だってしょうがないじゃないか。色々詰め込みすぎてるから、どうしても前半に世界観作らないといけないんだもん。
あんのジジイめええぇぇえええ!
なあーにが、時と場所を選べだよ!
選んだっつの!わざわざ女子トイレまで足を運んで、誰もいないのを確認してから、ことに及ぼうとしたっつーの!
だいたい、いち医者という身分があるにもかかわらず、患者のプライバシーを覗き見るような行為はどうなのよ!
いや、実際は覗いてたというより、聞き耳立ててたんだけど!
ていうか、問題はそれだよ!なに患者の衣服に盗聴器なんて仕掛けてんの!
医者としてあるまじき行為だよこれは、医療ミスに次いでやってはいけない行為だ!
訴えれば勝てる、というかいつか訴えてやる。
盗聴器のことを知った俺は、マッハでジジイのところへ行き、目の前でこれ見よがしに盗聴器を床に叩きつけてやった。
あらかた文句を終えた後ですら、あいつは柔和な顔を崩すことなく、
「これはこれは、本当に申し訳ないことをした。まさか君が病院であのような行為にふけようとするとは、思ってもみなかったからねぇ。
見なかったことに、いや、聞かなかったことにしようと思ったんだけど、思った以上に君が独り言を発するからね。後から入ってくる方のためにも、君がそれ以上恥を上乗りしないためにも、しょうがなく声をかけたんだ。
最善策ではなかったかもしれないが、苦肉の策であったことを理解してほしい。」
とかぬかしやがる。
……ん?声に出てた?お?
どうやら、聞くところによると、こちら早乙女、から、ぐへへへへまで、丸々全部声に出てたらしい。
おうふ。なんというカウンターパンチ。
あまりの興奮に思った言葉がダダ漏れとか……。恥ずかしいってレベルじゃねーぞ!
いやいや、違う。確かにあのままだと、それ以上の被害を被っていたかもしれない。
でも、問題はそこではない!
そう、盗聴器!これがあること自体問題なのだ!
その盗聴器に関して聞いても、
「今はまだ、その質問には答えられないんだ。すぐにその理由はわかるだろうから、それまで我慢してくれると助かるねぇ」
とか言う始末!
もうすでに我慢してるっつーの!ギリギリの寸止め食らったから、こちとらムラムラが限界だっつーの!
あいつを一瞬でも信用した俺がバカだった。
あいつのことは今後、糞医者と呼ぶことにしよう。呼ばざるを得ない。
といった感じでさっきまでのことを思ってイライラしながら今に至る。
正確に言えばイライラとムラムラが収まらないのですけどねっ!
兎にも角にも、もう起きたことは仕方ないとして割り切ろう。
そうじゃないとやってられねぇよ全く。
ぶつぶつと文句に近い独り言を唱えつつ、目的の場所に到着する。
ここがあいつがいる病室か。
病室の扉を開ける前に、今までのことを思い起こす。
まず、俺たちは何の因果かはわからないが入れ替わってしまった。
あいつの姿を見たわけじゃないし確証もないが、俺の意思がこの身体にある以上、間違いないと言って良いだろう。
恐らくあいつの意思は、俺の体に入っている。
わからないことだらけだが、今は一つずつ現実を受け止めて、その上で解決策を見つけていくしかあるまい。
……それにしても。
人は一生のうちに自分の顔を見ることが出来ないとは言うが、まさかこんな形で実現するとは。
こんな形でしか実現することなんかないのだろうけど。
自分の顔を他者の視点で見る、というのがなんとも複雑な気分だ。
そもそも、常日頃から見る自分の顔は、鏡を通して映っている自分の顔を見ているのであって、それは鏡の性質上反転して映ってしまうため、他人が認識している顔とどうしても違って見えるって聞いたことがある。
ならば今回、自分の顔を見て、新たな発見が出来るのではないかと、未知なる希望を抱きつつ、ついにそのドアに俺は手をかけ、ゆっくりと深呼吸を挟みながr……。
「おっそい。いつまで扉の前でつっ立ってんの。入るなら早く入りなさいよ」
ガラッと勢いよくドアが開き、そこには一つの人影が。
急な出来事に、驚きと出鼻を挫かれた感はあったが、自分との遭遇への期待と興奮が勝った俺は、早速自分の顔を確認することにした。
ハロー、今までの俺の顔!
こうやって顔を合わせるのは初めてだね!調子はどうだい?
顔を上げた目の前には、ムスッとした面持ちで立っている男。
表現がおかしいって?いや、間違ってなんかない。
そこには間違いなく男が立っていた。
……問題は、その男は俺ではない、ということ。
Who are you?
あなた誰ですか?