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俺はお前で、お前も俺で。  作者: むむ
第1章 〜混ぜるな危険? いいえ、混ぜたら奇険です〜
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〜プロローグ〜 はいはい、どうせまた死ぬんでしょ。

 

 ーーそれはまるで、時が止まっているかのような錯覚。

 煩かった喧騒もいつの間にか消え、静寂に包まれている。


 そう思えるほどに、さっきまで自分を取り巻いていた時の波は淀んでいた。




 どれぐらい経ったのだろう。

 体感にすると10分、といったところか。

 伸ばした腕が未だに空を掴んでいるところを見ると、実際の時間ではまだ1・2秒しか経っていないように思う。




 目の前には見知った女性。

 それもそのはず、なぜなら彼女は幼馴染だから。


 横には、今にもぶつかりそうな距離に佇む大型トラック。

 これが急ブレーキが間に合って、本当に止まっているのだとしたら、どんなに嬉しいことか。




 ……そう、テレビや漫画でよく目にするあの光景。

 咄嗟に体が飛び出してしまったーーとか、危険を介した瞬間周りがスローモーションに映る、だったり、そんなもの、どこか対岸の火事で自分には関係のないことだと思っていた。


 いや、世の中の人の多くは同じことを思っているに違いない。

 だって、生きていくうちにこんなイベントある方がどうかしている。



 それが今、自分が当事者となって経験しているのだから、人生とはいやはやどうしてわからないものだ。



 足掻くのはやめよう。

 刻一刻と迫る最期の時を、俺は素直に受け入れようと、ゆっくりと目を瞑った……。










 とかなんとか、ちょっとしみじみと語ってみたけどさ、良い加減次のアクションに移ってくれないかな!

 どんだけこの状態で待機してないといけないの!?

 いや確かにスローモーションに感じるとは言うけどさ、度がすぎる状況だよこれは。

 さっきから何も一転しない。え、もしかして、本当に止まった?時が止まった?

 待って待って待って。いや、動き出したら確実に死ぬよ?うん、それはもうなんつーか現状見ればわかる。

 絶対助からないもん。マジで轢かれる2秒前ってやつだし。

 だからと言って、永久にこの姿勢のまま過ごさなきゃいけないって、それはそれで地獄じゃねーか!

 行きも地獄帰りも地獄、前門の虎後門の狼だよ!



 そもそも!こんな状況に陥ったのは何もかも全てこいつが悪い!

 こんの阿保面丸出しの女、全て丸っと全部100%こいつのせいだし!

 何急に走り出してんの!?


「あっ、猫ちゃん待て待てー!」


 じゃねぇんだよ!

 幾つだと思ってんの!?

 俺もお前も、もう今年で25だぞ!?

 四半世紀生きてきて、その行動は最早恐怖だよ!

 三年目にしてやっと仕事が慣れてきたとか以前に、もっと別のこと習った方が良かったんじゃないですかねアキラさん!?

 そんでもって、猫は実はただのビニール袋でした、なんていうテンプレ付き。

 もうね、アホかと。

 この一大事件が巻き起ころうとしている最中、紐解いてみればきっかけがこんなしょうもないことだったなんて、誰が予想できるか。


 まぁアホだなんて俺も人のこと言えないけど。

 ……そうですよ、そのアホを助けようとして気づいたら手を伸ばしてたアホがもう一人、ここにもいますけど、何か?

 そーだよ、惚れた男の弱みだよ、悪いか。

 どうせ今更言ったって聞こえてないだろうし、聞こえたところで二人ともお陀仏だからこの際言わせてもらうけどな!

 てゆーか、時が止まってる最中で喋れないから、心の中で発言で、そもそも聞こえてないだろうけどさ!

 あー、そうだよ!昔からお前が好きだったよ!

 お前みたいなやつ、好きじゃなかったらこの歳までずっと面倒見てねえっつーの!


 ……こんな状況で告白とか後にも先にも俺ぐらいだろ、これ。

 半ば自棄になって言っちゃったけど、まぁ最後の言葉としては上出来かな。






 …………おい。

 ……おいおいおいおい。良い加減にしろよ?

 いつになったら動き出すんだよ!

 このパターン二度目だから!もう良いから!


 ていうか折角カッコよく決めたのに。

 なにこの、じゃあねって言ったのに結局帰る方向一緒だった時みたいな気まずさ。

 恥ずかしぃー!頼む!いっそ誰か俺を殺してくれ!

 いや、何もせずとも勝手に死ぬんだろうけど!

 今は1秒でも良いから早く!轢死じゃなくて恥ずか死にに死因が変わる前に早く!





 あぁ……やっと動き出した。なんだろう、感覚でわかる。

 これ徐々にスローモーションから解放されてって普通の時間軸に戻ってくやつだ。

 静かだった空間に、だんだんと音が流れ込んで来てるのも感じる。

 まず耳にしたのはツンザクようなトラックのクラクション。

 それを追うようにして、俺の叫び声。

 あー、そういえば、危ない!みたいなこと叫びながら駆け寄ったんだっけ。

 そして目の前には未だ現状が飲み込めてないだろうアホな女が一人。

 きっとこいつはなんで自分が死んだかもわからずに死ぬんだろう。


 ……ん?

 え、待って、え?

 なんでこいつこんなに耳真っ赤なの?

 聞かれてた?え、え、もしかして聞かれてた?

 あいつの後ろ姿、もとい背中しか見えてない状況だけどさ、完全に耳が赤くなってるじゃないですか。

 俺の一世一代の告白が?今後お目にすることのできない、最高にレアな告白が……?




 うっそだろお前!?

 なんであのタイミングで俺の心の声が聞こえちゃう訳!?

 ん、テレパシー?

 死ぬ間際によくわかんないけど、なんかそんな感じの超能力開花しちゃった俺!?

 どうでも良いけど!そんなこと大した問題じゃねーんだよ!

 こいつもこいつで、俺の心の声が聞こえる余裕があるんだったら、今どんな状況かわかれよ!

 なんで自分の命の危機より俺の告白に意識が傾いてんだよ!

 あ、わかったぞ、こいつ底抜けのアホだ。迸るほどアホだ!アーホアーホ!!

 いや知ってたけど!




 あっ、待って、こんな状況で死にたくない!

 心残りできた!今!この瞬間!

 ちょ、ストップ!トラックストォォオオオップ!!







 ーーーー俺は死んだ。チーン。






 ……なんて。

 こうして俺の、長いようで短かった人生は、これを最後の言葉として幕を閉じた。


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