立花ルート36
「随分と口が軽いんですね、日向先輩」
戻ってきた西村さんが日向さんを睨みつける。
「私たちにとって立花のことはタブーのはずですが?」
ピリついた雰囲気。
日向はバン! とテーブルを叩く。
「その結果があれなんだけど? 瀬名が立花のことを抱えて潰れたのは何度目? いつになったらアンタらは瀬名を救うの?」
「だから麻衣たちが研究を!?」
「相島って」
私の声にみんなが私を見る。
「相島 立花って。相島さんとどういう関係なんですか?」
相島さんと事故で亡くなった相島 立花。
偶然、同じ名字なんて思えない。
「あの子は立花の妹だよ」
日向さんの隠さない言葉。
「麻衣は立花の妹。麻衣は立花を甦らせるためにAIの研究をしてるんでしょ?」
冷めた視線の先には西村さん。
西村さんは唇を固く結んで顔を逸らす。
「他の人間も巻き込んで立花を甦らせてどうするつもり? 良い加減認めなよ。立花は死んだ。いくらAIが高性能になろうが、いくら立花そっくりの見た目のアンドロイドを作ろうが、立花は死んだんだよ」
立花さんの死とアンドロイドしての復活。
子供の頃にAIを題材にしたゲームで、戦争で亡くなった最愛の女性を甦らせるためにAIに最愛の女性のあらゆるデータを入力して作ったものがあった。
ゲームならではの空想だと思っていたが、相島さんたちはそれと同じことをしようとしていたんだ。
「ここの子たちは立花復活の実験体じゃなかったはず。いつからこの寮と研究所はあなたたちの道具になったわけ?」
日向さんの言葉に俯いて反論出来ない西村さん。
その姿がとても可哀想で、だけど部外者でしかなかった私には何も言えなくて、でもーー
「それが悪だとは思えないです」
私の精一杯の言葉。
日向さんと西村さんが目を丸くして私を見る。
「あ、ええと」
言葉の続きを探す。
「大好きだった人ともう一度会いたいのは誰にでもある感情だと思います。だから、なんていうか。まだ犯罪を犯してないなら良いかなって……ちゃんとしたことを言えなくてすみません」
格好悪かった。
やっぱりでしゃばるべきではなかった。
「ふはっ!」
日向さんの表情が弾けた。
「羽澄さん格好悪〜い! そこはビシッと言うべきでしょ! あーおかしい〜」
「そんなお腹を抱えて笑わないでくださいよ!?」
自分でも格好悪いのは分かってましたもん!?
「……ねえ、陽世子」
ひとしきり笑った日向さんが優しい瞳で西村さんを見る。
「本来の立花の願いを叶えてあげようよ。ここの寮の子たちを社会復帰させるやつ。元はあいつが自己中で拾ってきた子たちでしょ? だったら実験に使うんじゃなくて、幸せにしてあげた方が立花も浮かばれると思うよ」
ぎゅっと西村さんは自分の左腕を握る。
「……私は何の権限もないです。研究は麻衣だし、寮は瀬名が担当だから」
「変わったな、お前」
それは今まで沈黙してた裕二さんの声。
「昔はギャーギャー立花と騒いでたくせに。立花が死んだら済ました顔をして良い子ぶって。別にあいつの代わりにリーダーぶらなくて良いんだ。俺たちはもうガキじゃないんだ。ヤンキーを泣かした学級委員長はどこ行っちまったんだか」
それは諦めや失望の声だった。
「バカ言わないでよ。私たちはもう三十過ぎよ。学生の頃みたいにバカやってるだけじゃ生きていけないのよ」
「だったらもう一度バカしませんか?」
私は西村さんの手を取る。
「立花さんの復活も、ここの子たちの社会復帰も全部やっちゃいましょうよ! 私、なんでも協力しますから!」
ビクッと震えた西村さんの瞳が私を捉えてくれる。
「良いの、羽澄さん? あなた実験体にされるんだよ?」
振り返り、日向さんに笑ってやる。
「どんと来いです! あ、でも痛いのはなしで」
「あはっ!」
また日向さんがドッと笑った。
「本当にしまらないな、もう!」
固かった空気が緩んだ瞬間だった。




