良いんだよ、これで。善は急げとも言うし、そんなようなもんだよ。
「今話したのが、とりあえず今の段階で私が知ってる全部ね。
といっても、中にはまだ推測の域を超えてないものもあるんだけど、状況から判断するにほぼ間違いはないと思うわ」
アキラの口から語られたのは、これもまたパニックになってもおかしくないような荒唐無稽な話ばかりだった。
それが起きずに大丈夫だったのは、酷く取り乱さずに済んだのは、一番の驚きを一番最初に経験したからだろう。
……幼馴染がオカマになってた、なんて、今後これに勝る驚きなんてないだろうと断言できる。
とゆうか、今だってホントは動揺を抑えきれてないからね。必死に取り繕ってるだけで、頑張って話聞いてる状態だし。
でもなんだろう、こーやってアキラと喋ってると、不思議と落ち着くんだよな。外見とか喋り方がどうあれ、それは昔から変わらないことだった。
一緒に話してると不思議と嫌なことが忘れられるような、心が落ち着くような、そんな感じ。
それだけでも、こいつは確かにあのアキラなんだと確信できる。これは、他の誰でもない、俺だからこそ感じることができる確信なんだろうけど。
さて、聞いた話を要約するとこうだ。
まず俺たちは、案の定中身が入れ替わっているようだ。
中身……精神的なものだろうが、ともかくそれが入れ替わっている。
幸いなことに、入れ替わった先で記憶喪失とか記憶障害的なのが起こらなかったため、俺たちは、それぞれお互いが入れ替わってしまっていることを確認することが出来た。
しかもだ。お互いが入れ替わっただけでなく、お互いが年齢的にも若返っているらしい。
年にして16。およそ10年という年月を遡ったということになる。
最初に顔を確認した時は、入れ替わってることで頭がいっぱいで見落としていたが、今一度自分の顔を見てみると、確かに年相応に若返っていた。
実際にはアキラの学生の頃の顔が、鏡に写っていたわけだが。
まさかこんな形で二度目の学生生活を過ごす日が来るとは思わなかった。
普通なら強くてニューゲーム的なことを試してみたいと思うかもしれんが、状況が状況なだけにそれどころじゃない。
さて、ここで問題になってくるのが、アキラの外見だ。
確かに、俺とアキラはお互いの中身が入れ替わった。
それがわかった、というよりそうかもしれないと疑うきっかけになったのは、他でもない俺の外見がアキラだったから。
ならば、当然のことながらアキラの方には俺の体が行くはずである。
ーーでも、違った。
そこにあるはずの、俺の体はそこにはなく、代わりにあるのは筋骨隆々の強面のお兄さんだった。
なんでそうなったのかは、俺にはわからなかったが、意外にもその答えは直ぐにわかることとなった。
「あ、ちなみにこの体だけど、たぶん私とかおりんの半々で構成されてるような、そんな感じだと思うの。
んー、正確には、ベースはかおりんだけど、そこに要所要所私の特性が付加されてるみたいな。
これも推測による面が近いけど、一応証拠となるものもあるから、信憑性は高いと思うわ。」
……半々? …………証拠?
一体何を言っているんだこいつは。
今の混乱している俺になら、多少嘘をついてもほいほい信じてしまうと思っているのだろうか。
残念ながらそうはいかない。
驚きがオーバーし過ぎて逆に冷静ですよ、俺は。
「あ、それは信じてないって顔ね。それとも、馬鹿にするのも良い加減にしろって意味の顔かしら?
どちらにせよ、相手を小馬鹿にしたり飽きれた時に出る、かおりんのいつもの表情だからすぐわかったわ。
……というか、その表情を自分の顔でやられるのって何か複雑な気分ね……。私ってそこまで不細工な顔出来たんだ……」
お?なんか俺遠回しにディスられてる?
俺が難色を示した時の顔が不細工って、今までそんな風に見てたのか。
もっと早く言ってくれよ、そーゆうことは。
「じゃなくて、そう、証拠のことよね。
信じてないようだから、実際に確かめて貰った方が早いでしょ。
えっと、さっきも言った通り、ベースはあくまでも、かおりんなの。
例えば、この腕にある黒子の位置だったり、手の指にあるペンだこだったり、あとはお腹についてる傷跡だったり。
そうね、これが一番わかりやすい証拠だと思うわ。つまり、細かいところも含め、基本的に体の作りはかおりんだと思って貰って良い。
問題は、一目瞭然だとは思うけど、この顔ね。どうしてまんまの、かおりんではなかったか。
これが、私が付加されてるってところ。といっても、肉体的な特徴じゃなくて、内面的なパーツが付加されてしまったようね。
だから半々ってゆーのは、私の精神がってこと。
言葉じゃ上手く伝えられないけど、今の私はかおりんの精神+私の精神で出来た混合体みたいなもの。わかりやすく言えば、今の私はかおりんと私の両者を混ぜたオカマってことになるのかしら。
で、恐らく、この顔はそれによって作られた副産物、オカマはこうでなければならないという修正力から産まれたもの、だと思うの。
口調の変化もその一つだと思ってもらって良い。このガタイにしたって、身長もそれに合わせて変化したと考えれば一応辻褄が合うわ。
ちょっと強引な、こじつけ部分もあるんだろうけどね」
なんか凄い早口で言ってそう。
とかいう冗談はさて置き。
自分の体の傷まで見せられては、この話を信じるほかなかった。
確かに、これは俺の体だ。
にわかには信じ難いが、アキラが言うことも恐らくは合っているのだろう。
なぜ、そうなったかの原因まではわからないのであるが。
とりあえず、俺らが入れ替わり、更にアキラがなぜあんな状態なのかの問題は解決した。