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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
反撃の狼煙 精鋭部隊突入
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 王都の襲撃の翌日。一番押し込まれているεブロックの前線基地エナハトにもその知らせは届けられた。

 しかし、その情報を聞かされたのは、基地の中でも司令と副司令、兵士隊の総隊長、それにアルミュナーレ隊の隊長たちだけだ。

 そしてその中に、先日隊長に昇任したばかりのバティス・オーバンの姿もあった。


「陛下は崩御、第二王子のユーグ様も亡くなられたそうだ」


 伝令から聞いた情報を司令が伝えると、全員に動揺が走った。

 当然だろう。これまで軍部の統制を執ってきた二人が同時に亡くなったのだ。その影響は計り知れない。


「敵は、襲撃してきた敵はどうなったのです!」

「現在も逃亡中とのことだ。γブロックへ逃走し、第三アルミュナーレ隊が後を追っている」

「近衛たちは何をしていたんだ! こんな時のための近衛だろう!」

「まったくだ」


 隊長たちは、口々に役目を果たせなかった近衛騎士に対して文句を言う。彼らからしてみれば、近衛騎士に選ばれたメンバーは憧れでもあり妬みの対象でもある。彼らが失敗したとなれば、当然文句も出るだろう。


「そんなことより、こちらの影響だ。王都への襲撃は間違いなく敵の計画だ。ならば、その動揺を吐いて攻勢に出る可能性がある」

「敵の動きはどうなっている? 今は確か三十七隊が担当していたはずだが」


 司令の言葉に、バティスが答える。


「昨日今日は今のところ敵の動きに変化はありません。こちらの様子を見るだけ見て撤退しています。もしかすると、基地の動揺を調べていた可能性もありますが」

「ふむ。警備班には上空からの警戒を厳にするように言っておくように」


 敵がこちらの様子を窺っているのだとすれば、今日明日にでも攻勢に出てくる可能性がある。その際に、あの兵器が降ってくるのは予想に難くない。

 対処するための機銃の設置はあらかた終了しているが、司令はそれだけで十分とは到底思えなかった。第一防衛ラインの基地でも、同じようにアヴィラボンブの強襲を受けているが、その時のことを思い出し司令は拳を強く握りしめる。


「これ以上防衛ラインを下げるわけにはいかない。ここを必ず守り切り、後ろ(王都)が安定した後攻勢を掛ける。皆も気を張りすぎて倒れないように注意してくれ。それと、襲撃に関する情報は兵士たちには伏せる。これが知られては、動揺で抜かれる可能性があるからな」

『了解』

「話は以上だ。各員持ち場に戻ってくれ」


 司令の言葉で会議は解散となり、バティスは自分の持ち場へと戻っていった。



「隊長、お疲れ様です。会議はどのような内容だったのですか?」


 バティスが持ち場である機体格納庫へと戻ると、鼻の頭をオイルで汚した少年がレンチで肩を叩きながら話しかけてきた。

 バティスの隊のメンバーであるナイレイだ。


「ちょっとしたお小言だ。数日後にもしかしたら攻勢に出るから、英気を養っとけと」

「そうでしたか、ようやく反抗作戦が始まるんですね」


 反抗作戦と聞いて、ナイレイの表情が明るくなる。

 前線基地を第二防衛線まで後退させてからというもの、基地全体の雰囲気は暗いものになっていた。

 バティスたちがここに配属された時には、ほぼ敗戦ムードともいえるほどだった。しかし、この基地でしっかり敵を足止めできていることで、兵士たちの士気は少しずつ回復してきており、中にはナイレイの様に反抗作戦を希望する声も上がっていたのだ。

 嬉しそうなナイレイとは反対に、バティスは肩を軽くすくめため息を吐く。


「ま、どうせ俺たちは裏方だろうけどな」


 別に反抗作戦が面倒だとか嫌だとか言う気持ちはなかった。逆に、バティスとしても専用機を貰ったのだから戦場で暴れたいところであった。

 しかし、前線基地と言うこともあり、さらにここが一番押し込まれていることもあって、ここには現在十二のアルミュナーレ隊が集まっていた。

 ここまでの数になると、当然上下関係も出てくる。

 アルミュナーレ隊としては第一近衛アルミュナーレ大隊を除いて全部隊が同格のはずなのだが、人間である以上どうしても年齢による壁と言うものが出てくる。

 バティスは十八にしてアルミュナーレ隊の隊長になるという異例の昇進を遂げていた。それを当然よく思わない者もいる。

 エルドでも同じ話が上がりそうなものなのだが、エルドの場合はその戦果で反論を叩き潰していたのだ。そのため、鬱憤がバティスに集中してしまったのもある。

 結果、バティスはアルミュナーレ隊の中でも常に後方で待機させられたり、面倒な基地の警備、物資の輸送などを手伝わされていたのだ。


「とりあえず今は機体を万全の状態に整えて、星空観賞会だ。ナイレイも仮眠はちゃんととっとけよ。サボるとまたドヤされるからな」

「分かってますよ。他の皆も今順番に仮眠をとってます。機体もいつでもいけますよ」

「おお、じゃあちょっと弄ってくるわ」

「始動までですからね」

「分かってるって」


 バティスは軽く手を振って、機体へと登っていく。

 操縦席へと乗り込み、機体を始動させた。

 各種モニターが稼働し、スクリーンに機体状況が表示される。


「うんうん、いい感じだ。俺の望んだレスポンスが返ってくんじゃないの」

「当たり前です。僕たちが全力で整備してるんですから」


 背後から声が聞こえ、バティスが振り返ればナイレイが操縦席をのぞき込んでいた。


「でも本当にいいんですか? せっかくの専用機なのに、ほとんどノーマルのままですよ?」


 バティスの機体は、エルドの機体の様に奇抜な装備を付けている訳でもなく、操縦席を弄っている訳でもない。

 基本的な装備をそのまま利用した機体であり、操縦感覚もアカデミーの練習機とほぼ同じだった。

 ジェネレーターの発展や物理演算器(センスボード)の進化でパワーが上がっているためその辺りの調整こそしているものの、アカデミーを卒業したものなら誰でも乗れる機体になっている。

 バティスの隊のメンバーも皆がもっと改造したり、自由に武装を変えてもいいと言ったのだが、バティスは頑として譲らなかったのだ。


「そりゃ、確かにノーマル機体は専用機よりも秀でたところはねぇかもしれねぇよ。けどな、こいつはどんな欠点も存在しねぇんだ。どんな状況でもそれなりに戦果を出せて、最も操縦者の腕が問われる機体でもある。まさしく俺にぴったりだろ?」

「それ、自分が一番上手いって聞こえるんですけど」

「そう言ってんだよ」


 バティスはククッと笑いながら操縦レバーを握り、フッドペダルを押し込む。

 ジェネレーターの出力が上昇し、激しい振動が操縦席に伝わってくる。


「隊長、駄目ですからね」

「分かってるって」


 ナイレイからの注意を受け、バティスは高めた出力を落としていった。

 そして、そのままジェネレーターを完全に停止させる。

 機体のパネルから光が消え、操縦席が暗闇に包まれる。


「確かに俺は主席で卒業はできなかったし、あいつには結局一回も勝てなかった。けどな、だからって自分が二番手だなんて認めたつもりはねぇんだよ。最後にはあいつにも勝て、俺は操縦技術ならトップだって言い張ってやるんだ」

「おっきい夢ですけど、ちょっと無謀過ぎませんか? あいつって隻腕機人のエルドさん事ですよね」


 隻腕機人。前線兵士たちの間では最近その名と共にエルドの知名度はうなぎ登りだった。

 前線基地に颯爽と現れ、その片腕で多くの敵を屠っていく。その姿は、精密な機械の様に真似できない挙動をしており、押し寄せてくる敵をまさしく鬼神のような働きで掃討していく。それは戦いであって戦いではない。

 もはや蹂躙であると。

 イネス姫の近衛騎士として、立ちはだかる者は容赦なく殺していく。

すべては愛すべき姫様のために。そんな謎のキャッチフレーズまでついて語られるエルドの英雄的な戦いは、基地や近くの町の酒場では酒のつまみとして楽しまれていた。


「隻腕機人ねぇ。あいつ、今は普通に左腕も使ってるけどな」


 以前あった時点で、左腕のアーティフィゴージュはある程度エルドの自由に動くようになっていた。だから、正確に言えば隻腕と言うのは間違いなのだが、今更そんなことをいちいち指摘するのも面倒くさいのでバティスは放置していた。その結果がこれである。


「でも、エルドさんの機体って左腕が武器庫で関節もないからまともには機能していないって聞きますよ?」

「はは、それは違いない」


 鉄柱として振り回すか、防御のための盾にするかぐらいしか使えないのだ。確かに、左腕であると言われれば疑問も湧くだろう。


「まぁ、あいつの戦い方は今はどうだっていいさ。問題は、あいつが確かに強ぇってことだ」


 エルドの実力はよく知っている。アカデミー時代に何度も戦ったし、実際に一緒に戦場に出たこともある。

 そんなエルドが王都を襲撃した敵機を取り逃がしているのだ。


「いったいどんな強さの敵だよ」


 バティスはついさっき聞いた話を思い出し、小さく一人ごちる。その言葉はナイレイには聞こえない。


「何か言いました?」

「なんでもねぇ。俺も寝るわ」

「あ、はい。お疲れ様です」


 機体から飛び降り格納庫を後にするバティスを見送り、ナイレイは再び首をかしげるのだった。



夕方。西日に基地が赤く染まるころ、前線基地に警報が鳴り響いた。


「んだよ、もう少し遅く来いっての!」


仮眠室で眠っていたバティスは、布団から飛び起きて制服を手に取り格納庫へと駆け出す。

今基地に鳴り響いている警報は、最近実装されたばかりの対空警報だ。つまり、アヴィラボンブの空襲である。


「全員そろってるか!」

「はい!」

「サイレンの意味は分かってるな! すぐに所定の位置に! 整備班は退避準備! 可燃物の収納忘れんなよ!」


 アヴィラボンブ空襲時の対応マニュアルに則り、バティスは部隊のメンバーに指示を出し、機体を起動させた。


「バティス機、出るぞ!」


 一声かけ、バティスの機体が格納庫から飛び出す。そして、外壁から帝国側の警備を行っている兵士たちの下へとやってきた。

 兵士たちはすでに対空機銃の射撃準備に入っている。


「兵士長、敵は」

「東の空に発光を確認、数は不明」

「アブノミューレ隊はどうなってる」

「発信できるものから順次出しています。外壁の外に並べてますよ」

「了解、俺はそっちを指揮する。機銃は任せるぞ」

「ええ、任せといてください!」


 外壁の上で力こぶを作るポーズをとる兵士長に苦笑しつつ、バティスは基地の外へと出る。そこには、兵士長が言った通り王国のアブノミューレ達が迎撃準備を整えるべく並んでいた。


「あと何機来れるか分かるか?」

「二十機は可能です」

「ならもっと奥行け。ゲートがつっかえるぞ」

「すみません!」


 ゲートの近くから順番に並ぼうとしていたアブノミューレたちに一喝し、奥へと進むように指示を出す。その間にも、基地から出てきたアブノミューレ達が続々と外壁に並んで行った。

 その数はおおよそ三十。これが今この基地に配備されているアブノミューレのほぼ全機だ。

 今も王都やフォートランを初めとする工場で急ピッチでの開発が行われているアブノミューレだが、前線の数もあってそう多くが配備されているわけではない。

 ただそれでも、アヴィラボンブに対応するにはまあまあの量である。ハーモニカピストレを装備したアブノミューレたちは、なかなかの強さを有しているのだ。


「もうすぐ来んぞ! 全員空にハーモニカピストレ構えとけよ!」

『はい!』


 アブノミューレの操縦士は、アカデミーの落第生や、整備学科などからの希望者だ。故に、練度は甘く実戦経験は無いに等しい。

 緊張した声を返してくるアブノミューレの操縦士たちに大丈夫かと思いつつ、バティスはモニターを空から地平へと戻す。

 そしてズームを掛ければ、暗闇の奥に蠢く影が見えた。


「チッ、やっぱりアブノミューレも投入してきているか。親玉(アルミュナーレ)は何機いる?」


 確認しようとさらにズームを掛けるが、暗闇の中でアブノミューレとアルミュナーレを区別するのは不可能に等しい。

 結局判別を諦め、バティスは王国のアブノミューレたちに注意を促した。


「お前ら、帝国の量産型が来てるから気を付けろ。アヴィラボンブが降ってきた後、戦闘になるぞ」

『了解』

「ほう、それは俺たちの獲物ってことだよな」


 その声は基地の中から聞こえてきた。そしてゲートから出てきたのは、五機のアルミュナーレたち。それぞれに自分の武器を構え、すでに臨戦態勢である。


「地面のは俺たちがやる。お前らは空だけ見てろ」

「ちょうど暴れたいと思ってたところだしな」

「バティス、お前も空見とけよ。子守りはお前の仕事だからな」

「へいへい。んで隊長殿、他の連中はどうしたんですか?」


 やはりそうなったかと思いつつ、残りのアルミュナーレ隊のことを尋ねる。


「他の連中は基地の中で守備だ。昨日の奴がこっちに来ないとも限らない」


 一般兵もいる手前、昨日の奴と誤魔化したが、それが示しているのは間違いなく王都を強襲したアルミュナーレ付きアヴィラボンブのことだ。

 あれであれば、もし撃ち落されたとしても勢いのまま基地内に侵入されかねない。その時の対処として五機を残してきたらしい。


「あいつらクジ運悪いよな。こんなボーナスステージで居残りとはよ」

「違いない」

「隊長たち、相手に何機アルミュナーレがいるか分かってないんですから、注意してください」

「ハッ、ハリボテの後ろに隠れてる連中なんかほっとけ」

「どうせ、守りが剥がれれば勝手に帰るだろうよ」

「とにかく注意してください」


 どうせ聞かないだろうと思いつつも、一応念押ししておく。

 そして、空を見ればアヴィラボンブの群れがだいぶ近づいてきていた。


「アブノミューレ隊、俺の指示に従って発砲を開始しろよ」

『了解!』


 バティスも魔法の発射態勢を取り、アヴィラボンブへと備える。その間にも、他の騎士たちは帝国のアブノミューレ達を潰すため、すでに基地から出撃してしまった。

 守る気のないその姿勢に呆れてため息を吐きつつ、近づいてくるアヴィラボンブを睨み付ける。

 そして、アヴィラボンブがハーモニカピストレの射程に入ったと同時に声をあげた。


「撃ち方始め!」


 ダンッと激しい音と共に衝撃が空気を伝わり鼓膜を刺激する。

 一斉に発射された弾丸は、多くがアヴィラボンブから外れながらも、そのうちの数発が直撃し爆破を起こす。

 空が一気に眩しく輝き、その下に蠢いていた闇たちが照らされた。

 そこにいるのは、大量のアブノミューレ。そしてそれにまぎれて最前線にまで出てきているアルミュナーレ達。

 その数は、優に十機を超えていた。


「なんだこの数は!?」

「この塗装、傭兵か!」

「クソッ、撤退しろ! この数は無理だ!」


 敵が判明し、一斉にあたふたと後退を始める味方のアルミュナーレ隊に呆れつつ、バティスも魔法を放ちアヴィラボンブの数を確実に減らしていく。

 アブノミューレと機銃たちは、かなりの数のアヴィラボンブを落としていった。

 そして、そのうち漏らしをバティスが魔法で確実に処理していく。


「アヴィラボンブに関しては何とかなりそうだな」


 懸念されたアルミュナーレ付きアヴィラボンブもなく、アヴィラボンブの群れは、一発も基地内に届くことなくすべてが撃墜される。

 最良の結果をたたき出した空に比べ、地上はかなりまずい状態だった。

 追いつかれたアルミュナーレが囲まれ、追い込まれているのだ。


「チッ、口だけの連中なのかよ」


 ジェネレーターのフル稼働により熱を排除させ、バティスは彼らを助けるべく機体を平原へと進ませる。

 近場にまで来ていたアブノミューレの一体を剣で貫き、後方の一体を纏めてなぎ倒す。


「隊長たち、何馬鹿なことやってんですか! さっさと基地まで戻りますよ! 後方の部隊と合流します」

「てめぇ、誰に向かって命令して――」

「周囲囲まれてるあんたらにだよ! 死にたくなかったら、大人しく従え!」

「チッ」


 大きな舌打ちが聞こえたが、どうやら撤退には賛同するようだ。

 バティスが切り開いてきた道を使い、敵機の相手をしながらゆっくりと後退していく。

 その間にバティスは前へと出て、傭兵の混じるアルミュナーレ達の前に立つ。


「悪いがここは通行止めだ」

「へっ、一機で何ができる」

「足止め、攻撃、撃墜。何がご希望かな?」


 軽口を返しつつ、周囲の状況を窺う。

 帝国のアブノミューレたちは王国のアブノミューレ達を目指すようだ。王国側は、ハーモニカピストレの優位性を利用し、近づかれる前に少しずつ削っている。そして、アヴィラボンブが収まったところで、基地から新にアルミュナーレ達が増援として出てきた。

 彼らがいれば大丈夫だろうと判断し、バティスは目の前の連中に集中する。

 時間さえ稼げれば、全部のアルミュナーレを集めて戦力として再びぶつけることが出来るのだ。だからこそ、バティスがこの場で目指したのは――


「んじゃ、せいぜい頑張りますかね! これぐらいやりゃあ、俺にも二つ名が付くっしょ。そうすりゃ、女の子も抱き放題だ」


――敵機の殲滅である。


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