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 突如、機体から白い煙を吹き出し始めるフォルツェの機体に警戒を強める。


「気を付けろ。あの白煙が上がってるときに、挙動が異常になる。あれに総隊長もジャン隊長もやられちまった」


 白煙を吹き出すフォルツェの機体を見て、レミー隊長が注意をよこしてくる。まあ、そんなことは見ればわかる。レイラとの会話からしても、明らかにあれがフォルツェの機体の隠し技だ。

 俺はフォルツェの機体を睨み付けるようにしながら、白煙の正体を探る。

 フォルツェは確か氷属性の魔法をいくつか機体に登録していたはずだ。となれば、これは霧か?

 しかし、霧で煙幕を作るにしては霧が薄い。それに、言うような機体の挙動を起こす技じゃないはずだ。となれば、もっと別の意味があるはず。

 もう少ししっかりと観察したかったが、それをレイラが許さなかった。

 片腕を失った状態で、俺に真っ直ぐ斬りかかってくる。その動きは先ほどよりも格段に速い。これは――


「フルマニュアルか」

「出来るのは、あなただけじゃないものね」


 片腕を失った状態ならそれも当然か。フォルツェ側の動きを注意しつつ、レイラと切り結ぶ。直後、フォルツェ機が動いた。

 機体をさらに低くしゃがませ、まるで四足歩行でも始めそうなほど機体を前に倒す。そして、機体の全身を使って一気に加速した。

 その動きは、フルマニュアルよりもわずかに速い。以前見た限界を超える速度の動きだ。

 低姿勢のままフォルツェ機はレミー隊長の機体へと接近する。レミー機のグロンディアアーミーは中距離魔法戦がメインの武装だ。だからああやって近づかれると、その真価を発揮できない。

 レミー隊長は当然後退し、それを助けるようにエドガー隊長の機体が前に出る。

 エドガー隊長の機体は、レイピアを主武器としているところからも分かる通り、近接特化だ。素早い動きで確実に操縦席を射抜くスタイルらしいが、今のフォルツェ相手だと少し厳しいかもしれない。

 早めに援護に入らないと。

 そのためには――


「レイラ、速攻でけりを付ける」

「ごめんなさいね。まともに戦うつもりはないの」


 レイラの機体が突然踵を返し、フォルツェ機同様エドガーの機体に向かって攻撃を仕掛けた。


「なに!?」

「チッ、つれないな」


 エドガー隊長は、すぐに横から迫るレイラに気づき、攻撃を回避する。そのままレイピアで反撃を仕掛けるが、レイラはそれをスルリと躱す。

 そして、レイラの機体の頭上から、フォルツェ機が躍り出た。


「まとめていただき!」


 レイラ機とフォルツェ機の二機が同じいるのを好機と見たのか、レミーがその両腕から火炎を放つ。

 フォルツェ機は、レイラ機の肩を使い、さらに高く飛び上がりその攻撃を躱す。逆にレイラは、マジックシールドを全開にして炎を両側から勢いよく浴びた。

 マジックシールドを全開に発動したとしても、すべての魔法を無効化できるわけではない。

 シールドを超えた炎が機体の表面が勢いよく焼き、塗装が溶けだしていく。

 その間にも、フォルツェ機が頭上からエドガー機に向けてその腕を振るう。そこには、巨大な爪が生えていた。あれは、レミー機に近い武装か?


「場所さえわかれば」


 エドガー隊長は、その爪にカウンターを合わせるつもりなのか、頭上のフォルツェ機に向けてレイピアを構える。


「エドガー隊長、下がれ!」


 だが俺は、炎の中で動くレイラ機を見てとっさにエドガー隊長に声を掛けながら突撃する。

 炎の中から飛び出してきたレイラ機は、すでにボロボロだ。しかし被害は表面だけであることを示すかのように、その腕から突き出される刃は鋭い。エドガー機は、俺の忠告でとっさに機体を後退させるも、回避は間に合いそうにない。

 レイラの刃がエドガー機の操縦席を貫く直前。俺は下から救い上げるように剣を振るい、ギリギリのところでレイラの突きをエドガー隊長の機体から逸らした。

 逸れた刃は、エドガー機の頭部を貫き破砕する。

 だがホッとはできない。まだ上にあいつがいる。

 俺はアーティフィゴージュを振り回しエドガー機とレイラ機を纏めて弾き飛ばす。そして、上空から降ってきたフォルツェの爪を剣で受け止めた。


「ハハ! やっぱり隻腕は対処してくるね!」

「楽しそうに戦いやがって」

「そりゃ、戦争だからね! 楽しいに決まってるさ!」

「俺は楽しめねぇよ!」


 俺は腕に力を込め、フォルツェ機を引き離そうとする。しかし、フォルツェ機の方が力が強いのか、引き離せない。むしろ、押し込まれる。


「んだよ、それ!」


 こっちは出力も燃料供給も、重心の調整も全部手動でやって最適解に合わせてんだぞ。それを、こうも簡単に押し込まれるなんて普通は考えられない。

 なんか新しいシステムでも組み込んでんのか? それとも、あの霧がなんか関係してんのか。


「エルド隊長、離れろ!」


 レミー隊長の声に、俺は機体を勢いよく後方にジャンプさせる。直後、その場にグロンディアアーミーの爪が飛来した。

 その爪は、フォルツェ機の腕と足に食らいつき、機体を地面に組み伏せようとする。


「弱いよね!」


 しかしフォルツェは、その場で機体を回転させグロンディアアーミーの腕を自身の爪へと巻き付け、引きちぎる。

 そして、俺に向かって再び突進してきた。

 俺はハーモニカピストレを取り出し、迫るフォルツェ機に向けて連射する。しかし、細かな左右の移動で、すべての弾が躱されてしまった。

だが、分かったぞ。その動きの秘密。

 そのままハーモニカピストレを投げ出し、地面に突き立てておいた剣を抜いて、フォルツェの攻撃を受け止める。


「その魔法、関節のコーティングだな」

「ハハ! もう気づくんだ! けど、対処はできないでしょ!」


 だろうな。攻撃系の魔法ならば、マジックシールドで減衰したり、完全に打ち消してしまうことも可能だが、自身の機体にかける魔法を打ち消す方法は現在存在しない。

 けど――


「だが戦い方は分かる」


 関節にコーティングをして、摩擦を減らしているのかもしれないが、完全にゼロになるわけではない。

 基地に降ってきたときに、すでに機体がボロボロだったのは、限界値を超えた動きに機体が徐々に壊れてきている証だ。ならば、時間を稼いで相手の消耗を待つ。

 俺は戦い方を防御中心へと変更し、極力最小限の動きで相手の攻撃を躱し、受け止めることに努める。

 こちらの濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)には余裕があるが、温存するに越したことはない。その方が、後の攻めで思いっきり動けるしな。

 だが、俺の戦い方はフォルツェにはお気に召さなかったらしい。


「なんだ、そんな戦い方するんだ。ならこっちにも考えがある」


 フォルツェは、狙いを俺から手負いのレミー機へと変えた。

 レミー機は今両腕が引きちぎられている状態だ。とても戦える状況じゃない。

 俺はとっさに二人の間に飛び込み、フォルツェ機を抑え込む。


「レミー隊長は退避を。今のままじゃ、邪魔です」

「言ってくれるねぇ。けど事実っぽいな。悪いが後は任せる」

「させないわ」

「んだと!?」


 レミー機が撤退しようとしたとき、その横からレイラ機が強襲してきた。

 俺が弾き飛ばした後は、エドガー機と戦っていたはずなのに、エドガー隊長はどうしたんだよ!?

 カメラで確認すれば、エドガー機は格納庫の壁にめり込み、今立ち上がろうとしているところだった。


「エドガー隊長、何やってんですか! 相手は俺の同級生ですよ!?」

「クッ、耄碌したか……」

「あんたまだそんな年じゃないだろうが!」


 レミー隊長からツッコミが飛ぶが、俺も同じ意見だ。

 エドガー隊長ってまだ三十後半だよね? 耄碌とか言えるレベルの年じゃないだろうが。ってことは、まさか実力でやられた? え、片腕のレイラに?

 レイラの強襲で、形勢が微妙にあちら側に傾いている。エドガー機もまだまだ大丈夫だろうが、レイラに押されている以上あまり期待はしない方がいいかもしれない。


「フォルツェ、そろそろ行くわよ」

「そうだね。こっちも限界かも。んじゃ」


 レイラの合図に、フォルツェが何かを示し合わせたように動く。

 二機の狙いが一斉に立ち直したばかりのエドガー機へと向いた。

 エドガー機を潰して、一気に退路を作るつもりか!


「させねぇ!」


 ここでエドガー機が落とされれば、俺一人ではこの二人に対処するのは難しい。

 なら、エドガー機を守るしかない。

 俺は全速力で駆け抜け、三人の間に割り込む。しかし気づくべきだった。スペックが俺より上のフォルツェ機がいるにもかかわらず、俺がその間に割り込めたという事実に。

 気づいたとき、二機の狙いは完全に俺に絞り込まれていた。

 レイラが横から俺の機体の腕を狙い。正面からはフォルツェ機の爪が迫る。


「そういうことか!」


 レイラの剣をこちらの剣で受け止め、フォルツェ機の爪を蹴りあげる。

 無理な体勢で放ったけりは、何とかフォルツェ機の爪を俺の操縦席から逸らすことが出来たが、完全には逸らしきれずアーティフィゴージュを強打する。

 さらに、続けざまに突き出される左腕が、俺の機体の右足を穿った。

 激しい衝撃と共に、バキバキと右足が引きちぎられる。


「しまっ……」


 俺はアーティフィゴージュを地面に突き立て、足の代わりにしながらバランスを取り後方へと駆け抜けた二機を確認する。

 その二機はすでに基地の壁際まで迫っており、魔法を放つところだった。

 フォルツェ機が放った氷槍が壁を破壊し、二機が城下町へと逃走する。

 追いたくても、俺の機体は片足がなくなってしまっている。ただでさえバランスの悪いこの機体が片足を失えば、立っているだけでもやっとだ。

 レミー隊長の機体も両腕を失っているし、エドガー隊長じゃ一人で追っても返り討ちにされるだけだろう。

 町を警備しているアルミュナーレ隊に、あいつらが止められるとは思えない。

 完全に逃げ切られた。


「クソッ!」


 初めての完全な敗北に、俺は自身の拳を操縦レバーに叩き付けた。




 基地から無事脱出することが出来たレイラたちは、大通りを簡単に破壊しつつ町の防衛についていたアルミュナーレたちを一蹴したのち、王都からも脱出することに成功した。

 そして、彼らが真っ直ぐに向かっているのは、あらかじめ決めておいた合流ポイントである。

 そこまではアルミュナーレで半日程度の道のりだが、今のレイラたちにはかなり厳しいものだ。なにせ、他のアルミュナーレに見つかれば間違いなく追い回されるうえ、レイラの機体は片腕がなく、フォルツェの機体に至っては何時動かなくなってもおかしくない。

 そんなボロボロの状況だった。

 残りの濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)も心もとないため、切れるシステムは極力切っての逃走を行っていた。


「フォルツェ、大丈夫?」

「キツイ……」


 ボロボロなのは、何も機体だけの話ではない。

 度重なる激しい戦闘と、リミッティア・ペルフェシィーの使用によりフォルツェ自身も心身共にボロボロになっていた。

 今は、操縦席の背もたれにぐったりと体を預け、フットパネルだけで機体を進めている状況だ。

 リミッティア・ペルフェシィーは、機体の限界を超えた性能を発揮する。しかしそれは、操縦者自身にも限界を超える挙動を操作する操縦技術と集中力を要求する物だった。

 もともと、このシステムを乗せた理由が、フォルツェの覚醒ともいえる圧倒的な集中力時に機体が耐えられるだけの性能を発揮させることが目的だっただけに、その負担は半端な物ではない。


「もう無理。今にも意識が飛びそう……」

「合流地点までは頑張りなさい。そこからは私が護衛してあげるから」

「はーい」


 疲労困憊のフォルツェに比べれば、レイラはまだ余裕があった。

 左腕こそパージしてしまったものの、それは予備のパーツを装着すればいいだけの話であり、レイラ自身の疲労はそこまで激しいものではない。

 エルドとの戦いで緊張こそしていた物の、そのエルドもすぐには追ってこられない状況にできたため、不安も少なく回復は早かった。


「これで戦争が始まるわ。王を殺された国民は黙っていられない。特に、今まで恩恵をあずかってきた町の連中なら尚更ね。それに、少なからず戦線が動けば、辺境の被害も変わってくる。帝国が押すにしても、王国が押すにしても、戦場はより重要度の高い拠点や町を狙うことになるわ。もう、村々を潰す程度の小競り合いなんかじゃ済まさせない」

「んで、レイラはどうするの? このまま帝国に付く? それとも王国に戻る?」

「私にその選択権があるのかしら?」

「無いね」


 エルシャルド傭兵団の一員である以上、そのトップであるエルシャルドが付いた陣営に協力することは決まっている。

 もともと、村を襲った帝国も憎いし、そんな状況を作り上げていた王国も憎い。

 レイラからすれば、どちらがどれだけ多く苦しんでも問題ないのだ。最後にどちらが勝とうとも、それは両者が疲弊しきった後にしか訪れない。

 それに――


「私の居場所はもう無いわ。自分で潰したもの。だから、せいぜい暴れるの」


 どちらの陣営も最大限疲弊するように。少しでも戦争の被害を多くするように。


「いいね、そういう自暴自棄なやり方。僕は大好きだ」

「あなたは戦いが好きなだけでしょ」

「戦いも好きだけど、必死に戦っている人も好きだよ。彼らは輝いているんだ。そんな彼らが命を散らす瞬間、それが一番好きだけどね。綺麗なんだよ。まるで、暗闇で火花が散るみたいに、アルミュナーレから彼らの輝きが解き放たれて散っていくんだ。その瞬間は、どんな景色よりも素晴らしい」


 フォルツェが興奮気味に語るのを、レイラは眉を寄せて聞いていた。


「言ってる意味が分からないわ」

「みんなそう言う。僕の見ているものは、僕にしか見えない。けどそれでいいとも思ってる。僕だけが独占できるからね」

「そう」

「レイラが散る瞬間は、誰よりも綺麗なんだろうなぁ」


 その言葉と共に、レイラの背筋にゾクリとした冷たいものが走るのを感じた。それを抑え込み、冷静をよそって言葉を返す。


「まだ死ぬつもりはないわ。後ろから刺されるつもりもないわよ」

「ハハ、後ろから刺しても、綺麗な光は見えないよ。あれは全力で命を削り合ってこそ見えるものだしね」

「そう、なら見えるのは当分先になりそうね」

「そうだね。けど、死ぬときは全力で戦ってから死んでね。そうすれば、戦場のどこにいても見えるだろうし」

「最初からそのつもりよ」


 その相手はたぶん――

 彼の姿を想像し、レイラの握るレバーに力が籠るのだった。


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