彼方ルート68
恥ずい。
キス顔とか恥ずいんですけど。
「相島」
俺は声に振り返る。
「……何してるの? なんか、そのー、すごい顔だったわよ?」
そうして守羽さんに見られたー!
うわ、何この子って顔されてるッ!?
「ち、違うんですよ! これは恋人が写真を撮って欲しいっていうから仕方なくッ! 寂しい思いをさせてたからですよ!」
俺が必死に言い訳を繕うと、守羽さんが隣に座る。
そして俺の肩に頭を乗っける。
「さっきね、薫の主治医が来たの」
ポツリと守羽さんが呟く。
「長くないって。このまま目覚めなかったら、衰弱して、そのまま」
その先は言われない。
だけど言われなくても検討はつくだろう。
「もう、ダメみたい。どうすれば良い……?」
守羽さんが俺の腕に縋りつく。
「私が、私が全部奪ったんだ! 私のせいで薫は!」
守羽さんが叫び泣く。
周りには多くはないとはいえ来院している人が居る。
それでも守羽さんは泣いたのだ。
周りのことを気にすることが出来ないほど守羽さんは悲しいのだ。
俺に縋りつくほど苦しいのだ。
「……まだ死んでません」
俺はそれだけを絞り出す。
あの死の匂いを嗅いでから言葉が麻痺してしまっている。
「もう死ぬわよッ! 薫は目覚めないわ!」
俺の服の袖が涙で濡れていく。
あの守羽さんが泣いている。
胸が苦しい。
「死んでません! 薫さんは生きてます! 守羽さんが勝手に殺しちゃダメです!」
俺は薫さんの死にゆく道を否定することしか出来ない。
「一年間目を覚さないのよ!? もう、起きないわよ……」
守羽さんの声が沈んでいく。
瞳から光が消えていく。
ピシッ
「!?」
守羽さんからヒビが入ったような音。
まさか!?
「神様ッ!?」
俺は思わず叫ぶ。
時間が止まる。
「どうしました?」
神様が俺の前に立つ。
「結晶! 守羽さんの《絆の結晶》は!?」
俺の考えが伝わったのだろう。
神様は守羽さんに右の掌を向ける。
「おや」
神様から間の抜けた声。
そしてーー
バキバキバキ
バキン
守羽さんからぽろっと青い結晶が零れ落ちる。
だがそれだけでは収まらず、次々と結晶が雪崩のように床へと流れ出した。
俺はこの光景を知っている。
守羽さんは“絶望“したのだ。
「残念ですが、遅かったようですね」
神様は相変わらず淡々と言う。
だけど俺自身も静かなものだった。
だってーー
→《やり直す》
《諦める》
すでに俺の網膜には選択肢がある。
ならばやることなんて決まっているのだから。
「守羽さん、待っていてください。あなたを絶望から救い出して見せますから」
俺は動かぬ守羽さんを抱き締めると、ゆっくりと瞳を閉じた。




