彼方ルート116
「だとしても」
守羽さんが立ち上がる。
「あなたの罪は重い。この世界では誰も死ななかった。だけどーー」
一度、守羽さんは俺を悲しげに見て、そして此方先輩に向き直る。
「朱乃宮の人間もクロハたち妖怪も、そして相島も死んだ。船渡、あなたは悪よ。神でもなんでもない。ただの殺人鬼よ」
守羽さんの憐れみの瞳を此方先輩は受ける。
「君もしつこいな。裁きたいのなら、裁けば良い」
此方先輩の深い溜め息。
「相島」
仮面を外した此方先輩が俺を見る。
「君には言ったね。姉さんのことに責任を持ってと」
彼女の視線は膝で眠る彼方先輩へ。
「姉さんはこの夏に結婚する。もう幾日もない。それも何処の誰かも分からない相手にだ。恋も知らない姉さんには絶望だろう」
監禁され、知らない人と結婚させられ、後継ぎを産ませられる。
そんなのは現代ではあってはならない。
女の子は好きな人と幸せになるべきだ!
「だから相島、君にーー」
「朱乃宮存続のために必要なことなのよ」
守羽さんが此方先輩を遮る。
「朱乃宮の後継ぎは彼方様しかいらしゃらない。千年の血筋を途切らせるわけにはいかないのよ」
「後継? 血筋? はッ!」
此方先輩が嘲笑う。
「ふざけるなよ。姉さんの人生は姉さんのものだ。お前らのものじゃない」
静かな怒り。
語気が荒くなる。
「姉さんは子を産むだけの家畜じゃない」
「家畜なんて無礼よ、船渡!」
「無礼はお前らだ!」
此方先輩の左目に骸骨マークが刻まれる。
「姉さんは小さい頃から閉じ込められていたんだ。だというのにお前らは姉さんに更なる苦痛を強いる」
吸う空気が重くなる。
毒が混じっているんだ。
「また私たちを殺す気なのかしら?」
守羽さんが此方先輩を睨みつける。
彼女の両手には金属の杭が一本ずつ。
そして両目には『狙撃の瞳』。
「望み通り裁いてあげるわよ」
このままではまた争いが始まる。
止めないと。
もうそんなのは見たくない。
「……あれ?」
俺は驚くほど自分が冷静なことに気付く。
頭の隅で分かっているんだ。
この二人は争いたいわけじゃないと。
でも互いに退けない。
大事なものを守るために。
だったら俺が無理矢理にでも割り込むしかない。
「此方先輩」
俺は守羽さんの邪魔をするように立つ。
「私が責任を持ちます。だから彼方先輩が望むことを教えてください。此方先輩のでも、無限さんのでも、そして朱乃宮のでもない望みを」
彼方先輩の願い。
それこそ此方先輩の願い。
だから次はーー
「だけど条件があります」
俺は守羽さんに振り返る。
「彼方先輩の望みを叶えたら、薫さんを起こしてください」
俺の言葉に守羽さんは目を丸くした。




