立花ルート4
「そ、そんなに笑わないでくださいよ」
「あーごめんごめん。まさか寝過ごして、こんな田舎に来る人が居るなんて思ってなかったから。はー笑った」
メイドさんは目端の涙を指で拭う。
その仕草も可愛らしい。
「でもそっか。じゃあこれも何かの縁だね。電車を寝過ごさなかったら、あなたはこの店に来なかったんだから」
「は、はー」
縁と言われても。
一期一会ってやつかな?
「まあ、山と川と田んぼしかないけど、ゆっくりするにはうってつけの場所だよ。夏と冬はお祭りがあって観光地になるし。お金持ちが避暑地にしてるぐらいだし」
「そうなんですね。朱乃宮なんて聞いたことないから」
「まあ、知る人ぞ知る場所だからね。“神様と暮らす土地”って調べると色々ネットに載ってるよ?」
「神様ですか?」
それはなんというか。
「カルト教団とかじゃないですよね?」
「ふはっ!」
またメイドさんが大爆笑。
「違うって。別に変な壺を売ったりしないよ。元々、朱乃宮は神様と一緒に暮らしていたって伝承があるの。神秘的でしょ?」
「へえ」
確かに自然豊かな場所だから神様が居てもおかしくなさそうだ。
「おっと。いらっしゃいませ〜。お客さん来ちゃった。じゃあゆっくりしてね。お会計は伝票をレジまで持って来てくれれば良いから」
そう言ってメイドさんは仕事に戻ってしまう。
「神様、か」
メロンソーダを手にしてズズっとストローで飲む。
無宗教だが、神様と言われると気になってしまう。
ゲームとかアニメで出てくるファンタジーな神様が好きだからだ。
神社とかあるのかな?
「今日は遅かったじゃん。来ないかと思ってた」
「キリが悪かったからな。キリの良いところで終わらせようと思ったら昼休憩が始まってた」
私の隣の席。
メイドさんが連れて来た来客。
白衣?
研究者が着るような白衣を着ていた。
だけど背が小さいから小学生か中学生の女の子に見える。
流石に成人近いとは思うけど。
「メニューはいつもの?」
「ああ。それで」
「オッケー」
メイドさんが離れる。
すると、女の子は白衣のポケットから何かを取り出す。
「えっ!?」
「あ?」
思わず出てしまった声。
それで女の子が私を睨む。
「なんだお前? なんか言いたいのか?」
「あ、いや」
男勝りな言葉遣い。
その圧に言葉が出ない。
「ん? あー」
何も言えなくなった私の視線で察したのか、女の子は手に持っていたそれを軽く振る。
「安心しろ。ただの水蒸気タバコだ。リキッドも入ってない本当に水蒸気だけのタバコだ。煙も匂いもないから気にするな」
そう言うと、女の子はタバコを小さな機械から取り出して咥える。
いや、全然安心出来ないし、気にしてしまうんですけど。
どう見ても未成年が喫煙しているようにしか見えないんですけど!




