彼方ルート121
俺と守羽さんは数人の巫女さんを引き連れて廊下を進む。
今のところ他の人たちにはバレていない。
このままいければ良いが。
「ここです、彼方様」
守羽さんの声で丈夫そうな木の扉の前で俺たちは止まる。
背後にいた二人の巫女さんが観音開きになっている木の扉を開けてくれる。
「…………」
静かで、厳かな式場。
床は暗い色の板で柱も同じ色の木材。
自然に囲まれているような錯覚を感じる。
そして俺たちに背を向けるのはスーツや着物の参列者たち。
座布団の上に座る人たちは、意外にも二十人ほどしか居なかった。
大きな部屋だから空きスペースが多くて少し寂しさも覚える。
「思っていたより少ないんですね」
「彼方様の式ですので。朱乃宮に連なるものたちの中でも、有力な方たちだけが参列なさっています」
俺の漏らした声に守羽さんが答えてくれる。
「ちょっと」
後ろからの声に俺は振り返る。
「早く行ってもらえるかしら」
俺たちが扉で立ち止まっていたからだろう。
相手の女性は不機嫌そうだ。
「あ、すみまーー」
俺を庇うように前に出た守羽さんが恭しく頭を下げる。
「春陽様、参列者の受付はすでに終わっているはずです。私どもに非はないかと」
だけど言葉には棘があった。
「私は当主ですよ? 何か問題でも?」
だが、相手の女性も強気に返す。
「……すぐに着席を」
守羽さんはそれ以上、何も言わなかった。
「彼方」
春陽と呼ばれた女性に俺は顔を向ける。
「失敗はしないように。あなたには嫁ぐ以外の価値がないのですから」
それだけ言うと、春陽さんは参列者の一番前の座布団に正座した。
何か感じ悪いな。
「あれ、誰なんですか?」
俺は周りに聞こえないように守羽さんに小声で訊く。
「朱乃宮の現当主の朱乃宮 春陽様よ。彼方様と船渡の母親」
「あの人が……」
たしかに色素が薄くて白に近いが、彼方先輩たちと同じ水色の髪だ。
黒い着物姿で頭をお団子でかんざし留めなのでいかにも格の高い女性に見える。
ぱっと見、ギャルゲーの法則で若く見えたが、母親で間違いないのだろう。
だけど彼方先輩に変装している俺への態度が冷たかった。
いや、山の上の神社に閉じ込めておくぐらいなのだから、あまり良好な関係ではないのかもしれない。
「相島」
守羽さんが俺の方の名前を呼ぶ。
「相島は直接、誰かと話さなくて良いわ。朱乃宮では彼方様に神様である無限様が宿ってることは伝わってる。こういう公の場で神様と直接、顔を合わせて話すのは禁忌になっているから私を通して会話して。良いわね?」
「はい」
声だけは真似ることが出来ないが、直接話さないのならば大丈夫そうだ。
ご都合主義万歳。




