彼方ルート2
俺が名を呼ぶと彼方先輩が目を丸くする。
「どうして君はその名前を知っている?」
「え? あ!」
彼方先輩が訝しげに瞳を細めたので俺は気づいた。
俺たちは初対面のはずなのだ。
同じ学校とはいえ、部活や委員会で関わりがなければ先輩の名前など知らないだろう。
それに加えて急に名前呼びなど違和感がある。
…………ん?
あれ?
『さつかそ』のことを思い出して今度は俺の方が違和感を覚えた。
確か『さつかそ』では彼方先輩は主人公とは違うお嬢様学校に通っていたはずだ。
主人公と出会ったのだって、近所の公園で思い悩んでいた彼方先輩に声をかけたのが始まり。
それに少しだけ雰囲気が違う。
『さつかそ』と少し違うのか?
「りっちゃん」
「…………え?」
さくらちゃんの声に遅れて反応する。
「どうしたの? 気分が悪い?」
「ううん。大丈夫。考え事してただけだから」
「話を戻して良いかな?」
俺は声の方を見る。
「何ですか?」
「君が言ったのは私の姉の名だ。君とは接点がないはずだが?」
「姉?」
その人が彼方先輩だとしたら目の前の人は誰だ?
『さつかそ』では彼方先輩に妹は居なかったはず。
…………いや待てよ。
確か彼方ルートのハッピーエンドで生き別れの妹が出てきた覚えがある。
シナリオの最後の最後だったから詳しい情報は知らないが居たわ。
じゃあ彼女はーー
「此方先輩ですね」
「ほーう。私のことも知っているのだな。君は不思議な人みたいだ」
そこで此方先輩は一度咳払いをする。
「自己紹介がまだだったね。私は船渡 此方。この学校で瞳の能力を持つ者たちのまとめ役をさせてもらっているよ」
「ふなわたし?」
「船で渡す。まあ、そのままだね」
何か洒落た名字だな。
そしてやはり俺の知っている彼方先輩とは名字が違う。
この世界でも生き別れているのか?
「それで話って何ですか? 私忙しいんですけど」
相手が先輩でも強気なかぐやは正直言って凄いと思う。
「それはすまない」
だが、それを微笑んで受け止める此方先輩は器が大きいのだろう。
「頼み事があるんだ。だから君たちを呼んだ。夏休みは暇かな?」
此方先輩の質問に俺たちは互いの顔を見合わせる。
「私は特に用事ないですよ」
夏休みは家でだらだらしていようと思っていたし。
「私はコンクールがあるから予定があります」
「わ、私も家族で旅行に行きます」
かぐやもさくらちゃんもリア充だな。
青春してるな~。
て、ん?
「さくらちゃん旅行行くの?」
「うん! お父さんとお母さんがまとまったお休みを取ってくれたから!」
さくらちゃんの家は両親が共働きで帰りが遅い。
だからさくらちゃんはいつも家で一人過ごしていた。
それが彼女の心を歪ませてしまった一因でもあったけど。
今の関係は良好なようだ。




