外伝ルート 瞳と宴と20
「さくらちゃん、怒ってくれるのは嬉しいけど。それだけはダメ」
「……分かってるよ、りっちゃん」
さくらちゃんの瞳からハートマークが消える。
「言っておくけど。神崎、君の能力は相手と瞳を合わせないといけない。一度瞳を合わせたら強いが、目を逸らされたら効かないよ。君の能力のトリガーは、相手の目を認識すること。違うかい?」
「……分からないです。相手をドキドキさせることしか知らないので」
「ははッ! それはなんとも危険だね。まあ、何が言いたいかというとだね」
此方先輩は仮面に触れる。
「今の私に君の能力は効かないんだよ。残念ながらね」
「だとしても」
俺は此方先輩を睨みつける。
「さくらちゃんに誰も傷つけさせません。喧嘩なら私が買います!」
「……ふふっ」
此方先輩の笑みが弧を描く。
「本当に能力者は面白い人ばかりだ。羨ましくさえ思うよ」
此方先輩の手が俺の着物の襟に。
「ぐっ!?」
首ごとぐいっと力強く引っ張られ、此方先輩と唇が重なった。
無理矢理なキスからすぐに解放される。
呆ける俺。
対して此方先輩は嘲笑う。
「どうした、神崎? また能力が発動しているぞ?」
「りっちゃんは、私のです」
今度はさくらちゃんに身体を引っ張られーー
「むぐッ!?」
さくらちゃんの唇に吸い込まれた。
そして舌まで絡ませられる。
「ぷはッ! はい。上書き終了」
頬を赤く染めたさくらちゃんが微笑む。
「おやおや。人前で大胆だな」
此方先輩は顔だけ舞台を向く。
「演目は守羽たちが上手く治めてくれているみたいだ。さて、私は帰らせてもらおう」
「此方先輩!」
俺はさくらちゃんに抱き締められたまま声を上げる。
「……なんだい、相島?」
仮面の笑みがこちらを向く。
「彼方先輩は来てるんですか?」
「姉さんかい? ああもちろんさ」
「此方ちゃん」
背後からの声。
怒りが混じったような声。
俺とさくらちゃんは振り返る。
目の前に居たのは、此方先輩と同じ姿の人物。
違いは顔につけているのが、白い仮面か、白い包帯か。
「姉さん、隠れていてくれとお願いしたはずだけど?」
此方先輩の溜め息。
「先に約束を破ったのは此方ちゃんです。役のためと言っていたのに、此方ちゃんはまた他の人を傷つけているではないですか」
「間違っていないよ、姉さん。私はオロチ役だったんだ。敵の役である守羽に刀を振ってもおかしくない」
「真剣だったじゃないですか! もし、怪我でもしたらどうするんですか!?」
「手加減ぐらいはするさ。ほら、姉さん。戻ろうか」
彼方先輩が俺を見る。
「相島様、申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
「い、いえ私は平気です」
「船渡ッ! 待ちなさい!」
後ろから守羽さんの怒号!
「おや、守羽に説教されそうだ」
此方先輩はクスリと楽しげに笑う。
「相島」
「は、はい。何ですか?」
俺は緩んでいた警戒を引き締め直す。
「今夜は神が集まる。巻き込まれたくなければ大人しくしておくことだ」
此方先輩はそれだけ言い残すと、彼方先輩の手を取って走り去った。




