かぐやルート76
次の日の土曜日。
「……何でこうなっているのよ」
場所はかぐやの家の自室。
主である本人は腕を組み、ベットに座ってこめかみをピクピクさせている。
「いや、だって人を呼べる広い部屋があるのがここだったから」
「だからって押し掛けてくることないでしょ?」
「事前に連絡したよ。さっき」
「家の前に着いてから連絡するのが事前って言うわけないでしょ!?」
「まあまあ」
友野がカーペットの上に正座させられている俺とかぐやの間に入る。
「それに誰よ、この人?」
「友野だよ! 前にピアノコンクールで会ったよね!?」
トホホ、と友野が落ち込む。
「俺ってそんなに影が薄いかな。まあ、それは良いとして」
友野は部屋に居る他の三人ーー俺、さくらちゃん、かぐやを見る。
「今日集まってもらったのはほかでもない。八重橋さんの瞳の力についてだ」
「私の……」
かぐやが自分のまぶたに触れる。
あのときのことを思い出したのか、その手は少し震えている。
「友野くんも瞳の力を持ってるの?」
さくらちゃんの言葉に友野は頷く。
「持ってるよ」
友野の瞳には丸の中に逆三角形が組み合わされたマーク。
「能力は『蒐集の瞳』。《絆の結晶》っていうのを実体化出来る力」
「《絆の結晶》?」
聞きなれない言葉にさくらちゃんとかぐやが小首を傾げる。
「人の心の中にある綺麗な石のことだよ。普段は見ることが出来ないけど皆にある」
「へえ。そんなものがあるのね」
不思議そうな顔をするかぐや。
対してさくらちゃんは不安げに俺を見る。
「りっちゃんは……知ってたの?」
「……うん」
友野の言葉に俺が何も反応しなかったからだろう。
だけど隠し通せることではない。
「私は《絆の結晶》のことを知ってるし、私も皆みたいに瞳の力を持ってる。発動条件は曖昧だけどね」
苦笑する俺。
「どんな能力、なの?」
「やり直す力」
衝撃的だったのか、さくらちゃんは目を丸くする。
「さくらちゃんのときも、そしてかぐやのときも。この瞳の力のおかげで二人を助けられた」
「立花は何度もやり直してるの?」
「うん。まあ、本当に何度かだけどね」
「……そう」
かぐやが柔らかく微笑む。
「必死に助けてくれたのね。ありがとう、立花」
「あ、うん」
かぐやのことだから怒ると思っていたのに微笑まれると何だか落ち着かない。
「私のときはいつ使ったの?」
さくらちゃんが俺の腕を掴む。
まるで俺が何処にも行かないようにするために、強く。
「……ショッピングモールに行ったときだよ。さくらちゃんが中学のときの子と言い争ったとき。安心して。喧嘩を止めただけだから」
何も間違ったことは言ってない。
だけど、俺が一度死んだことは言えるわけがなかった。




