彼方ルート43
そのまま俺たちは寮へ。
寮には他に誰も居ないのか、とても静かだった。
「昼間、他の人たちは自分の仕事で寮に居ないわ。だから二人っきりになれる」
俺たちの自室に連れ込まれる。
そして正座させられる。
「それで、条件って何ですか?」
俺が聞くと、守羽さんが後ろ手に襖を閉める。
俯く彼女からは表情が読めない。
「相島から見て私はどんな人間?」
「え?」
唐突な質問に俺は困惑してしまう。
「素直な言葉が聞きたい」
「素直、素直ですか」
俺はうーんと小さく唸る。
どういった言葉が正しいのだろうか。
いや、素直な言葉なのだから、思ったままを言うしかないのか。
「そうですね。第一印象は最悪でしたね。馬鹿にされたので」
初めて会ったときに守羽さんには見下されていたように思う。
出会いとしては悪い方だろう。
「……そうね。あれは私が悪かったわ」
守羽さんが俯いていた頭をさらに下げる。
「でもまあ、今は少し厳しいお姉さんですかね」
俺は思わず苦笑してしまう。
守羽さんとは出会ってからあまりにも日が浅いが俺の中ではすでに第一印象は上書きされていた。
「それは、良い意味で言ってくれてる?」
「ええもちろん」
「だったらーー」
守羽さんが俺の目の前で正座する。
膝が当たるほどの近い距離。
「守羽さん……?」
顔を上げた守羽さんの瞳は少し熱っぽく濡れていた。
「抱き締めても良い?」
「え? ええッ!?」
守羽さんの言葉に俺は声をあげてしまう。
「ダメ、かしら?」
しゅんと落ち込む守羽さん。
その姿が少し可愛いと思ってしまう。
「良いですけど」
だからつい許可してしまった。
守羽さんが俺にギュッと抱き着いてくる。
「守羽さんは甘えたかったんですか?」
「…………」
守羽さんは何も答えない。
仕方がないので俺も彼女の背中に腕を回す。
「驚きましたよ。守羽さんも甘えたいときがあったんですね」
「……私だって休みたいときぐらいあるわ」
ボソリと耳元で呟かれる。
「そうですよね。でも嬉しいです。会って間もない私に甘えてくれるなんて」
「ここじゃ私は嫌われてるもの」
守羽さんの腕に力が込もる。
「捻くれてるし、守羽の名前をすぐに振りかざすし。私は優秀だから皆、何も言わないけど、心の中では良くないことを思ってるはずよ」
ああ、と思った。
守羽さんはやはりかぐやに似ているなと。
でも、守羽さんは孤高にはなれなかった。
きっとそばに誰かが居てくれたんだろう。
だけど今は居ないから寂しいのかもしれない。
「相島は、恋人が居るんだっけ?」
「え? はい」
唐突に何かと思ったが、守羽さんが照れ隠しで世間話を振ってきたのだと思った。
「なら、キスはしない」
「……へ?」




