それにしても急ピッチ感が否めないけど。これで良いというのなら止めはしないけどね。
わからないことだらけの状態に、さらにわからないことが追加された。
入れ替わりになんとなく対処できていた俺だったが、ここにきてパニックにつぐパニック。
緊急地震速報が鳴った直後に、ミサイル発射の誤報が鳴らされたような。
学校の七不思議だと思っていたら、十一不思議ぐらいあったような。
つまりは、情報処理が全く追いついていない状態だっつーのこんちくしょう。
そして今俺は、目的地の病室の中に入り、椅子に座っている。
正確には、今日初めて会ったであろう男と対面で座っている。
しばらくの沈黙が続いた後、やがて男が口を開いた。
「さっきからずっと黙っちゃって、なんか調子が狂うわねぇ。
ねぇ、私のことわからない?
私よ、私、権田晶よ。そりゃ外見はこんなんだけど、かおりんだって同じ境遇なんだから、もう察しはついてるんでしょ?
それとも何? 記憶障害がまだ残ってるのかしら」
やめてくれ。これ以上、余計な情報を送りつけないでくれ。
記憶にもクーリングオフがあるなら、今すぐにでも手を出している。
訳のわからないことを全部一旦リセットして、もう第二の人生として、新しく生まれ変わりたい。
……とりあえず。
今のやつの話でわかることはあった。
一つは、そう。これは初めに俺が推測していたことだが、やっぱりこの男はあいつだ。
権田晶。ーー俺の幼馴染。
自分で名前を名乗って、話してもいない俺の名前を言い当てたのだ。
これはもう、間違いではないだろう。
そもそも、かおりん、なんて呼ぶのは小さい時からあいつぐらいだ。
新しくわかったのは、良い。
問題が一つ解決したということも、尚良い。
悩みの種は、更に疑問が二つ追加されたってこと。
確かに、俺とアキラは入れ替わっていた。
あいつの言い分からもそれはわかる。
じゃああの外見、というか、あの男は誰なんだ、と。
少なくとも俺ではない。
だってそうだろ?
頭は坊主で剃り込み入ってて、なんかやたら顔の堀は深いし、ガタイも良いし、なんつーか心なしか身長も190ぐらいあるよね、あれ。
ピアスとか付けてるし、俺今までに一度だって開けたことないよ?怖いし。
……いや、誰だよ、ホントにっ!
今まで二十五年間生きてきて、こんな奇抜なフォルムになった時期一度もねーよ!
あれか、こいつは俺がグレるかもしれなかった未来の、ifの俺なのか?
パラレルワールドの俺なのか?!
完全に歌と踊りを披露するグループの人じゃん!
なんだ!?俺ザイルか?!お前は俺ザイルなのかっ!?
混乱するなってのが無理な話だよちくしょーめ!
それに、もう一つ!
口調なんだよお前!
そんな口調じゃないじゃん!
ふえぇぇぇ、とかを地で言う子だったじゃん!
語尾に常に、だよー。とか、かなー?とか、伸ばす棒が付くタイプの話し方だったじゃん!
いかにもな女性言葉になってるし……あー、いや、それならそれで、別に構わない、問題もないとしよう。
むしろ今までのゆるふわな喋り方より断然マシじゃあないか、と俺は思うぐらいだ。
うん、百歩譲ってそれは良しとしよう。
ねっとり低音ボイスでその喋り方なのも、まぁ声帯によるものだと割り切ろう。
ただね、ただですよ?その喋りに合わせた仕草はなんなのかと。
今すぐ、そのポーズをやめろ。
その、俗に言うオネェポーズをやめろ。
詳しく言えば、腕を組んだ状態から片手だけ頰に手を当ててるそのポーズを今すぐやめろ!
意図的か?意図的なのか?!だとしたらこれはもう、そうゆう判断になりますが!?
恐らく、これ以上自問自答を続けても埒が明かないと悟ったので、覚悟を決めて、俺はアキラに一切合切を聞くことにした。