かぐやルート37
部屋に入ると、周りの音が遮断されたかのように静かな第二音楽室。
部屋の半分を支配しているかのように存在感を放っているのは、かぐやがいつも練習に使っているピアノ。
そして、俺とかぐやの二人。
「ここは私のお気に入りの場所なの。中庭は見えるし、人は滅多に寄りつかないし」
かぐやは陽に照らされた草木を眺める。
彼女の言う通り、とても静かな空間だ。
渡り廊下を渡れば、まだ教室で駄弁っている生徒や校庭で部活動に励んでいる生徒の声が聞こえるだろう。
だけど、ここは俺たち二人しか居ないかのように静まり返っている。
「昔はたくさん生徒が居たからこっちの音楽室もよく使っていたらしいわ。今では楽器の墓場だけどね」
部屋に設置されている棚には楽器ケースと思われる黒い箱がいくつも収められているが、かぐやの言う通りなのだろう、埃が積もっていて放置されている。
だからこそピアノが輝いて見えるのかもしれない。
「でも、この静かさのおかげで集中して練習出来るのよ」
「なるほど。そうなんだ」
「あ、ちゃんと許可は取ってるわよ。学校も私に期待してくれってるってことね!」
ふふん♪ と鼻高々なかぐや。
「それで話って?」
水を差すのは悪いと思った。
だが、いつまで経っても始まらなさそうだったので、俺の方から切り出す。
告白じゃないと分かった今、だからこそ何の話か気になってしかたなかったからだ。
「そ、そうね。大事な話があるのよ」
はぐらかしていたのが俺にバレたせいか恥ずかしげに俯くかぐや。
手の指をモジモジと組んだり、ほどいたり。
「私、全国を目指してるの」
「全国? ああ、ピアノでしょ?」
かぐやが隠れて練習してるの知ってるし。
「まずは地区のコンクールで優秀な成績を修めなくちゃならなくて」
「ああ、そうだよね」
「……それが明日なの」
「………………へ?」
急だなー。
「それで話って言うのは、ね。そのコンクールを見に来てもらいたくて……明日って暇?」
唐突な質問。
かぐやが不安げに自分の腕を撫でる。
彼女にとっては勇気の要る行動だったんだろう。
なら、応えるしかない。
「良いよ」
それだけの言葉で曇っていたかぐやの表情がパァと晴れる。
「本当に? 本当ね! 絶対よ!」
相当嬉しいのか笑みが溢れて抑えられなくなっている。
「でも、私で良いの? 他にも親しい友だちとか居るんじゃ?」
「……居ないわよ」
喜びが消え失せ、かぐやは悲しげに笑う。
「嫌われてないし、むしろ皆が私を好きで居てくれていることなんて分かってる。だけどね、だけどよ。私の傍には誰も居てくれない。遠くから私をまるで観賞用の植物や絵画のように見るだけ」
高嶺の花であるからこその悩み。
皆の人気者であるからこそ誰か一人だけの少女にはなれなかった。
だからこそかぐやは平凡な主人公に憧れて好きになったのだ。
周りに友だちが居る主人公を。
……仕方ないな。
「誘ってくれったってことは、私はかぐやにとって親しい友人って自惚れても良いのかな?」
「………………」
こくんと小さく、そして恥ずかしげにかぐやは頷いた。
「じゃあ絶対に行くしかないね。親友の晴れ舞台なんだから」
俺はニッと歯を見せて笑う。
「ありがとう、立花」
涙目でかぐやは微笑んだ。




