#002「雄々しさ、女々しさ」
@橘家
サクラ「うわ、メデューサだ」
モミジ、ドライヤーを止める。
モミジ「フハハハハ。貴様を石像にしてやろうか」
サクラ「蝋人形ではなくて?」
モミジ「そんなヘビーでメタルな相撲好きではないわ」
サクラ「それなら、伺います。失礼ですが、おいくつですか?」
サクラ、整髪スプレーをマイクに見立て、モミジに向ける。
モミジ「十万とんで二十三歳」
*
@源家
タイラ「下手したら、クラスの女子より女子力が高いかもしれないって言ってたからな」
サクラ「そんなことないよ。妹さんは、買いかぶりすぎだよ」
タイラ「女が、他人のどこを見て女らしさを感じるかは、男には分からないものだぞ?」
サクラ「男性が、他人のどこを見て男性らしいと感じるか、女性には分からないのと一緒にして考えてない? あくまで、どちらも想像でしか判断できないんだよ、タイラくん」
タイラ「そりゃあ、本質というか、実感というか、その辺の深いところは理解できないけどさ。何となく、これはこうなんじゃないかって考えられれば、それで良いじゃないか」
サクラ「表面的だね」
タイラ「上っ面さえ理解するのを放棄するより、何倍も良いだろう?」
サクラ「そうかな? わかった気になって、誤解を本当だと思い込むことになっても、それで良いといえる?」
タイラ「何が本当か、教科書みたいに正解があると思ってるのか? そうだとしたら、それは間違ってると思うぜ。俺は、その人が理解したことが、その人なりの正解なんだと思ってる」
サクラ「その、個人の確からしい理解の集積の中に」
タイラ、片手でサクラの発言を制する。
タイラ「それ以上は言うな。そろそろ俺の理解の範囲を超える」
サクラ「それなら、まとめるね。女性心理が本質的な実感として理解できない以上、タイラくんが妹さんの気持ちを理解することも、僕がお姉ちゃんの気持ちを理解することもできない。ここまでは良い?」
タイラ「あぁ。だが、それ以上は」
サクラ「オーケー。ここまでにしておくよ。ここから議論が盛り上がるところだけど、しょうがない」
タイラ「それにしても、何でこんな話になったんだったかな。たしか、今日は天気が悪いって話をしていて」
サクラ「お姉ちゃんは、湿気が多いと髪に変な癖が出てくるという話になって」
タイラ「与謝野晶子風の無造作ヘアーだったな」
サクラ「作者ではなくて、作品名だけどね。――それで、カラーとかパーマとか洗髪とかのサービスは無くて良いから、安く手早く髪を切りたいらしいんだって言ったら」
タイラ「それなら、俺の店で切れば良いって言ったんだったな。近所から角の床屋とか裏通りのパーマ屋とか呼ばれる店で、若い女性は滅多に来ないから喜ばれるだろうって」
サクラ「それで、妹さんと話が合うかどうかって話になって。――そうだ。妹さんも交えて中学のオサライをしようよ」
タイラ「明日からな」
サクラ「今日からではなくて?」
タイラ「今日は天気が禍々しいから駄目だ。何だか、地獄から悪魔を喚べそうな空模様じゃないか」
サクラ「フハハハハ」




