彼方ルート85
俺は本殿の中で目を覚ます。
クロハたちの戦いから一夜が明けた。
雑魚寝していたから肩や腰が痛い。
周りでは、すでに起きている人や疲労でまだ寝ている人が居る。
皆、何をするまでもなく虚空を見ている。
俺の目は奥の御簾へ。
明かりの消えたそこでは彼方先輩が寝ているのだろう。
力を使いすぎたせいか、無限さんと入れ替わった彼方先輩は眠ってしまったのだ。
「相島」
声に顔を上げると、目の前に此方先輩が居た。
「少し散歩に行かないかい? 見回りがてらに外の空気を吸おう」
「……そうですね」
俺は此方先輩の提案に乗って立ち上がる。
身体を解して二人で本殿を出る。
本殿には陽の光が射してきて少し眩しい。
山の上だからだろうか。
夏だというのに朝の涼しい風に癒される。
俺たちは無言のまま本殿から拝殿、そして神社の入り口まで。
鳥居の道を降りていく。
「目の調子はどうだい?」
階段の途中で此方先輩が立ち止まる。
俺は右の瞼に触れる。
「ああ、大丈夫ですよ。特に痛みとか違和感はありません」
昨日の熱が嘘のようになくなり、普段と変わらない。
「そうか。それは良かった」
本当にそう思っている様に此方先輩は安堵の表情で微笑む。
「此方先輩こそ怪我は?」
「私も大丈夫だよ。まあ、アカメとの戦いは辛かったけど、それだけだよ。君が走り回ってくれたおかげで私は自分の戦いに集中出来た。ありがとう」
それと、と此方先輩は申し訳なさそうに眉を垂らす。
「君は姉さんの世話役なのに戦いに巻き込んでしまってごめんね」
俺は首を振る。
「良いんですよ。私は彼方先輩を助けるために来たんですから。これは私がやりたかったことです」
「……そうか。そう言ってもらえると私の心も楽になる」
苦笑する此方先輩。
やっぱり彼方先輩に似ている。
さすが姉妹だ。
「相島」
「はい?」
唐突に真剣味を帯びる此方先輩の声。
「昨日も無限様に訊かれていたけど、君はどうしてスズを殺さなかったの?」
「理由は単純ですよ。女の子は殺したくない。私は女の子を助けたいんです。殺すなんてまっぴらごめんです」
俺も真剣な声で返す。
「ふふっ。あはは」
此方先輩が口を開けて笑った。
「ど、どうして笑うんですか?」
「いやなに。君が私たちを”女の子“と言うから少しおかしくてね。まるで君が私たちより年上みたいに聞こえるからね」
「ああ、ははは……」
実際は本当に年上だから感覚が抜けていないみたいだ。
互いに笑い合う。
「へえ。そうなんだ」
「…………え?」
何処からか第三者の声。
「それなら“私たち女の子”も助けてもらおうかな?」
「!?」
視界を覆おうとする何か。
「相島ッ!?」
此方先輩が俺に手を伸ばす。
俺も此方先輩に手を伸ばす。
だけど手が繋がる前に世界は真っ暗になる。
「ようこそ。妖怪の山へ、相島」




