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立春から  作者: 若松ユウ
6/7

#005「強そうで弱い俺、弱そうで強い僕」

@源家

サクラ「パターン、その二。スマートカジュアル。ホテルやレストランとか、ちょっと畏まった場所に行く時に着る服だね」

タイラ「入り口で、お呼びでないと、冷たくあしらわれないような格好だな」

ナルミ「多少はアレンジしたけど、基本は制服なのね」

サクラ「制服がある学校に通ってるあいだは、それをベースにするのが無難だからね。社会人になったら、スーツが基本になるんだけど」

タイラ「紋付袴ではないのか」

ナルミ「先生。ここに文明開化以前の人間が居ます」

サクラ「頭はザンギリのようですけどね」

サクラ、タイラの髪をいじる。

タイラ「触るな、橘。――ブレザーを徳利のセーターに替えるだけで、印象が違うな」

ナルミ「徳利じゃなくて、タートルネックよ。先に言っておくけど、これは外套じゃなくてコートだからね」

サクラ「コートを着て一節。ガイトウ演説って訳か」

タイラ「笑えないな。妹に講釈垂れられる、俺の身にもなってくれ」

ナルミ「スカートは、そのままにしないと駄目なのかしら?」

サクラ「うぅん。トップスをハイゲージのニットに替えてカジュアル寄せたから、ボトムスはドレス寄りのままにしたけど、トップスを制服のままにして、ボトムスをパンツルックにしても良いよ。要は、バランス感覚だね」

タイラ「ハイゲージね。エヌゲージやエイチオーゲージの仲間か?」

ナルミ「先生。このおじさんに、とっくり言って聞かせてください」

サクラ「あとでワンツーマン補習しましょうね、タイラくん」

サクラ、衣装ケースを見る。

サクラ「コーディネート次第だとは言っても、どう頑張っても使えないアイテムがあるのも確かだね」

タイラ「橘でも手に負えないか?」

ナルミ、衣装ケースから中身を取り出す。

ナルミ「蛍光塗料で髑髏の死神がプリントされた、黒いティーシャツ。カラーやカフスの裏、ボタンホール周りやポケットの縁に豹柄があしらわれた、真っ赤なシャツ。背中に派手な登り竜の刺繍が入った、光沢素材のスタジャン。迷彩柄のカーゴパンツ、チェーンやスタッズが付いたアクセサリー」

サクラ「ヤンチャな過去が伺われるね」

タイラ「どれも安物だから、もったいないという気持ちは無いんだが、捨てるに捨てられなくてな」

ナルミ「でも、使い道の無いものを保管しておいたって、押入れの肥やしになって邪魔なだけよ。この際だから、まとめて処分しちゃいなさいよ」

ナルミ、衣装ケースに詰め込みなおす。サクラ、ナルミを制止。

サクラ「待って、妹さん。これは、タイラくんの持ち物だから、タイラくんが自分で捨てたくなったときに捨てるべきだよ」

  *

タイラ「今日は助かった。礼を言う」

サクラ「どういたしまして。お役に立てたようで、光栄だよ」

タイラ「これで妹も、少しはオシャレに気を配るようになるだろう。それにしても、どこで洋服の知識を仕入れてるんだ?」

サクラ「大半は家で定期購読してる雑誌の受け売りだよ。レモンページとか、デニッシュとか。お店には、そういう雑誌は置いてないの?」

タイラ「生活情報誌か。生活の手帳や通販暮らしなら置いてあるが?」

サクラ「顧客の年齢層が高そうだね。他には?」

タイラ「あとは、週刊誌ばかりだ。少年漫画雑誌に、ゴシップ雑誌に、ビジネス雑誌」

サクラ「結構、たくさんあるんだね。古い雑誌は、どうしてるの?」

タイラ「紐で十字に括って、資源ごみに出してる」

サクラ「量が多いと、大変じゃないの?」

タイラ「毎月のことだから、もう手慣れたものだ」

サクラ、無言でタイラに注目。

タイラ「ん? どうした、橘」

サクラ「僕の住んでる町は、偶数週の土曜日が資源回収の日なんだ」

タイラ「そうか。それなら、明日だな」

サクラ「この前、お姉ちゃんが、夜中に唐突に模様替えを始めてね。髪を切ったから、ついでに部屋の中の不用品も捨てるんだ、なんて言って。可燃ゴミや不燃ゴミは処分し終わってるんだけど、溜め込んでた科学雑誌は、まだ玄関に無造作に積んであるままなんだ」

タイラ「それは、大変そうだな」

サクラ「今日は両親は遅くまで帰ってこないし、お姉ちゃんはラボに篭るっていってたから、僕一人で括って出さないといけないんだよね。アドバイスで疲れてるけど、もうひと頑張りしなきゃ」

タイラ「分かった、分かった。これから手伝いに行ってやるから、それ以上、俺を責めるような眼で見詰めないでくれ」

サクラ「やった。ありがとう、タイラくん」

タイラ、小声で呟く。

タイラ「ハァ。普通に手伝ってくれって言われたほうが、十倍はマシだよ」

サクラ「何か言った?」

タイラ「何でもない。ホラ、早く行くぞ」


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