美少女になりました。
ジリリリリリリーー!
頭に響くような目覚まし音が部屋に響く。
「うーん。何だよ、うるさいな」
俺はベットから手だけを伸ばし、目覚まし時計のある場所に当たりをつけて思いっきり叩いた。
チーンと目覚まし時計が悲鳴を上げると音が止む。
「今日は休みなんだからもう少し寝かせろよ」
布団を被り直して寝返りを打つ。
「……ん?」
俺はそこで気付いた。
部屋の目覚まし時計は何年も前にただの時計になっている。
今みたいに目覚ましの部分を思いっきり叩いて壊したからだ。
それからというもの俺の目覚ましはスマホのはずだが。
まあ良いか。
母さんが新しいのでも買ってくれたんだろ
俺はそのまま眠りについた。
「いつまで寝てるの、おねーちゃん!」
遠くで声が聞こえる。
誰の声だかは知らないが俺には兄と姉が居ても妹はいない。
きっと夢の中の妄想だろう。
俺にも妹属性に萌える心があるということだ。
というか俺は男だ。
「本当に遅刻するから。お! き!! て!!!」
バサッと布団が剥がされたようで部屋の空気が俺を襲う。
「う、寒!? これがヒートショックか! 心臓止まるわ!」
「……何言ってるの? 早くして。遅刻するよ!」
「だから今日は仕事休みなんだって。もう少し寝かせてくれよ」
「お父さんみたいなこと言わないの。それに行くのは学校でしょ」
「学校なんて何年も前に卒業しーー」
嫌々顔を上げた俺の瞳に茶色い長い髪が映る。
「誰だ、お前?」
「え、何? 何か言った?」
小首を傾げたのはまるで美少女ゲーム、つまりギャルゲーに登場しそうな目鼻立ちの整った煉瓦色の髪をツインテにした美少女。
丸い瞳が幼さを主張してまさに妹キャラ…………
いや、だから誰だよ!
こんな美少女知らんぞ!
「どうしたの、お姉ちゃん? 具合悪いの?」
ベットに上がり俺の上に乗ってくる美少女。
心配そうな表情で俺の額に手を当ててくる。
「熱はなさそうだけど。どうする? 今日は休む?」
自分の額の熱と比べて俺の体調を調べる美少女。
「いや、だから君は誰? それに俺は君のお姉ちゃんじゃないし、どちらかというとお兄ちゃんになるんだけど」
俺の言葉にとても驚いたみたいで美少女は目を丸くする。
「私だよ! 麻衣だよ! 冗談は止めてよ。びっくりするからさ~」
美少女ーー麻衣は俺がどうやら冗談を言っているのだと思っているみたいだが、こっちの方が冗談を言われている感覚である。
「俺に妹は居ないよ。馬鹿にすると女の子でも怒るよ?」
少しムッとした表情で言った。
そしたら麻衣の顔が青ざめる。
「本当に覚えてないの? お姉ちゃん、麻衣だよ。お姉ちゃんの妹だよ?」
「だから俺は君を知らない」
「そん、な……記憶喪失なの?」
「ちょ、まっ!」
俺の制止も聞かずに麻衣はベットから下りるとバタバタと部屋を出ていった。
「何なんだ?」
もう寝る気が起きなかったので俺はベットから下りる。
「ん? こんなところに鏡なんかあった……か」
ボーッとしていた頭が一気に覚醒する。
「は、へ?」
部屋の姿見に映っていたのは水色のゆるふわなパジャマを着た黒髪ロングな美少女。
少しつり目気味でSっ気があるがまたそこが良い……
「じゃなくて! 俺かよこれ!?」
がっしり姿見を掴み顔の隅々まで見る。
だが、どっからどう見てもギャルゲー風な美少女である。
いやだが俺は工場勤務の二十歳だったはず。
どうしてこんなことに?
「じゃあまさか……!?」
俺は下腹部のその先に手を伸ばす。
「……orz」
長年連れ添った相棒が消えていた。
その後、俺は記憶喪失になったということで病院に連行されることとなった。