さてさて、話も盛り上がって参りました。
ちょいちょいちょいちょい。
待て待て待て待て。
「アキラ、流石の俺もそこまでバカじゃないぞ。
世界が、違う? んなアホな。
確かにさっきまで驚きの連続で、未だにこの状況を把握しきれないことは確かだが、だからと言って今の話を、はいそーですかの一言で片付けられる程精神不安定にはなってないっつの。
そもそも俺の疑問は、なんでこんなに俺らがピンピンしてるのかってことなのに、それに対する答えが世界が違うっておかしくねーか?
質問と答えが全く一致してないように思うぞ」
うーん……。これもアレか?
オカマになってしまったが故の弊害なのか?
冗談でもアキラはこんなこと言うやつじゃなかったぞ。
そもそもアイツは冗談を言うなんて器用なことが出来ないし、その上発言全ては本気で言ってるところがあったからな。
それがまぁ、なんてゆーか、全くズレていることを言うからタチが悪いんだけど……
「待って、ちゃんと理由があるから最後まで聞きなさいな。
まぁ確かにかおりんが今言ってることは正しいわ。私達が入れ替わったことと、身体が無事だったことは一見何の関連性もない。
……ように見える。だけど違う、ちゃんと関連性はあるのよ。
私だって、こいつこんなんになっておかしくなったか?とか思われるのが心外だから、ちゃんと説明するわよ。
と言っても、どこから理解すれば良いかまだよくわからない状態でしょうけど。
そうね、まずはこの世界が違うってとこから信じてもらいましょう。
そうなると、何事も根拠なり証拠が必要か。
ということだから、一度自宅に電話をかけてみなさい。それが一番手っ取り早いわ。
たぶん、ここが違う世界だってわかるだろうから。あ、ついでに、おじさんとおばさんによろしく言っといてねー」
そう言い終えて、アキラは自分の携帯を渡してきた。
つまりは、これで電話しろってことなんだろう。
今、アキラが言ったことに対して納得した訳じゃないし、腑に落ちてないことも確かだ。
でも、あそこまできっぱり断言されてしまっては、それで確かめるほかはない。
世界が違うのを確かめるのと、親と電話するのにどんな関係があるのかてんでわからないが、とりあえずかけてみることにした。
何回かの呼び出し音が鳴った後、電話は繋がった。
「はい、もしもし?」
「えと、もしもし? その声は、親父?」
「! 薫か!? 薫なんだな!?」
「あー、まぁ、そうだけど」
「なんだ、思ったよりも元気そうな声してるじゃないか!
具合はもう大丈夫なのか?
いや、ついさっき先生から連絡があって、お前が目覚めたって。何日も寝っぱなしだったから凄い心配してたんだぞ?
目覚めたばかりとは思えないぐらい元気な状態です、とか言われた時はこの医者ヤブかって思ったけども、その言葉が本当のようで安心だ!」
「……うん、それに関しては本当に申し訳ないと思ってるよ。ご心配おかけしました」
「なに言ってんだ、お前が無事だったのならそれが一番じゃないか。申し訳なく思う必要もないし、謝る必要もない」
「……おう、ありがと」
「なんだ改めて気持ち悪い。
じゃあもう直ぐにでもそっちに行くから、元気とはいえおとなしく待ってるんだぞ。母さんの準備が出来次第急いで向かうから。
それと、アキラにも言っといてくれ。今回は本当にありがとうと。
そっちに着いたら、今一度きちんと直接お礼を言うつもりだけど、せめてその気持ちだけでも伝えておいて欲しい。じゃあ、また後でな」
ガチャリ。
そう言って親父は電話を切った。
なんてゆーか、良くも悪くも親父は親父な訳で。
俺の知ってるいつも通りの親父だ。
電話をかけるまでは、どこか小っ恥ずかしいところもあったからか、思ってる以上のその当たり前さがなんだかとても有り難かった。
いつもの日常が戻ってきたような、そんな有り難さだったのかもしれない。
「……で? 言われた通り電話したけど、特になんともなかったぜ?
お前の言い方から察するに、電話をすればここが違う世界なのかはっきりとわかるってことなんだろうけど、今の段階で俺には依然さっぱりだわ。
逆に今の電話で、そのことに更に疑いを持ったけどな。
なんせ違和感なんてどこにも無かった。
親父もいつも通りの親父だったし、会話だって向こうが心配していること以外普段となんら変わらなかった」
「あら、じゃあやっぱりここが違う世界って証明してるじゃない。
今かおりんは、自らここが今までと違う世界だって認めたのよ?」
「はぁ? お前何言って……」
「いつも通り、いつもと変わらないやりとり。
まるでそれが当たり前だと言わんばかりに。
不思議よね、一一ーー今のかおりんは女の子なのに」