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覇道を進むは愚者の栄光  作者: 赤の虜
一章 千年王国脱出編
8/73

休憩

これで、ストックは吐き出し終わりました!

 無事? と言っていいのかはわからないが、まあ命が助かったのだから構わないだろう。

 無事、英雄諸国で覇権を争う英雄の代表格、『剛剣』の傘下の英雄。……という堅苦しい肩書きを携えて遥々、この国にやってきた『静剣』クワイエットを打破したエピーモナス様と私は――英雄の作ったボロ小屋にて、休憩していた。


『静剣』クワイエット。文字通り、静かな剣で敵を倒すことを得意とする英雄は、どういうわけか私達と一緒に寛いでいた。


「いやー、少し休憩をとるために作ったはずのこのボロ小屋がまさか自分の療養のために使うことになるとはね、おもしろいこともあるものだ」


 すごい気安く話しかけてくる。

 私はついさっき彼に殺されかけたので、正直に言えば早くここから離れたかったけれど、エピーモナス様は勝者の余裕だろうか、自然な態度で臨んでいた。


「我らもちょうど休憩したかったところなのだ。貴様がこれを作ってくれていて助かった」


 さらっと、自分も疲れているアピールいれる主に少々むかついたが、『静剣』に勝利したのは彼なので黙っておく。その功績が無ければ、彼は私に運ばれていただけなので、怒っても不思議ではなかっただろう。


「気にするなよ、僕と君の仲じゃないか。呼び方も貴様なんて言わないでさ、クワイエットと名前で呼んでくれていいよ」


 気安いにも程があると思う。


「わかった。……それとフィデリタスはそんなに怯える必要はない。クワイエットは我よりも弱いからな」

「………まあね」


 機嫌よくそう言う主と、対照的に殺意で人が殺せそうなくらい恐ろしい雰囲気の英雄。

 うん、怯える必要はあるな。もう怖い。

 その後、全員が沈黙する。


 ……気まずい。

 ――こんな恐ろしい雰囲気の中で、いつまでも黙っておくことは耐えられなかったので、私は気になっていたことを訊くことにする。

「ところで……クワイエットさんはどうして千年王国の国境を超えることを出来たのですか? あそこは四天の勇者、『怪力』が警備に当たっていたと思っていたのですが……」


 質問に対して、何故かクワイエットさんは一度、首を傾げてからすぐに納得した様子で返事をしてくれた。


「ああ、やっぱり国境には警備がいたのか。どうりですんなりと千年王国に入れたわけだ」


「国境に警備がいたことを知らなかったのですか? そんなはずは……」


 言いかけて私は先刻のことを思い出した。

 国境付近に突然と現れた『業火』。

 彼の登場が偶然の産物ではなく、彼が何かの不足を補うために派遣されてきただとすれば、今、クワイエットさんが言ったことに説明ができるのではないだろうか。


 国境警備の要である『怪力』とその部下。

 彼らに何らかの事情で、国境警備を疎かにしなければならないような出来事があって、代わりに同格である『業火』を配置した。

 そう考えれば、不足はないのだ。


「もし君の言う通り、本当に『怪力』が警備についていたのだとすれば、僕は運が良いのかもしれないな。三王の一人、『魔王』を討った化物と遭わずに済んだ」


 そう言ったクワイエットさんの両手は組んだ状態で震えていた。武者震いというのではない。

 エピーモナス様に負けたとはいえ、英雄が怯えていた。英雄にとっても先代勇者は別格ということだろう。私は英雄や勇者といった奴らは全員が全員、強いもので、そんな奴らが殺し合っているとだけ考えていたけれど、彼らの中にもまた強弱はあるようだ。


 エピーモナス様は特性に強弱はないと言っていたけれど、強者の中にはそれはしっかりと存在しているようだった。

 まあ、私からすれば敵わないのでどっちもどっちだが。


「良かったな。我が敗者に情けをかける心優しい人間で」


 ドヤ顔で何か言っている人がいるがクワイエットさんとともに無視する。付き合っていると腹が立って仕方ないのだ。


「それで、クワイエットさんはこれからどうするのですか? エピーモナス様との戦闘で利き腕を骨折してしまったのでしょう? そんな状態で国境側に戻ったとしても『怪力』の代わりに派遣されているであろう『業火』に焼き殺されますよ」


「『業火』……、まだ勇者になって間もないとはいえ、勇者は勇者。注意しておくことは必要だろうね。でも、腕の骨折に関しては問題ないよ。僕は元々両利きの剣士だから。片腕さえあれば剣は振れるし、僕の剣は軽いからね」


 クワイエットさんもエピーモナス様を無視することに決めたようで、私とだけ会話した。


「ところで、君達はどういった用でこんな国境付近まで? 確かこの国では国境に近づいただけで殺されるって物騒な噂を聞いたことがあるけど」


 その質問に私は咄嗟にエピーモナス様を見た。

 すると、彼は神妙に頷いてから、会話に参加した。


「その質問には我が答えよう。……我らは大望を叶えるため、これから英雄諸国へと行く予定があるのだ。ちなみに、今はその道中と言ったところだ」


「へえ、英雄諸国に……ね?」


 静かな、それでいて背筋の凍りそうな笑みを浮かべる『静剣』。


「君が僕よりも強いことは素直に認めるけれど、それで英雄諸国で通用するなんて思わない方がいいよ。あそこはそんな単純な力の強弱で生き抜けるほど甘くない」


 実感の籠った英雄の言葉は、さっきまでの気安さはなく、ただ……重い。


「あそこでは毎日人が死ぬ。誰も彼もが一日を生き抜くことだけに全力と尽くし、食料を見れば死に物狂いで奪い合い、野生動物は食い尽くされ、裏切りは挨拶のように気軽に行われ、大地はそんな者達の血で濡れていない地はない」


 クワイエットは一呼吸おいて続ける。


「……そんな地獄のようなことが日常的に行われているのが英雄諸国なんだ。そんな場所に君達は行くと言っているようだが、理由を聞いても良いかい?」


 ふざけた回答は許さない。そう思わせる迫力がある。

 ただし……残念ながら、そんな『静剣』の雰囲気など気にしないのが私の主だ。まず間違いなくふざけたことを大真面目に言う。


「構わんぞ。我の大望は『千年王国を超える国家をつくり大陸統一をすること』だ。よく覚えておくといい」


 やっぱり。

 不遜にも、大陸を統一するというエピーモナス様に、クワイエットさんは何かを堪えるように耐え……しかし、堪え切れなかったようで、笑い出した。


「物見遊山の道楽ならこの場で切り殺してやろうと思っていたけれど、ここまで現実味のないことを自信満々に言われてしまうと返って面白い!」


 よほど面白かったのか、ひとしきり笑った後で、クワイエットさんは続けた。


「こんなに笑ったのは人生ではじめてかもしれない。どうも気が削がれた。殺すのはやめだ」


 気持ち良いくらいの爽やかな笑顔のまま、恐ろしいことを言ったクワイエットさん。

 やっぱり怖いよ、英雄。さらっと殺そうとしていたみたいだし……。


「賢明だな、『静剣』。どうせ負けるのに無駄に戦うことは愚者のすることだ」


 予想通り、といった様子でそう言うエピーモナス様。あなたも大陸統一するとか言っている愚者ですけどね。


「大陸統一なんて妄想を現実に持ち込んだ人間よりはマシだろう?」


 挑発的な笑みで言うクワイエットさんに、エピーモナス様は特に怒るわけでもなく、不思議そうに言った。


「夢も口に出来ない奴は、夢を叶える自信がないのだろう。一緒にするな」

「……本気で言ってるんだ」


 残念そうにエピーモナス様を見た後、クワイエットさんは私へと目を向け、同情するような視線を送ってきた。

 その視線の意味がよく理解できるだけにやめて欲しい。これ以上、私の精神に攻撃しないでくれ。


「君も災難だね。断言しよう、英雄諸国は君らが考えているような夢を叶える場所ではない。フィデリタスといったか、少なくとも君は英雄諸国に行くべきではない。『しぶとさ』なんて生き残ることにかけては英雄諸国でも通用しそうな馬鹿はともかく、君はただのメイドだろう? やめておいた方がいいよ」


 クワイエットさんにとっては、それは敵の戦力を落とそうだとか、そんな損得勘定で言っているではないのだろう。彼の目を見ていればわかる。


 でも。

 私に彼の忠告を聞くつもりはない。確かに私はエピーモナス様のような特性には恵まれていないし、戦闘も英雄の足元にも及ばない。きっとエピーモナス様の特性に頼ることでしか生きていけないだろう。ただし、生きていけないというならこの国にいても同じことなのだ。どうせ残っても生活は厳しい。ビクトリア公爵を殴っちゃったし……。

 それだけでなく、もっと根本的なところでこの英雄は勘違いをしている。


「心配してくださってありがたいですが、私はエピーモナス様と共に英雄諸国に行きます」


「死ぬことになってもかい?」


 クワイエットさんが脅してくるが、動じない。


「いいえ、死んだりなんてしません。そもそもクワイエットさん、まさか『しぶとい』のがエピーモナス様だけだと思っていたのですか?」


 私の言葉を受けて、クワイエットさんは驚愕したようだ。


「……君も特性を?」


 どうやら私の言い方が悪かったようで、英雄に変な誤解を与えてしまった。


「それはもちろん、持っていません。……でも、英雄諸国のことなら私もクワイエットさんに及びないですが、よく知っているんです」

「?」


 本当に私のことを心配なんてしてくれるなんて、何処かの公爵よりもよほど親切な人だと思う。

 だけど……私も生き残ることは得意なのだ。


「当然でしょう? だって、私の生まれ故郷ですし」


 言い終わった後のクワイエットさんの間抜け面は、元々顔が良いだけに眼福だったとだけ言っておこう。


「生まれが英雄諸国か……。ならば、忠告するまでもなかったね。経験に勝るものはないだろうし」

「その言葉には同意します」

「なんだか知らんが、一段落したようだな」


 そんな感じで、私達の一時の休憩は、心は緊張状態を保ったまま身体だけを休めることに成功した。


「では、エピーモナス様。早く森を抜けて国境に……


 と、言いかけた私の言葉を遮るようにして、災難は再び襲い掛かってくる。

 それがいつから近づいていたのかは、私は知らない。

 ただ、今わかることは――休憩するために腰を下ろしていたボロ小屋から、屋根が消し飛び、そこから猛り狂った巨大な牛と、それに乗ってこちらと睥睨する鬼の形相をした、こちらも巨大な大男がいるということだけ。

 その非現実的な光景を見て、真っ先に反応したのはクワイエットさんだった。


「はははっ、元気ですねえ隊長」


 どうやら知り合いのようだが、それにしてはクワイエットの額を流れる汗の説明ができない。


「お……お知り合いですか、クワイエットさん」


 私の問いかけに辛うじてクワイエットさんは答えてくれる。


「ええ、まあ。なんというか僕の部隊の隊長ってところかな」

「その割には焦っておられるようですが?」

「あの人ね、『猛牛』っていう英雄なんだけど、……その名の通り、猛牛のように敵味方関係なく、暴れ回るんだ」


今後は来週以降に通常で週に一回、遅くて二週に一回のペースで投稿できるように努力します。

なので、予定では次の投稿は11月8日になります。

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