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「なんでお前がこんなところにいる……いや、なぜ帝国の兵器から降りてきた。ことと次第によっては」

「私を殺す?」

「敵対するならな」


 切っ先を突きつけたまま、レイラの答えを待つ。その手は次第にじっとりと汗がにじんでいた。

 まさか、レイラがこんなところに出てくるとは思わなかった。そもそも、レイラは帝国に故郷を襲われていたはずだ。なのになぜ帝国に加担している。

 色々分からないことが多すぎる。場合によっては殺すと言ったが、出来ることならば捕まえて事情を聴きたい。


「そう、エルドもそうなんだ」

「何のことだ」

「エルドも私を、お父さんを殺した帝国兵士みたいに、その剣で突き刺すんでしょ?」

「なっ!?」


 そう言って両手を軽く広げ、体をさらした。

 レイラの過去を知っている俺は、レイラの言葉と行動に、思わずレバーを引いてしまう。

 瞬間、レイラの口元がつりあがった。

 同時に俺は気づく。これがレイラの釣りであることを。

 とっさにレバーに力を籠め、レイラの正面に剣を突き立てようとする。しかし、わずかな隙を突かれ駆け出したレイラが機体の股を通って格納庫へと入っていくのを後部カメラがとらえる。


「甘ちゃんね」

「クソッ」


 完全にやられた。トラウマのはずの過去まで使って隙を作るとか、あいつ行方不明の間に一体何があったんだよ。


「おい、貴様だれぐあっ!?」

「何をやっている!」


 格納庫の中からは、整備士たちの怒声と何かを殴打するような音が聞こえてくる。

 俺は急いで格納庫の中へと入っていくと、そこには二台のアルミュナーレが始動状態で待機していた。

 出撃命令を待って、待機していたのだろう。

 俺はカメラでレイラの姿を探す。しかしどこにも見えない。


「どこに行った!?」


 と、始動状態だった二機のアルミュナーレがほぼ同時に起動する。

 これはどっちかにレイラが乗ってるってことか。もう一機は、レイラの襲撃を受けてとっさに起動させたのだろう。けど間が悪いな。どっちだレイラの乗った機体だ。

 俺がどちらの機体を抑えればいいのか悩む中、整備士の一人が声をあげる。


「こっちの機体を奪われた!」


 俺は整備士の言葉に従い、即座に右側の機体を抑えにかかる。しかし、起動した機体が俺の伸ばした腕を払い、俺の力を利用して壁際へと叩き付けられた。


「エルドの機体、バランス悪そうよね。少し崩せば、簡単に転びそう」

「チッ」


 機体から聞こえてくる声に、俺は舌打ちをする。

 見ただけで俺の機体の弱点を見抜かれた。けど、その程度なら、少し優れた騎士なら誰だってできることだ。俺はそれでも、フルマニュアルコントロールでそれを補うだけの操縦技術を持っているし、基本的には武器を使うから体術を使う距離までは踏み込ませない。

 けど、状況が悪い。

 この狭い格納庫の中じゃアーティフィゴージュに格納されている武器を取り出している間に攻撃されるし、腕を使ったアクロバットな動きもできない。そもそも今の範囲が体術の距離だ。片腕しかない俺の機体じゃ、圧倒的に不利だ。


「俺が抑える!」


 どうしたものかと考えていると、起動したもう一機がレイラに向かって掴みかかっていく。

 レイラは、その機体を正面から受け止めた。

 馬力は同じだ。互いの力が拮抗して、ギリギリと音を立てながら押し合う。


「ちょっと真っ直ぐすぎるわね」


 そんなつぶやきの直後、レイラが掴んでいた両手を思いっきり下へと引き寄せた。

 その勢いに乗って、味方の機体が前へとつんのめる。そこに、膝蹴りが叩き込まれ、頭部が吹き飛びつつ、機体が仰け反った。

 さらにレイラはその場で機体を回転させ、回し蹴りを放つ。

 なんでそんな器用な動きがこんな狭い場所で出来るんだよ。どこでそんな操縦技術身に付けてきた。

 蹴られた味方機は、その衝撃で俺の方へと倒れてきた。

 俺はとっさにその機体を受け止めるも、衝撃に負けて格納庫の壁が崩壊する。

 機体の倒れる衝撃に体を振り回されながら、俺はレバーを操作して味方機を横に受け流し、立ち上がる。


「レイラ、お前半年以上のブランクはどうした!」


 アカデミーからいなくなって、ずっとアルミュナーレなんて乗る機会がなかったはずだ。最低でも一年近くのブランクがあるはずなのに、どうしてそんな滑らかな動きが出来る。

 俺みたいに体で覚えてたのか? まあ、それもあるだろうけど、それでも無理があるだろ。

 これは現役バリバリの動きだぞ。


「ブランクなんてないわよ。アルミュナーレに乗る機会は何度かあったもの。傭兵団に入ってからね」

「傭兵団――さっき城に突っ込んだ奴か!」

「あたり。副操縦士として練習程度に乗ってたのよ。整備とかも手伝ってたしね」


 軽口をたたきつつ、レイラが壊れた壁から出てくる。

 そして当然のように剣を抜いた。


「なんで傭兵なんかに……機体を持ってるってことは、ドゥ・リベープルなんだろ」

「ええ、戦争屋のドゥ・リベープルよ。エルドもなじみ深いんじゃない。フォルツェがよく楽しそうに話してたわ」

「フォルツェ!?」


 よりによってあいつのいる傭兵団かよ。つか、城の突っ込んだのあいつかよ!

 って、突っ込み入れてる場合じゃない。突っ込んだのがフォルツェなら、そのまま大破して炎上なんてことはまずないだろう。

 一応他の近衛騎士たちは城に向かったみたいだけど、フォルツェ相手にどこまでいける。いや、近衛騎士の練度なら捕まえることも可能か? むしろここでレイラを逃がして、フォルツェと合流される方がマズいかもしれない。

 頭の中で皮算用を行いつつ、レイラから取れるだけ情報を取ろうと話しかける。


「傭兵になってどうするつもりだ。帝国に復讐したかったんじゃないのか」

「前はそれもあったんだけどね、色々知っちゃったのよ!」


 斬撃をアーティフィゴージュで受け止めつつ、負けじと剣を振るう。レイラはそれをきっちりと盾で受け止め、力を拮抗させた。どうやら、レイラも色々と話してくれるつもりらしい。ならお言葉に甘えて情報収集といこうか。


「何を知った。アカデミーからいなくなって、何をしてたんだ」

「私はあの後、前線近くをずっと旅してたのよ」


 レイラは、アカデミーから失踪した後のことを、話してくれた。

 それによれば、レイラは前線の村々を転々とし、村人の話を聞いたり仕事を手伝いをしながら、帝国の情報を集め、場合によっては機体を奪おうとしていたらしい。

 しかしそこで手に入れてしまったのは、王国の現状。村の移動を禁止され、餌にされた村人たちの実態。都市部の人間のみが安全を享受し、辺境の村がその危険をすべて被っている現実。

 自分の育った村も同じように餌にされたのだと気づいたとき、レイラの怒りの矛先は王国にも向いてしまったようだ。

 いく度目かの斬撃を受け止め、機体の頭部をぶつけ合う。


「そのことなら俺もつい最近知らされた。けど、それを変えるために、今姫様が頑張ってる!」

「頑張る!? バカを言わないで! 頑張った程度で戦争が止まれば、誰も苦労しない! それに、その頑張りが反映されるまでに、何年かかるの! 十年? 百年? その間、私たちはずっと苦しみ続けろってこと!」

「だからって、王族を殺しても何にもなんねぇだろ!」

「なるわ! 王国と帝国。この二つが全面戦争を始める! 戦争なんて、自分たちの意志で始めることは簡単だけど、止めることなんてできないのよ! なら私は、どちらかが戦えなくなるまで、戦争を加速させる!」

「そんな事すれば、被害は今の比じゃないぞ!」


 滅茶苦茶だ。戦争を加速させて、終戦までの時間を短縮させようなんて。

 確かに陛下のやろうとしている戦争のコントロールよりは現実的かもしれないけど、それに伴う被害が多すぎる。

 何千、何万の死人が当たり前のように出ることになる。そうなれば、王国も帝国もただでは済まない。戦争が出来なくなったとしても互いの憎しみがなくなるわけじゃない。

 国力が回復すれば、また戦争を始めることになる。


「辺境だけが苦しむ今より全然ましよ! 戦争するなら、国が一丸となって戦わなきゃね! 都市部の人間にだって、しっかり恐怖してもらわなきゃ!」

「そのためだけに、何万も殺すのか!」

「それが私の復讐よ!」

「ならそれは、俺が止める!」


 足元を狙って振りぬかれた剣を、俺は踏みつけて止める。


「なっ!?」

「腕が上がったのは、お前だけじゃない!」


 そのまま機体の体重をかけて剣をへし折り、お返しとばかりに斬撃をかます。

 その攻撃は、盾で防がれたがそれでいい。

 俺は即座に剣を手放し、アーティフィゴージュからハーモニカピストレを取り出し、至近距離で盾に向けて全弾打ち尽くすまで連続で発砲した。

 ガンッガンッと激しい音が響き、盾がみるみる内にひしゃけていく。

 系六発の弾丸で、アルミュナーレの盾に罅が入った。


「クッ……」

「これで!」


 俺は機体をその場で回転させ、遠心力を乗せたアーティフィゴージュをレイラ機に向けて振るう。

 至近距離からの発砲で、衝撃からバランスを保つために踏ん張っていたレイラの機体は、その攻撃を避けきれない。

 アーティフィゴージュを盾で受け止めたようだが、遠心力の付いた超重量の鉄塊がそんなもので受け止めきれるわけがない。

 ズドンッと重い衝撃音を発しながら、盾ごと機体を吹き飛ばす。


「きゃっ」


 レイラの機体が倒れたところで、すばやくその上に覆いかぶさりアーティフィゴージュで胴体を抑えつけ行動を抑制する。同時に、剣を取り出し機体の肩に突き刺しておく。これでそう簡単には動けないはずだ。


「降参しろ。その状態じゃもうまともに動けないだろ」

「クッ……ちょっと強くなりすぎなんじゃないの」

「ずっと戦ってきたからな。それにこの機体は俺の専用機だ。俺の操縦方法を最適化するように設計されてる」


 アカデミー時代とは違うんだよ。今の俺は、王国の近衛騎士で専用機持ちだ。技量が近くても、機体性能の差で十分に勝つことが出来る。


「もう一度言う。降参して、操縦席から降りてこい」

「今降りたらその場で首を飛ばされそうなんだけど」

「捕虜の扱いには定評のある俺だ」


 今まで捕虜とったことないけどな! 前の砦の時は、さっさと味方の兵士に任せちゃったし。けど、現状で兵士にレイラを渡したら、どうなるか本当に分からない。俺が管理して、姫様に口利きしたほうがいいだろう。


「そう、けど遠慮するわ。そろそろ待ち合わせの時間なの」

「待ち合わせ?」

「悪いね、待った!」


 突如、俺の頭上から声が聞こえてきた。なんだその、彼女との待ち合わせみたいな軽い口調は!

 驚いてカメラで確認すれば、そこには黒い機体。

 俺はとっさにその場から飛び退り、転がって距離をとる。

 ガンッと重い音を立てて、その機体はレイラの隣に着地した。


「フォルツェ!」

「久しぶりだね、隻腕の! ちょっと王様殺してきちゃった!」

「んだと!?」


 陛下を殺した!? それが事実なら、大問題だぞ。

 いや、それはそれで大問題だが、現状も現状で大問題だ。アルミュナーレ二機が相手となると、ちょっと厳しい。フォルツェも腕は確かだからな。一機が手負いでも、レイラとなれば油断できないし、どうしたもんか。


「フォルツェ、だいぶダメージが入ってるみたいだけど」

「いやー、近衛騎士ってみんな強いんだね。もう能力使わされちゃったよ。まあ、その分の収穫はあったけどね。そっちは、機体こそゲットできたけどって感じ?」

「まあね」


 レイラは刺されている左肩をパージして、片腕の状態で立ち上がり自分を刺した剣を抜いて構える。

 会話からするに、フォルツェは近衛騎士四機を相手にしてたってことか? その状態でここまで逃げてこれるって化け物かよ。それに収穫? まさか全員やられたのか?

 最悪の状態を想定したが、どうやらその心配は外れたようだ。

 基地の中に、増援の二機が入ってくる。


「エルド隊長! そいつを逃がすな!」

「そいつやばいぞ、注意しろ」


 入ってきたのは、レイピアを持った機体と、特殊な腕の機体。ってことは、第一王子の近衛の確か、エドガー隊長だったか。それと第三王子の近衛のレミー隊長だな。残りの二人は? いや、今はそれよりも――


「機体が敵の協力者に奪取されました。黒いののすぐそばにいる機体です」

「協力者がいたのか」

「エルドはそいつの相手してたのか。なんで手こずってんだ?」

「捕まえてたのに、黒いのに乱入されたんですよ」


 遠回しに、お前らが黒いのを抑えられなかったせいだと訴えておく。


「そんなことよりも、他の人たちは」

「一応生きてるよ。機体は大破させられたけどな」

「注意しろ。そいつ、異常な動き方をする」

「異常な動き?」


 前戦った時は、確かに反応速度ギリギリの動きをしていた覚えはあるが、言うほど異常だったとは思えない。


「獣のようだった。機体が動物の様に滑らかに動くんだ」

「へぇ」


 何か新しい技でも生み出したのか? なら、一度正面から受けてみないと、どんな技かは理解できないだろうな。

 アーティフィゴージュから剣を抜きつつ、フォルツェとレイラの動きを警戒する。


「フォルツェ、もう一回使える? ここ切り抜けるの、少し骨が折れるわよ」

「ギリギリかな。一分は動けるだろうけどそれ以上はきついかも」

「なら一分で二機仕留めるわよ。サポートするから」

「分かったよ。じゃあ、行こうか」

「来るぞ!」


 フォルツェの機体が低く構えをとった瞬間、その機体から白い煙が噴き出した。


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