かぐやルート81
休み明けた登校日。
謹慎処分を食らっていた俺を皆が腫れ物扱いにすると思っていたのだがーー
「おはよう、相島さん!」
「相島さん、謹慎解けて良かったね!」
「よっ! 世界チャンピオン!」
クラスメイトーー特に女子たちから何故か歓迎ムードで迎えられた。
「友野、私はいつからこんな人気者になったの?」
「相島さんは前から高嶺の花だよ。まあ、今回のはお手柄ってことだね」
「何だ、お手柄って?」
「隣のクラスの神代って奴。相島さんがぶん殴ったんでしょ?」
「ああ、そうだね」
だってかぐやの想いを踏みにじったし。
「そいつ真面目そうに見えて実は女ぐせが悪かったんだってさ。で、今回は八重橋さんに乗り換えようとしたから元カノがバラしたんだよ。神代は女の敵だって。前から女子たちの間では噂になってたんだって」
何それ。
あいつ、ただのクズやん。
「まあ、神代は外面が良いからあくまで噂止まりだったんだけどね。ついに化けの皮が剥がれったってわけだ」
神代のことを友野は嬉しそうに話す。
「神代と何かあった?」
「いや別に。モテる奴だからざまあって思っただけだよ」
「ははっ! 本当に良い性格だな!」
俺たちは、ははは、と馬鹿笑いする。
「立花!」
呼ばれたので声の方を見ると、廊下からかぐやがこちらに手を振っていた。
「おはよう、かぐや」
「ふふっ。おはよう」
俺が廊下に出ると微笑んでくれる。
「体調はどう?」
「なんともないわよ。アンタのおかげでね」
腰に手を当てて元気アピールのかぐや。
「神代は? 何かされてない?」
俺はそれが不安だった。
化けの皮を剥がされた神代がどんな行動に出るか分からなかったからだ。
「神代くん? ああ!」
かぐやはニヤニヤと笑う。
「さっき告白されたわ」
「ええ!?」
彼女にフラれたからってすぐにかぐやにコクるとか。
マジでありえんのだけど。
だけど、どうしてかぐやは嬉しそうなんだ?
「まさか……OKしたの?」
俺が詰め寄ると、かぐやが笑いを噴き出す。
「バッサリとフッてやったわよ! 『あなたはタイプじゃないから勘違いされても困るわ』って。そのときの神代くんの顔といったら。くふふ」
「な、なんだ~」
かぐやが神代と付き合わなかったことに心の底から安堵して身体から力が抜ける。
「立花ったら酷いわ。私に恋人が出来なかったのに」
「神代と付き合わなくて良かったじゃん。もし、かぐやが神代と付き合うぐらいならーー」
……あれ?
言葉が止まる。
俺、今なんて言おうとしてた?
「ぐらいなら、何?」
「あ、いや。別に」
「あ、そ」
かぐやが溜め息を吐く。
「神代くんと付き合うぐらいなら"私が付き合ってあげる"って言葉を期待してたんだけどな~」
「へ? ぐほッ!?」
かぐやの言葉に呆けると、背中に何かが突撃する。
「ふふっ。冗談よ。だからそんな怖い顔はしないで、神崎さん」
「え、さくらちゃん?」
俺が振り返ろうとすると、後ろから腹に腕が回される。
「浮気ですか、りっちゃん?」
「しないしない。もう、かぐやのせいでさくらちゃんが拗ねちゃった」
「あら、ごめんなさい。本当に神崎さんは立花が好きね」
そこでチャイムが鳴る。
「ホームルームが始まっちゃうわね。じゃあね、立花」
「うん。じゃ」
かぐやが自分の教室に戻る。
だが、すぐに踵返してきた。
「もし、呼び出しされたらごめんなさいね。先に謝っておくわ」
「……なんのこと?」
「秘密よ」
今度こそかぐやが戻ってしまう。
…………俺、呼び出されることしたっけ?




