彼方ルート9
巫女さんの空気を吸いながら(断じて変態ではない)着いたのは元々は社務所として使われていた場所を改装した建物。
今は巫女さんたちの寮のようなものになっているらしい。
案内された部屋は予想通りの畳の和室。
畳六枚だから六畳間というやつだろう。
「すまない。人数が多くて相部屋になってしまうが平気かな?」
「え、まあ良いですけど」
確かに部屋には誰かの荷物がすでにあった。
同室の人のだろう。
「そうか。相手は後で紹介しよう。まずは風呂に入ったらどうかな? すぐに湯を準備させる。それまでは部屋でゆっくりとすると良い」
「それは助かります。もう汗だくで。此方先輩は涼しそうですね」
「まあ、この環境に慣れているからね。貴重品はそこの棚。タオルもそこに準備してあるから顔だけでも洗ってくると良い。井戸は先ほど通って来たところにあるから。使い方は分かるかな?」
「いや、使ったことはないですけど。桶を落として引っ張れば良いんですか」
「ふふっ」
え、俺おかしなこと言ったか?
「そこまで古くはないよ。今はポンプで動かしてる。まあ、ポンプも手動なんだけどね」
「ああ、映画で見たことありますよ。実際にあるんですね」
「ここはドがつく田舎だからね。あ、言い忘れてたけど電波届いてないから」
「えッ!?」
それってつまりーー
「電話とか出来ないんですか?」
現代人が携帯やスマホを使えないのはヤバいと思うんだが。
「そこは大丈夫だよ。有線を引いてるから電話は出来る」
「な、なんだ〜」
ひと安心して胸を撫で下ろす。
「まあ、テレビも見れないけどね」
「……帰りたくなって来ました」
俺、テレビっ子なのに。
「娯楽はないけど一日中忙しいから退屈にはならないよ」
「え、ブラックなんですか?」
「今さら何を言っているんだ。命をかけて妖怪と戦う時点でブラックだよ」
「た、確かに」
ヒロインを救うために格好をつけたは良いが、労働と考えると一気にやる気がなくなってくる。
ん?
「そういえば聞かなかったですけど、何日ぐらいここで働くんですか?」
「ん? ああ、言っていなかったね。姉さんが結婚するまでだから約一ヶ月かな」
「…………へ?」
一ヶ月……?
八月の下旬までここに居るの?
夏休みが潰れるやん。
嘘やろ……
「帰って良いですか?」
「妖怪に食われても良いなら構わないよ。私は忙しくて護衛してあげられないから」
「…………」
「だから確認したじゃないか。引き返すなら今だと」
「…………」
完全にやられた。
いやまあ、俺が確認しなかったのが悪いんだけど。
でも此方先輩はニコニコ笑っているからわざと黙っていた可能性が高いな。
ここは諦めるしかないか。
まあ、とりあえずーー
「電話借りて良いですか? 夏休みの課題を持って来ていないので」
「確かに大事なことだね」
此方先輩はクスクス笑った。




