さくらルート22
「絆の……結晶?」
なんだそれ?
「あなたたち人間は産まれたときにそれぞれ原石を持っています。そして年を重ねていくうちに原石は宝石へと姿を変える。それが《絆の結晶》。それはその人間が他人とどう生きてきたかによって色や大きさ、形が変わります」
「それが砕けていた?」
「色はプリズムの虹のようでした。きっと幸せと形容して良い人生だったんでしょう。それが何故か粉々に砕けていた。とても不思議で観察対象に相応しいと思いまして」
がらんどうなはずの神様の仮面の瞳が仄かに赤く光る。
まるで俺の何かを見透かされているように。
「どういうときに《絆の結晶》は砕けるんだ?」
神様は腕を組んで考え込む。
「今まで見てきたなかですと人体が堪えきれないほどの"絶望"を受けたときに《絆の結晶》は砕けました。ためしに見ますか?」
神様が俺に手を伸ばすとスーっと何かが胸から抜けていく。
それは宙に浮いた虹色に輝く無数の欠片。
絆が打ち砕かれた証拠。
『絶望』と神様は言った。
安直でラノベのイタイ敵ボスがよく使う単語だが、本当にどうしようもなくて、生きたいという気持ちより死にたいという気持ちが上回ったときに人はそう思うのだろう。
それを相島 立花は思ったのだ。
どうせ死ぬなら他人に身体を預けても良い。
そう思ったからこそ俺はここに居るのかもしれない。
自分ではなく誰かが代わりに人生を送ってくれるのだから。
「……相島 立花は死んだのか?」
神様は欠片のひとつを手に取ると残りを俺に返す。
「いいえ。私が厳重に保管しています。身体を失った魂は消えてしまいますから」
「この結晶を元に戻すことが出来れば相島 立花を救えるのか?」
「砕けた《絆の結晶》は元には戻りませんよ。本当の宝石のように成長して大きくはなっても欠片がくっつくことはありません。それでは彼女は元の身体に戻ることを望まないでしょう」
「じゃあ《絆の結晶》を前よりも大きく成長させればまだこの身体に彼女を戻すことは出来るんだな?」
「可能です。相島 立花が望むかどうかは別として」
それを聞けただけで良かった。
あとは勇気を出してさくらちゃんに当時のことを訊いてみよう。
「ありがとう、神様。あとはこっちでどうにかしてみる」
「そうですか。それでは幸運を」
それだけ言い残すと神様は目の前から消え、時間が動き出す。
「相島 立花。俺は君を救ってみせるよ」




