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立春から  作者: 若松ユウ
4/7

#003「食べ盛り、働き盛り」

@教室

サクラ「よく食べるから、一日にどれくらい食べてるか記録してもらった訳だけど」

サクラ、端末の一点を指差す。

サクラ「この満腹弁当って、何?」

タイラ「お好み焼きとハンバーグとナポリタンが入った弁当だ。駅の南側に、セブンマートがあるだろう? あの店で売ってるんだ」

サクラ「なるほど。それと、おにぎり二個が昼食で、帰りにピザまんと唐揚げを買い食いして、おやつにポテトチップスとポップコーンを平らげた、と。しかも、これに加えて、朝食、夕食、夜食も食べてるんだ。一日六食? 胸焼けしないのが不思議なんだけど。――はい、ありがとう」

サクラ、タイラに端末を返す。

タイラ「どうも。――食べた分だけ、身体を動かしてるからな。これで分かっただろう?」

サクラ「よく分かったよ。身長は僕とほとんど同じなのに、体力差がある理由」

タイラ「自棄食いは良くないが、食べられるときに、しっかり食べなきゃ駄目だぞ、橘。聞けば、嫌なことがあると食事を抜くそうじゃないか」

サクラ「食欲は精神状態に依存するんだよ。無理して食べたって、気持ち悪くなるだけだもの。それより、その話は誰から聞いたの?」

タイラ「妹から。カットに来た橘の姉ちゃんと仲良くなったようでさ。連絡先を交換したらしくて、しょっちゅう話し込んでるんだ」

サクラ「そういうことか。タイラくんの妹さんと昵懇になるのは結構だけど、弟のプライベートを吹聴しないで欲しいな」

タイラ「俺も、その意見には同感だな。妹に、どれだけ兄としての威厳を削がれたことか」

サクラ「きょうだいって、面倒で厄介だね」

タイラ「それな。あ、そうだ。また妹について相談なんだけどさ」

サクラ「何? 愛用の模造刀をストーンでデコレートされたとか?」

タイラ「違う、違う」

サクラ「セントくんの被り物をするようになったとか?」

タイラ「ちがぁう。いい加減、この前の一件は忘れてくれ」

サクラ「あんな面白い一幕、ユーフォーに攫われでもしない限り忘れられないよ。末代まで語り継ごうかな」

タイラ「記憶力の良さを、こんな時に使わないでくれ」

サクラ「参ってるみたいだから、冗談は、この辺にしておくよ。それで、何の相談なの?」

タイラ「妹が、全然オシャレに興味が無くってさ。俺が中学時代に着てた服を着ようとするんだ」

サクラ「見た目より実用性重視で、デザインの違いに頓着せず、メンズでも平気なんだね。混ぜ物や飾り付けをごまかしに感じる年頃だし、マニッシュガール路線もクールでスタイリッシュだな、と思うけど、何か気懸かりな点でもあるの?」

タイラ「マッシュだか何だか知らないが、そういう洒落た感じでは無いんだ。色気より食い気っていうかさ。シャツ一枚買う金で、ドーナッツが何個食べられるかとか、靴一足買う金で、ハンバーガーが何箱食べられるとか、上着一枚買う金で、ピザが何枚食べらるとか、そういう天秤の掛け方を、ってコラ。何で腹を抱えてるんだ?」

サクラ「やっぱり、兄妹で似てると思って」

タイラ「また、その話かよ。まともに取り合う気が無いなら、もう相談しないぞ」

サクラ「ゴメン、ゴメン。ちゃんと聴くから。結局のところ、僕に何を頼みたいの?」

タイラ「初心者でも簡単に出来るオシャレがあれば、教えてやって欲しいんだ」

サクラ「分かった。でも、今日ではなくて、明日以降にしてくれるかな?」

タイラ「ん? 何か用事か?」

サクラ「アルバイトだよ。画廊を手伝うことになってるんだ」

タイラ「あれ、今日だったか。了解。それなら、明日の放課後に」

サクラ「ゴメンね。事前に伝えておけばよかったね」

タイラ「気にするなよ。曜日や日付が固定されてる訳じゃないんだろう?」

サクラ「そうなんだ。いつも急に声が掛かるものだから。悪いね」

タイラ「気にするなよ。ま、頑張って積読を消化しろよな」

サクラ「フフッ。そうするよ」

サクラ、時計を見る。

サクラ「そろそろ、移動しようか」

サクラ、授業の用意を持って立ち上がる。

タイラ「次の時間は、江口の化学だろう? ゆっくり行こうぜ。チャイムが鳴ってからでも、充分に間に合う」

サクラ「駄目だよ。キクチ先生に見つかったら、生徒指導室行きだよ?」

タイラ「それは嫌だな。しょうがない。移動するか」

タイラ、授業の用意を持って立ち上がる。


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