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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
カメントリア奪還戦
95/144

11

 平原での戦闘を終え、勝利した王国軍はそのまま進軍を開始。カメントリアへと向かっていった。

 できることならば、俺もそれに同行したかったのだが、さすがに機体が無ければ操縦士なんてただの足手まといだ。

 そのため、機体の修理が完了していないバティスと俺はここで待機、突撃してくる姫様の確保をすることになった。

 その間に、俺の部隊には、破壊した敵機から使えるパーツを回収するように頼んである。やはり、操縦士である以上、機体は絶対に必要だからな。

 寄せ集めでもいいから、アルミュナーレを何とか動かせる状態にしておきたい。

 そして、待つこと半日。日が傾き始めたところで、姫様を乗せた魔導車が平原へと到着した。


「あら、我が騎士、こんなところでどうしたの?」


 そう言って魔導車から顔を出し、不思議そうに首をかしげるバカ姫様に、俺はずかずかと歩み寄り、目一杯の笑顔で答える。


「私の機体が大破しましたので、修理をしつつ姫様をお待ちしておりました。いやはや、驚きましたよ。ここでの勝利が決まった瞬間には、基地を飛び出しておられたようで。いったいどういう事か、説明を聞いても?」


 俺の笑顔に何かを感じ取ったのだろう。姫様は、スッと魔導車の中に顔をひっこめる。そして、中からすぐに出してと声が聞こえてきた。


「行かせるか! おいこら、ちゃんと説明しろ! 今回は出てこないはずじゃなかったのか、こら!」


 ドアの取っ手を掴み、ガバッと開く。

 焦った様子の姫様は、そのままの姿で固まっていた。


「そ、それはあれよ。戦いで疲れた兵士たちに、癒しの言葉を与えようとね。士気って重要でしょ?」

「ご安心ください。ここでの勝利で士気は最高潮です。すでにジェード部隊長指揮の下、部隊を再編しカメントリアの奪還へと向かっておりますので、ここでゆっくりとお待ちください。きっと吉報を届けられることでしょう」

「むむ、我が騎士も言うようになったわね。私に遠慮が無くなってきたわ」

「当たり前です。姫様に遠慮していたら、何も解決しないことを理解しましたので。まあ、とりあえず魔導車から降りましょうか。テントも用意してありますので、お話はそちらでしましょう」

「ふぅ、仕方ないわね。少し気になるフレーズも聞こえてきたし、詳しく聞くわ。案内してくれるかしら?」

「はい、こちらです」


 俺は姫様とその従者たちを連れて、設置しておいたテントへと向かう。

 一応王族を迎えられる程度には大きなテントだが、内装は急増のため決して良いものとは言えない。

 とりあえず中央の大きなテーブルに地図を広げ、折り畳みの椅子を並べているだけだ。

 姫様をそのまま上座へと誘導し、俺はその隣の席に着く。


「それで、エルドの機体が大破してるって話だけど、どれぐらいで直りそうなの? カメントリアの奪還戦には加われそう?」

「元の状態に戻すのは不可能です。派手にやられたんで、ジェネレーター以外は総とっかえなので」


 俺は自身の機体の状態をかいつまんで姫様に説明する。

 とりあえず、現状では全く動かすことは出来ず、方法があるとすれば、回収したパーツを使って、即席の機体を作ることだけということは伝えた。

 そして、姫様に尋ねる。


「とりあえず、パーツは集めさせていますので、姫様の許可があればいつでも修理に入れます。それなら、明後日には動かせるかと」

「敵の機体のパーツねぇ、それって大丈夫なの?」

「とりあえず色さえ変えておけばなんとかなります」


 攻撃を中途してくれれば、その間に対処は出来る。んで、俺が誰であるかを相手側に伝えれば、問題ないだろう。実際、戦闘中なんて機体の細かいパーツまで見ていられる余裕はないしな。色で判別しているのが大半だ。


「分かったわ。応急修理を許可します。その代りになるべく急がせなさい。出来ることなら明日の夜には動かせるように」

「ずいぶんと急ぐんですね。何か理由が?」

「敵の状態からするに、時間を掛ければ八将騎士がまた出てくるわ。そうなったら、今の王国軍に抑えられる機体は無いわ」


 なるほど、カンザスが破れた情報が入れば、帝国側は新たな八将騎士を投入してくる可能性もある。その上、一人なら負けたのだから二人以上ということも。

 しかし、俺は機体を失い、手に入るのも寄せ集めのパーツで作ったハリボテだ。そんな状態になれば、確かに勝ち目はない。

 姫様はそうなる前に、一気に国土を取り返してしまおうということなのだろう。


「分かりました。部隊の連中には急ぐように伝えます」

「それと、本体への連絡は可能かしら?」

「ええ、一応伝令は何名か待機させていますが」

「なら後で手紙を書くから、それをジェードに届けさせてちょうだい。それと、本国への手紙もね。私の予想が正しければ、急がないと八将騎士以上に面倒なことになるわ」

「予想ですか? またアヴィラボンブが来るとでも?」


 前線部隊と本国への連絡となれば、防空警備への注意ぐらいだろうか。


「いいえ、それよりももっと厄介なことよ」


 姫様はそう言って、地図にあるカメントリアの基地を睨み付けるのだった。



 姫様との話し合いを終え、許可を貰ったことをオレールさんたちに伝えに行くと、そこにはキャリアーの上ですでに修理が行われている俺の機体があった。


「あれ、もう修理始めてたんですか?」

「当然じゃ。直すだけなら問題にはならん。時間もかかることだからのう、許可が出る前に動くのが整備士の鉄則じゃわい」

「なるほど」

「それで、もちろん許可は出たんじゃろうな?」

「ええ、もらってきました。ただ明日の夜には動かせるようにしろってことですが」

「機体自体なら問題ない。問題になるとすれば」

「操縦システム周りですか」


 俺の機体の操縦席は、フルマニュアルコントロールの最適化のために、左腕用のレバーが外されていたり、モニターが追加されていたり、ボタンの配置が換わっていたりする。

 そのため、普通の機体の操縦をこれに合わせようとすると、確実に無理が出てくるのだ。

 他の機体から操縦席をかっぱらってこられれば最高なのだが、戦闘が付いた状態の機体なんて、全て操縦席が破壊されているため、替えのパーツもほとんどない。

 物理演算器(センスボード)だって同じことが言える。


「戦場じゃ、ないない尽くしなぞ当然なんじゃがな。さすがに泣き言の一つも言いたくなるわい」

「泣きたいのはこっちよ!」


 オレールさんが、俺に愚痴っていると、操縦席から悲鳴にも似た声が聞こえてきた。

 そして、カリーネさんがゴーグルを上げながら顔を出す。


「あたしが隊長の操縦に合わせてほぼ全部にアレンジ加えた傑作(センスボード)を一日で修正しろですって! 無茶も大概にしてほしいものよ! まあやってやるけどね!」


 それだけ言い残し、カリーネさんはすぐに操縦席の中へと戻っていってしまう。


「あの啖呵は頼もしいのう」

「後が怖いですけどね」


 何を要求されるのだか……まだホストだけならいいのだが、ブランド物の宝石や鞄まで要求されると今の給料じゃちょっと厳しいかな。姫様に給与アップか特別ボーナスの交渉でもしてみるか。


「儂もそろそろ戻る。何か機体にしておいてほしいことはあるかのう? 可能ならばやっておくぞ」

「とりあえず武装は基礎型でお願いします。それと、塗装は白に塗り直しておいてください」

「武装は了解した。じゃが、塗装はちと難しいのう」

「塗り直すだけでは?」

「帝国の機体は色が濃いからのう。白を塗るだけでは、下地が透けるんじゃよ」


 ああ、なるほど。

 帝国の機体は、全て深緑色に赤のラインで統一されている。その上から白の塗料を掛けたとしても、下地の色が濃すぎて浮き出てしまうということか。


「しっかりとした整備場なら、塗料もたっぷりあるから何度も塗り直したりできるんじゃが、ここじゃそれも難しい。おそらく少し変色することになると思うぞ。出来るだけやるが、緑が軽く見える程度は覚悟しておいてくれ」

「分かりました。まあ、遠目から違いが分かれば十分でしょう」

「分かった」

「では後はお願いします」


 後のことをオレールさんに頼み、俺はキャリアーを後にする。

 完全に日が沈んだ平原は真っ暗で、所々に設置されたテントから洩れてくる明かりがあるだけだ。

 その中を進み、自分用に用意されたテントの幕を開ける。


「あ、やっと戻ってきた」

「アンジュ?」


 テントの中にはアンジュがいた。ベッドに腰かけて、刺繍をしている。

 服装はいつものメイド服ではなく、ワンピース型のキャミソールだ。


「えへへ、エルド君に夕食作って持っていくって言ったら、今日はそのまま上がっていいって言われたから、お言葉に甘えちゃった」


 アンジュが視線をテーブルの上へと向ければ、そこには布のかかったバスケットがある。刺繍をベッドに置き、アンジュはそのバスケットへと歩み寄り、布を取り去った。


「じゃーん、戦場限定特製帝国風サンドイッチだよ」

「戦場限定ってなんだよ。初めて聞いたぞ」


 なんか物騒な限定品だな。


「ほら、クロイツルは強襲で奪い返したじゃない? だから、帝国の食糧とかも結構残ってたんだ。だから、それを使って節約しながら作る戦場ご飯。だから戦場限定なのです!」

「凄いな、サポートメイド」


 サポート能力が半端なさすぎる。


「さあ、食べてみて。私も味見したけど、結構美味しかったよ」

「ほう、では早速」


 アンジュに促されるままバスケットの中のサンドイッチを手に取りかじりつく。

 若干パサついたパンに、野菜の酢漬けとあぶり干し肉。割と平凡な戦場食ではあるのだが、確かに食べてみるとかなり美味い。これはソースがいいのかな? 少しピリッとしていて、疲れた体に刺激を与えてくれる。それにどこか懐かしく感じる。


「どうどう」

「なかなか行けるな。ソースがいい」

「だよね、瓶詰めになってたのを使ったんだけど、これ凄く体力が回復するんだ。たぶん唐辛子とかニンニクとかいっぱい入ってるんだと思う。王国だと臭いの強いのって敬遠されがちだから、あまり使われないし新鮮な感じ」

「そうか、唐辛子とニンニクか」


 懐かしさの正体はこれだな。ジャンクフード的な濃い味付けが前世を思い出させるのだ。

 そういえば、ロボ研のメンバーとも大会が近づくとジャンクフード片手に研究室で議論しまくってたっけ。

 俺はそのまま一心不乱にサンドイッチに齧り付き、あっという間にバスケットの中身を空にした。

 十年以上食べてきて慣れ親しんだ、王国の味も好きだが、やはり前世で二十年以上食べてきた味というのはなかなか忘れられるものではないらしい。


「ふう、美味かった。また食べたいな」

「ずいぶん気に入ったみたいだね。基地にも唐辛子とかニンニクとか普通に残ってたから、帰るときに分けてもらおう」

「そうだな。ところでアンジュは何してたんだ?」

「あ、これ? これはね、新しいお守り」

「お守り? それならこれがあるだろ」


 俺は胸元からアミュレットとペンダントを取り出す。

 一つは村を出る時に、もう一つは町で一緒に作ったものだ。両方とも大切な俺のお守りである。


「うん、ただそろそろ新しいのを追加するのもいいかなって思ってね。けど、エルド君の首はもう一杯でしょ? だから、今度は別の場所に着けられるように刺繍にしてみたの」

「縫うのか? さすがに騎士服にはつけられないぞ?」

「ふふふ、私はエルド君の奥さんだよ! 当然縫うのは下着にです!」


 ああ、そういえば俺の隊の洗濯物は全部アンジュが洗濯してるんだった。そりゃ、下着もやりたい放題だわな。


「あまり派手じゃないのを頼むぞ」

「任せて! カッコカワイク仕上げてあげるから!」


 そう言ってニコリと笑う。

 その笑みと言葉は、俺に不安しか残さなかった。


         ◇


「固い砦ですな」

「我が国の国境警備にも使われていましたから当然ですな、ハハハ」

「笑い事ではないのですが……」


 エルドたちを残し先に進んだ王国軍は、カメントリア基地の前まで来ていた。

 日が暮れた今は、少し離れた位置から基地の様子を窺っているが、あわただしさはあるものの、打って出るという気配は感じられない。

 負けたことによる動揺が大きいのだろう。

 もしかしたら配属されている基地の司令官も、今後をどのようにするか悩んでいるのかもしれないとジェードは考えていた。


「あまり悩ませる時間は与えたくありませんね」

「しかし、この戦力であの門を抜けるのは至難の業ですよ」


 乗せてもらっているアルミュナーレの隊長が、自軍の戦力をモニターで確認しながらつぶやく。

 こちらの戦力は、エルドとバティスを除き、アルミュナーレ五機に、先の戦闘でだいぶ削られてしまったアブノミューレ部隊が再編して四つ。

 特別堅固に作られている国境の要塞を落とす戦力としては明らかに足りていない。

 しかし、それでも落とす必要があった。

 それは、つい先ほど早馬によってイネス第二王女から届けられた手紙につづられていた。


「それでも、遅くとも明後日までには落とさなければなりません。周囲の封鎖はどれほど進んでいますか?」

「八割がた完了していますが、逃げ道を塞いでもいいのですか? 砦攻めはあまり知らないのですが、逃げ道を潰すとなりふり構わなくなってくるのでは?」

「ええ、ですが……」


 逃げる道を用意すれば、あの作戦がとられる可能性がある。その可能性だけはたとえ部隊を消耗させたとしても潰す必要があった。


「このまま包囲を完了させてください。明日、明朝に降伏勧告を行い、それに従わなかった場合十時より一斉攻撃を開始します」

「了解。全部隊に通達します」


 その夜、カメントリアの要塞はアブノミューレ部隊によって完全に包囲され、兵士たちの緊張はゆっくりと高まっていった。


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