かぐやルート43
ホールの席を埋めていた人たちが一斉に一番後ろの俺を見た。
そりゃそうだ。
こういう場所で大声をあげる馬鹿は俺しか居ない。
俺は恥ずかしくなり、ペコペコ頭を下げながら席に着ーー
「へ?」
かぐやが俺を見て呆けていた。
瞳も真ん丸である。
いやいや!
悪いのは俺だけど!?
かぐやも演奏止めちゃダメだろ!
だが、そこはさすがのかぐや。
皆が俺から舞台へ振り向く前に演奏を再開する。
これ後でメチャクチャいろんな人に怒られるな。
特にかぐや。
コンクール落ちたらぶっ叩かれるかも……
「何とか間に合ったみたいだね」
追いついた友野が隣の席に座る。
「何で下向いてるの?」
「……反省中」
「……何やらかしたのさ」
「訊かないでくれ……」
「はいはい」
友野が苦笑する。
「コンクールなんて始めてくるからあれだけど。八重橋さん楽しそうだね」
「楽しそう?」
意味が分からず首を傾げる俺に友野は顎で示す。
「表情が柔らかい。八重橋さんっていつも険しい顔をしてたイメージだったけど」
俺も舞台を見る。
遠くて分かりにくいが、確かに少し微笑んでいるように見えた。
それもあってか音色が優しく感じる。
コンクールのためだろう。
かぐやは白いドレスを着ているが、それが照明に照らされて綺麗だった。
そこには正真正銘のヒロインであるかぐやが居た。
「来れて良かったわ」
「そうだね」
その後はかぐやの演奏が終わるまで彼女を見つめていた。
演奏が終わると、拍手喝采までとはいかないが、多くの人が彼女に拍手を送った。
もちろん俺たちも。
「いやー良かったわ」
コンクールが終わり、ホールを出た俺たちは背を伸ばして身体を解す。
「確かに。途中で寝るかと思ったけど」
「ああ、分かるわ。最後の人は寝落ちしそうだったもん」
友野と感想を言い合っていると、
「立花ッ!」
「げッ!」
激おこのかぐやがズンズンと俺の前に現れた。
「アンタね! 本番中に叫ぶんじゃないわよ!?」
「マジごめんって! 許して!」
俺は素直に頭を下げる。
「何で名前を呼んだのよ?」
「え、いや。伝えたかったから」
「は? 何をよ?」
「だってトーキングアプリに"会いたい"って。だから来てるよ! って伝えたかったの」
「なッ!?」
かぐやの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「今さら何よ! 電話も出なかったくせに!」
「あれは……その。具合が悪かったの」
天と瞳の力を言うわけにはいかない。
「はあ!? 何で来たのよ!」
「いやいや、かぐやが来てくれって」
「無理して来られても嬉しくないわ!」
ええー。
頑張って来たのに。
「まあまあ二人とも」
友野が仲裁に入る。
「誰よ?」
「相島さんのクラスメイトだよ」
「クラスメイト? あー何か隣に居たような気もするわね」
「気がするって……。俺、そんなに影が薄いかな」
トホホ、と落ち込む友野。
そんなことより←ひどい。
「結果は? もう発表された?」
それが気になった。
かぐやの演奏は素人の俺でも素晴らしいと分かった。
だけど俺が演奏を止めてしまったから大幅な減点をされてるかもしれない。
「ああ、そうだったわね。もう少ししたら出るんじゃないかしら」
「八重橋さん!」
知らん男子が来る。
いかにもギャルゲー主人公らしい普通メン。
「この人は?」
「え、彼? ああ、彼は私のクラスメイトの神代くんよ。今日は彼も演奏者だったの」
「あ、なるほど。初めまして。相島です」
「知ってるよ。相島さんは八重橋さんと同じく学校じゃ有名だから」
あはは。
悪い方じゃなければ良いが。
「八重橋さん、あっちで結果が貼り出されたよ」
「あ、そうなのね。ありがとう。行きましょう」
かぐやは神代と一緒に行ってしまう。
「見に行かないの?」
「……落ちてたらと思うと立ち直れないから無理」




