彼方ルート 幕間4
相島たちの居る神社の敷地の外。
結界から外れた妖怪たちが支配する山の中。
「…………」
クロハは木々に囲まれた小さなボロ小屋の中で瞳を閉じて、静かに雑魚寝していた。
ここは静かで誰も寄り付かないからクロハのお気に入りの場所だった。
だけどーー
「クロハ様? 具合でも悪いんですか?」
クロハを窺う幼い声。
クロハは薄暗い部屋の中で瞳を開く。
「ああ、スズ様」
クロハは微笑む。
彼女の目の前に居るのは幼い少女。
山伏の衣装は大きくダボついている。
そして金糸の短い髪から飛び出る耳は三角に尖って、時折ぴょこっと動く。
由緒ある妖狐。
クロハは彼女の頭に手を伸ばす。
「どうしたんですか、こんな寂れた場所に?」
頭を撫でると、クーンと少女は嬉しそうに鳴く。
「子供扱いしないでくださいよ〜。こう見えてもクロハ様より数十年も年上なんですからね?」
「分かっていますよ。親しみを込めて、です」
「なら許します」
彼女のお尻から生える大きく太い金色の尻尾がブンブン振われる。
彼女の気分が良いとクロハの疲れも癒やされていく。
「スズ様こそ、体調はよろしいんですか?」
「はい。この頃は大丈夫です。クロハ様や烏天狗さんたちのおかげです!」
ふふっ、とスズは微笑む。
「お昼ご飯が出来ましたよ。冷めてしまう前にーー」
立ち上がろうとしたスズ。
クロハは彼女の華奢な腕を掴み、自分の胸に引き寄せる。
「クロハ、様?」
「少しだけ、こうさせてください。少々疲れてしまいました」
「……そう、ですか」
スズも腕を伸ばしてクロハを抱き締める。
「クロハ様は頑張ってます。十分過ぎるほどに」
今度はスズがクロハの頭を撫でる番。
「西の妖怪は人に敗れ、この世を去りました。私のお母様も最期まで戦い続け、討たれました」
「…………」
クロハはスズの言葉に黙って耳を傾ける。
スズは続ける。
「ですが、クロハ様たち東の妖怪は未だに抗い続けています。朱乃宮という恐ろしい相手に対して諦めずに」
「朱乃宮打倒が、私たちの悲願ですから」
「クロハ様が妖怪たちの希望の御旗なんです。私もあなたのおかげでこうして消えずに居れるんですから」
「スズ様」
互いの距離を少しだけ開けて二人は瞳を合わせる。
「私は、そんな頑張り屋さんのクロハ様をお慕えしています」
鼻と鼻が触れ合う。
これはスズなりの親しい者への気持ちの表れ。
クロハはそれを知っているから思わず頬を赤くする。
「スズ様の動きのひとつひとつが可愛くて、心臓が保ちませんよ」
「ふふっ。何ですか、それ」
スズは立ち上がり、クロハに手を伸ばす。
「ご飯にしましょう、クロハ様」




