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俺はお前で、お前も俺で。  作者: むむ
第1章 〜混ぜるな危険? いいえ、混ぜたら奇険です〜
2/22

うん、死なないと物語が進まないからね。

 

 目を開けるとそこは、見知らぬ病室だった。


 いやそもそも、入院、ましてや病室になんて入ったことがないから、そりゃ見知らぬ病室なんだけど。

 よくある病室の片隅で、よくあるベッドに横になり、よくある展開の一つとして、現状を把握しようと試みる。

 えっと、なんでここにいるんだっけ?what's?


 なんて必死にそれまでのいきさつを思い出そうとしていたら、ふいに病室のドアが開いた。

 助かった、なんとかイベントが起きてくれたっぽい。


「おや、ようやく起きたようだね。幸い命に別状はなかったけど、それだって奇跡みたいなもんなんだ。

 それに、ここでこうして生きていられるのも彼……いや、うん、彼のおかげと言ってもいい。

 あぁ、君よりも状態がひどかったとはいえ、彼も奇跡的に助かったんだ。後できちんとお礼を言うといい」


 そう言って、波平ヘアーのいかにもな高齢な医者は、しばらくこちらを観察した後、記憶障害の有無を確かめるべく、こちらに簡単な質問を投げかけてきた。


「まず、そうだねぇ、とりあえず一番大事な質問だ。自分の名前は、わかるかい?」


 俺の名前……。大丈夫、ゆっくりでいい、思い出せ、思い出すんだ。

 忘れてはいない、そんなはずはない。実際、もうここまで出かかっている。

 そうだ、俺の名前は、


「……薫。早乙女薫(サオトメ カオル)だ」


「そうです。良かった。とりあえず自分のことはわかっているようだねぇ」


 そうだ。俺の名前は早乙女薫。

 よしよし、始めはどうなることかと思ったが、この調子ならなんとか、全て思い出すのはそう難しくはない……。


 おい。なんなんだ今の違和感。

 俺が喋ってるのに、別の誰かが喋ってるような感覚。

 まるで俺と先生以外の第三者が発言したかのような。

 うーん、違和感の正体がわからなかったが、現状悩んでいても仕方がなかったので、とりあえず先生に逆に質問することを優先した。

 今は少しでも多く情報がほしい。


「ところで先生、俺は何でここに……」


 ここまで喋ってようやく、違和感の正体に気づいた。

 別の誰かが喋っているように聞こえたのは、その声を俺は誰よりも知っていたから。

 そんでもって、その声が俺の喋りたいことと一文一句同じだったから。

 ……オーケー、オーケー、まだ慌てるような時間じゃない。

 落ち着け、俺。


「そうだねぇ、出来ればなぜここにいるかも、君自身で思い出してほしかったけれど、今はそんなに悠長なことを言ってられないようだからねぇ」


 先生は俺の質問に答えてくれようとしていた。

 だけど、すでに俺の疑問は別のものに上書きされている。

 親切に答えようとしている先生には申し訳ないが、今は何でここにいるか、とか、正直それどころじゃない。


「先生、質問の答えを遮るようで悪いんだけど、どっかに鏡とかってないかな?ちょっと確認したいことがあるんだけど。」


「ん?鏡かい? 手鏡で良いなら、僕のを貸すけれど。はい、これ」


 そう言って先生は白衣からお手頃サイズの手鏡を取り出した。

 いや、うん。俺の予想が正しければ、十中八九、間違いではないだろう。

 だって現にほら、鏡を受け取ろうとしている俺の手、なんか凄いスベスベだし。めっちゃ白いし。細いし。

 俺はそれを受け取り、今一度覚悟を決め、ゆっくりと鏡を覗き込んだ。


「わーお」


 気付けば自然とそんな声が出ていた。

 先生が怪訝な顔をして、こちらの顔を覗いてくる。

 けれど不思議とパニックにはならなかった。まるで、そうであることが正しいかのような、そんな気持ち。




 でも、一つ。一つだけ言わせて欲しい。

 言うって言っても、心の中で叫ぶだけだが。





 入れ替わってるぅーーーー!?



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