悲劇
バンダーから少し離れた鉱山地帯。その手前にある荒野と草原の境界。
そこに今、同型機が二機。そして、満身創痍の機体が一機。
その満身創痍の機体に向かって一人の少女が叫ぶ。
「ソハン!」
叫んだ少女...リアンに向かって鋼鉄丸が向かおうとする。
しかし、それを阻むかのように、ファンスルが魔導砲を撃つ。
『邪魔をするな。』
そう言うとマニュピレーターでそっとリアンを持ち上げ、コクピットを開け中に入れる。
「リアン!」
鋼鉄丸はファンスルに急接近し、魔導砲を至近距離で発射した。
『...ふん。その程度では傷を入れることはできない!』
魔導砲を喰らってもかすり傷一つつかない。
「なんだよ...その装甲...」
ソハンがそう呟いた時だった。コクピット内に警報音が鳴り響き、ガクンと鋼鉄丸が停止したのだ。
「なんだ...?まさかっ!」
ヴァスティシステムの限界時間だった。
システムが終了すると同時に、ファンスルが歩いて近づいてきた。
『ふん...妙な気迫を感じたが...気のせいだったようだな。』
ファンスルの顔は、複眼の少し怖い感じの顔だった。
「なんで...リアンを...?」
取り敢えずその事だけは、知りたかった。しかし男の返答は簡潔なものだった。
『教える必要はない。...避けろよ?殺したくはない。』
そう言うと、ダガーのようなものを腰から取り出してそれを、鋼鉄丸のコクピットのある部分に思いっきり突き刺した。
ソハンは何を言われたのかを瞬時に理解できなかった。その為、そのダガーの攻撃はソハンにも被害を与えた。
声にならない悲鳴が回線を通じてファンスル側にも届く。
『...自分のした事を恨め。元凶は貴様なのだ。譲りに譲って、殺しはしないとなっていたんだがな...』
そう言いながら、振り向きもう一機のファンスルをじっと見つめる。
『お前も用済みだ。ここで死ね。』
傭兵の男は言い返した。
「悪いが...死ぬ気はない。」
そう言い放ち、右側の魔導砲を背中側に持ち上げた。
すると、背中に固定されていたパーツが右腕を包み込むように移動して、細身の腕を覆った。
そのパーツごと前側に腕を持って行くと、魔導砲の拡張パーツ...魔力を容量ギリギリまで押し込んだカートリッジ五つとそれを撃つ為の砲身...が、魔導砲に固定された。
「悪いな...そっちが死んでくれ!」
そこから放たれたのは、魔導砲の域を超えた弾。
『なるほど...やたらと大きくなっていたのはコレのせいか...』
回避行動もせずにファンスルは、大空に飛び立ち、そのまま逃げていった。
『...すぐに再び会えるだろう...楽しみだな...』
「チッ...逃げんのかよ...ん?そういや...」
傭兵はハッとすると、鋼鉄丸の方に機体を走らせた。
「おい!大丈夫か!」
機体から飛び降り、ダガーの攻撃で穴の空いた部分から中を覗き込む。
「ひでぇな...ぐちゃぐちゃじゃねぇか。」
そう言いつつ、ソハンの姿を探す傭兵。
「いた。おい!...おいおい...あの野郎...」
ソハンは気を失い倒れていた。その体を持ち上げた自らの手を見て傭兵は青ざめた。
血だ。かすり傷とか言うレベルではない。
慌てて出血部位を探す。
部位はすぐに見つかった。いや、探す必要もないくらいにはっきりしていた。
...ソハンは、右肘から先を失っていた。
もう今年も終わりですね!
来年はこちらの事情で、途中で休載し始めるかもしれません。どうか御理解をお願いします。
それでは、良いお年をお迎えください。




