておこう。




