立花ルート7
研究所の敷地に案内される。
最初はまっすぐ正面玄関。
とっとと行ってしまう相島さんを追うように歩く。
自動ドアの先は本当に病院のような清潔な世界。
白を基調とした内装と明るい照明に出迎えられる。
「どうした?」
相島さんの声に私は自分が立ち止まっていたことに気付く。
「あ、いや。まるで病院みたいだなって。研究所ってこういうものなんですか?」
「いいや。私が世話になってた研究所はもっと学校みたいなものだ。ここはちょっとした病院も併設してるから、そう感じるんだろう」
「な、なるほど」
「ちょっと相島室長」
廊下の先から誰かが歩いて来た。
スーツ姿の女性だ。
私よりも少し年上の大人な女性だ。
「どういうこと。守護者からお客様が来たって聞いたんだけど」
「ああ。こいつだ」
相島さんが顎で私を示す。
「こいつって。まったく」
スーツの女性は深い溜め息を吐くと、私の前へ。
「初めまして。わたくし、この朱乃宮人類研究所で総務部長を務めさせていただいております、西村と申します」
「は、はい!」
まるでマナー講師のように丁寧な所作で名刺を渡される。
西村 陽世子。
「えと。西村……ようせこ、さん?」
「陽世子って読みます。読みづらいですよね? 私自身も難儀してます」
そこで厳しかった表情が和らぐ。
よくあることなのだろう。
ちょっとした会話のネタみたいだ。
じゃなくて私も自己紹介をしないと。
「すみません。今、名刺は持っていなくて。羽澄 涼子です。鳥の羽に水が澄んでいるで羽澄です」
「羽澄様ですね。今日はどのようなご用件で?」
「それは……」
相島さんを見る。
西村さんも相島さんを見る。
「私の客だ。もしかしたら研究を手伝ってしまうかもしれない」
「研究って。相島室長。ここの研究はーー」
「分かってる分かってる。だから手続きをしてほしんだよ。そのための総務部長だろ?」
「あなたねっ!?」
そこで西村さんがハッとして私を見る。
「……分かった」
流石に来たばかりの私の前で抑えてくれたんだろう。
西村さんは左手首の内側を口元に近付ける。
「管理者」
『はい』
西村さんの声に応答。
だけど相島さんじゃないし、もちろん私でもない。
もっと感情の無いような無機質な声だ。
よく見れば西村さんの左手首には腕時計のようなものが。
声はあそこからか?
「今空いてる会議室を教えて」
『現在、会議室Bと会議室Cが空いています。人数が多ければ大会議室が二十四分後に、会議室Aが一時間四分後に空く予定です』
「だったら会議室Bを今から……そうね、一時間押さえて」
『かしこまりました』
「それと観察者、監視者、守護者を同席させて。もちろんあなたもね。あと柳沢さんも。お客様の手続きだって伝えて」
『かしこまりました』
西村さんが手首を下ろして私に微笑む。
「そしたら行きましょうか、羽澄様」




