彼方ルート22
「と、止まった?」
俺はアカメの顔を覗き込む。
「すうっ〜すうっ〜」
彼女はスヤスヤ眠っていた。
「よくやったな。褒めてやる」
振り返ると、彼方先輩が微笑む。
「彼方先輩、なんですよね?」
「いや、今は違う。我はこの子の身体を借りているに過ぎぬ」
古風な話し方の彼方先輩。
いや、別の誰か。
もしかしてーー
「神格化された朱乃宮初代当主、ですか?」
「ほう」
誰かは面白げに笑う。
「そうだ。我は朱乃宮 無限」
「は、はあ」
……名前が厨二っぽい。
「今、馬鹿にしただろ?」
「してないですッ!?」
この人、心を読めたりしないよな!?
「相島!」
此方先輩と守羽さんが本殿に駆けて来る。
「船渡に守羽か。慌ただしいぞ」
「無限さま、申し訳ありません」
守羽さんが此方先輩を止めて一緒に跪く。
「外はどうなっている?」
「はい。攻めて来た烏たちは討ちましたが、クロハには今回も逃げられました」
此方先輩の報告に彼方先輩は静かに瞳を閉じる。
「クロハは狡猾な奴だ。仕方あるまい」
彼方先輩は床に落ちていた包帯を拾う。
「船渡、包帯を巻いてくれ。今日はもう休む。警戒は怠らぬようにな」
此方先輩は短く応えると、彼方先輩の隣に座り、包帯で黄金の右目が隠される。
すると、彼方先輩の体が揺らめく。
「お休み、姉さん」
此方先輩は彼方先輩の身体を支えて布団に寝かせる。
小さな寝息を発てて彼方先輩は眠りにつく。
「今のはどういうことですか?」
俺が問うと、立ち上がった此方先輩が振り返る。
「見たままだよ。姉さんの中には初代当主の魂が宿ってる」
妖怪も居るんだから幽霊なんて今さらか。
「朱乃宮 無限。朱乃宮家で一番の陰陽師であった人だ。遥か昔に亡くなっているけど、神格化された彼女はこの土地で眠っていた。そして今は姉さんと一緒に居る。それだけだよ」
「そう、ですか」
無理やり彼方先輩が話を切り上げたように感じた。
俺もそれ以上追求しないほうが良いのかもしれない。
「相島は休んで良いよ。守羽も今回の戦いの報告をまとめたら休んで」
「あなたに言われなくても分かってるわ、隊長」
守羽さんは不機嫌そうに鼻を鳴らして本殿を去っていく。
「此方先輩は?」
「私はもう少し姉さんの様子を見てるよ。瞳の能力を使った後だから心配だし。それに警戒を続けないといけないからね」
「分かりました。お休みなさい」
「ああ」
俺も挨拶だけ済ませて本殿を出る。
「うっ」
思わずえづいてしまう。
灯籠に照らされた地面には、まだらな血痕。
生々しい戦闘の痕。
風に血の臭いが乗る。
「本当に殺し合ったんだ」
妖怪たちが攻めてきて戦った。
その戦いで俺は一度死んだ。
そういえばクロハに倒された子たちは無事だろうか?
ここに居ないということは運ばれたと思うのだが。
「相島」




