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翌日。俺は単騎でジャカータへの道を進んでいた。
出発してからすでに三時間。そろそろジャカータの影が見えてくる頃だろう。
ここまで来るのにいくつかの村を経由したが、そのどれもがアブノミューレの小隊によって制圧されており、場合によっては降伏しなかったのか村一つが全滅している場所もあった。
俺は通りすがりにすべてのアブノミューレを破壊しながらここまでやってきたが、俺が通ったルート以外にもかなりの量の小隊がβブロック内を闊歩している可能性が高い。
それらもすべて破壊しなければならない面倒くささを感じながらも、今はジャカータへの道を急ぐ。
そして、モニターにジャカータの城壁とそれを囲むアブノミューレの部隊を発見した。
「見つけた。まだ侵入は許してないのか」
ジャカータは内部から黒煙を上げながらも、しっかりと門を守護していた。
外壁の上からは大量の大砲が常に弾を吐き出し、アブノミューレをけん制している。門の外に出ているアルミュナーレ隊は、外壁から離れないようにしつつ戦っていた。
「とりあえず突破して合流するか――いや、燃料もたっぷりあるし、少し暴れさせてもらうか」
合流して作戦を把握してから戦うのも手だが、現状まだ相手はこちらの存在に気づいていない。ならば、強襲をかけて敵の前線を瓦解させてもらおう。
「んじゃ、行きますか!」
アーティフィゴージュから剣を抜き放ち、一気にジャカータを襲う敵の横っ腹へと突撃をかける。
突然現れた俺の姿に、気づいた敵兵が声を上げた。
「敵襲! 北からだ!」
「なに!」
「増援か!」
「何機だ!?」
口々に声を上げながら、北側にいた部隊が俺のほうを振り向く。
だが、そんなのんびりこっちを振り向いてたら!
ズドンッと、セフィアジェネレーターをファイアランスによって撃ち抜かれた一機が爆発を起こす。
「遅いよな!」
爆破を合図とするように、敵側が一斉に大砲を発射する。しかし、まだ距離があるせいで狙いはかなり適当だ。
真っ直ぐ進んでも当たる弾がないことを判断し、俺はさらに加速をかける。
その間にもファイアランスが二機のセフィアジェネレーターを撃ち抜き、ジャカータを包囲する敵の壁に罅を入れた。
さて、距離も近づいてきたし、ここならジャカータの中にも声が届くだろう。
「フェイタル王国、第一近衛アルミュナーレ大隊第二王女警備隊エルド。姫様の命によりジャカータを攻撃中の敵アブノミューレ部隊の殲滅を開始する!」
「第一大隊!?」
「近衛隊がなんでこんなところに!?」
「どうでもいい! 奴も倒せ!」
「そうだ! 相手は一機だ!」
そう、俺は一機だ。一機だけど!
「お前らと一緒にするんじゃねぇよ!」
戦列にできたわずかな隙間に機体を突っ込ませ、すれ違いざまに剣を振るってハリボテを破壊していく。
装甲が薄いおかげで、すれ違いざまに胴へと剣を振るえば、そのまま真っ二つにできるのは助かるな。アルミュナーレだと装甲が固くて途中で止まるんだ。そうなると、後に続けられないからな。
「止めろ!」
「この!」
「甘い甘い!」
わざわざ正面に出てきてくれた敵に向けて、ファイアランスで一機を撃ち抜き、もう一機にはアーティフィゴージュをぶつける。
「この程度じゃ止められねぇぞ!」
「俺が!」
戦列の完全に内側まで入り込んだところで、一機のアブノミューレが大砲を撃ってきた。それは俺の機体への直撃コースをとっている。
俺は即座に機体を屈ませ、アーティフィゴージュで弾道を逸らす。
「へぇ、あれを当てる操縦士もいるのか」
「そこだ!」
大砲を撃ったアブノミューレは、撃った直後から動き出しており、俺の目の前まで接近してきていた。
走り込みながら、操縦席目がけて剣を突き出してくる。
俺は突き出された剣を自分の剣で弾きあげ、それでも体当たりのように突っ込んできた敵機をアーティフィゴージュを使って掬い上げ後方へと放り投げる。
「クソッ!」
「ハハッ! いい操縦士じゃねぇか! ハリボテじゃなきゃいい勝負できたかもな!」
放り投げた隙を突こうとしたのか、横で大砲を構えていた機体に剣を投げつけ、転倒している機体目がけてファイアランスを放つ。
敵機は落下の衝撃で動くこともできず、操縦席を撃ち抜かれた。
「んじゃ雑魚狩り再開だ!」
アーティフィゴージュから二本目の剣を抜き放ち、俺は足が止まっている機体から順番に屠っていくのだった。
エルドが戦列に突撃をした直後、その報告を受けたジャカータの司令部は大慌てだった。
当然だろう。近衛隊のエルドがここにいるということは、姫様が近くまで来ている可能性もあるのだ。
何とかエルドと連絡を取り、姫様の所在を確認するべくジャカータ司令ソロモンは基地に残っている操縦士で動けるものはいないかと探す。
現在ジャカータで攻防を繰り広げているアルミュナーレ隊は全部で七つ。そのうち二機はこれまでの戦闘で損傷してしまい、今は急ピッチで修理中だ。一機は後三十分もすれば出撃可能だと聞いて、その操縦士に伝言を依頼しようと部下に操縦士の所在を尋ねる。
「彼なら医療室で治療中です。おそらく出撃は無理かと」
「二十八隊の副操縦士は」
「今年入ったばかりの新人ですよ? アルミュナーレでの実戦経験もありません。厳しいのでは?」
部下の差し出してきた資料には、今年の新人であるバティスの顔写真が写っていた。
「クッ……いや、今年の新人なら何とかなるかもしれん。前線で暴れている近衛も新人だったはずだ」
「そんな新人で近衛に抜擢されるようなものと一緒にされてはたまらないのでは?」
「とりあえず要請だけは出すぞ。あとはその新人の判断に任せる。同期なら、前線で暴れている奴のことも詳しいだろう」
ソロモンは即座にバティスを呼び出した。
「第二十八アルミュナーレ隊副隊長バティス、参りました」
「よく来た。状況が状況なので手短に話すぞ」
ソロモンは、今エルドが前線で暴れていることと、近くにイネス様がいる場合安全を確保する必要があることを話す。
そして、今動ける操縦士がバティス一人であることも。
「現状エルド隊長と連絡を取るには、あの敵機の中に突っ込む必要がある。新人で実戦経験のない君にはかなり酷な任務になるかもしれない。だからこの任務、強制はしない。君の意思で受けるか受けないか決めてくれ」
部下たちは当然断るだろうと思っていた。
なにせ、基地の外には数百機に及ぶ敵機が存在し、二十八隊の隊長はその敵機にやられて負傷しているのだ。
その姿を見てしまったものが、選択肢を与えられて断らないはずがないと。
しかし、バティスの瞳は輝いていた。
「行きます! ぜひ行かせてください! あのバカだけにいい思いはさせられません!」
「本気か! あの中に飛び込むんだぞ!」
「外壁からあの数を見ているはずだろう!」
「断っても罪にはならない。よく考えるんだ!」
部下たちは口ぐちに説得しようと試みるが、その言葉はバティスには響かない。
なにせ、自分の同級生が目の前の戦場で多いに暴れまわっているのだ。バティスも、つい先ほどまでその光景を外壁の上から見ていた。
だからこそ、余計に止められない。
「あの程度の連中なら俺でも問題ありませんよ。出撃はすぐにでも?」
「機体の修理があと二十分程度で終わるはずだ。修理ができ次第エルド隊長との連絡を試みてくれ」
「了解です。副操縦士バティス、準備に入ります」
バティスは速足に指令室を出ていく。
そして、廊下に出ると同時に全力で駆け出し機体修理中の格納庫へと向かう。
そこでは、二十八隊の整備士たちが、急ピッチで機体の修理を行っていた。そのうちの一人が現れたバティスに気づき首をかしげる。
「バティス、何か用事か? まさか隊長に何か!?」
「いえ、怪我は酷いですが命に別状はありません。怪我も治ればまた機体にも乗れると医者は言っていました」
「そうかよかった……そんじゃ何しに来たんだ? お前は大砲の手伝いだったはずじゃ」
「はい、ソロモン司令からの命令です」
バティスは、ソロモン司令からの命令を隊員に説明する。
隊員たちはそれを聞くと、驚いた様子でバティスに詰め寄る。
「本当にお前が出るのか? 嘘じゃないんだな?」
「ええ、マジもマジ。ようやく俺の出番ですよ」
「マジかよ……そんな大事な役目、なんで新人に任せるんだ?」
「俺しかいないから仕方がないじゃないですか。とにかく、これはソロモン司令からの命令なんですから、指示には従ってもらいますよ! 俺用の物理演算器に切り替えて、機体のバランス調整や設定の変更もお願いします。それが終わり次第出撃しますから急いでください」
「ああもう! 分かったよ! おめーらも分かったな! 分かったら作業に戻れ!」
『はい!』
整備士頭の一声で、隊員たちが再び機体の修理へと戻る。
「バティス、あんま浮かれんじゃねぇぞ」
「浮かれてませんよ。確かに初めての出撃で嬉しいことは確かですけどね」
「ならいいんだけどよ。隊長だって、あいつら程度の相手でもやられちまうことがあるんだ。気を抜けばお前なんて一瞬で殺されるぞ」
「ええ、修理が終わるまでに隊長のところにいます。終わったら教えてください」
「あいよ。しっかり覚悟決めておきな」
整備士頭に肩をポンとたたかれ、バティスは格納庫を後にする。向かう先は、隊長のいる医療室だ。
「隊長、もう起きて大丈夫なんですか?」
医療室を訪れると、ウォン隊長がベッドに腰掛けていた。
その右手にはギプスが付けられ、頭には包帯が巻かれている。顔には額から頬へと、わずかに血が垂れた後が残っていた。
「ああ、体自体のダメージはすくなかったからな。しかし、腕が折れてしまってはもう戦えない。バティスの呼び出しは何だったんだ?」
「俺が出撃することになりました」
「…………そうか。こんな状態の俺が言えることじゃないかもしれないが、気を付けろよ。敵は確かに脆いが、大砲の一発は機体を大破させるだけの威力がある。三機の波状攻撃を受けると、躱すのは至難の業だ。撃たれる前に対処しろ」
「分かりました。気を付けます」
その後、バティスはウォン隊長から戦場での心得や視線の動かし方。武装の維持の仕方など、実践レベルでしか経験できないことを思いつく限り説明される。
そして、しばらくすると病室に整備士頭がやってきた。
「バティス、機体の整備が終わったぞ」
「分かりました。では隊長、行ってきます」
「ああ、活躍してこい」
「伝令役ですけどね」
バティスは整備士頭と共に病室を後にし、足早に格納庫へと戻る。
そのまま機体へと乗り込み、操縦レバーを握った。
正規の隊員になってからは、自分用の設定を作るときにしか触ることのできなかったアルミュナーレだが、レバーを握った瞬間にアカデミーで体に叩き込まれた感覚が戻ってくる。
軽くレバーやペダルを動かし感覚を確かめると、いつもより若干重い感触が返ってきた。そこで、操縦席も一部破壊されていたことを思い出す。
隊長が怪我をしたのは、機体の右わき腹に大砲を受け、その衝撃で操縦席内の一部が破損し右腕に直撃したからだった。
そのため、操縦席も新しい物に交換されていたのだ。
「これぐらいなら問題ない。感覚も戻ってる。操縦技術だって、忘れていない」
「バティス、準備はいいか!」
「はい! ジェネレーター起動させます!」
外からの声に返事を返し、機体を起動させた。
伝わってくる振動に、心臓が高鳴る。
バティスは自分を落ち着かせるために、自分の胸をグッと握る。
「鼓動が早い。けど、それでいい。高めろ、けど冷静になれ。静かに、けど熱く」
「バティスのタイミングで行け」
「了解。第二十八アルミュナーレ隊副隊長バティス、出ます!」
ペダルを踏み込み、機体を前進させる。
そのまま格納庫を出て、正面ゲートへと向かう。その外はすでに戦場であり、今も大砲の音がひっきりなしに響いてきていた。
バティスは、門を管理している兵士に声を掛けて、開門するように頼む。
司令部からあらかじめ通知を受けていた兵士は、すぐに開門の準備を始めた。
その間に、バティスは腰から剣を抜き、両手に構える。そして、魔法をいつでも撃てる態勢で待機した。
ゆっくりと門が開き、その隙間から外の光景が見えてきた。
瞬間、爆発音と共に、隙間から炎が吹き込んでくる。
取り付こうとした敵機を、外壁の大砲が破壊したのだ。
その炎を浴びながら、バティスはペダルを踏み込む。
門の隙間から機体を飛び出させ、近くまで迫っていた残りの二機を一息に破壊した。
「行ける」
敵機を破壊した際の、確かな手ごたえにバティスは確信を得た。
「新手か!」
「後方がうるさいって時に!」
「訓練通りにやればいい」
「んなことは分かってんだよ!」
アブノミューレの操縦士が騒ぎながら新たに現れたアルミュナーレに対して攻撃を仕掛けてくる。
バティスは、すばやく魔法を発動させると、一気に迫ってきていた機体の脚を切り落とした。
広範囲に攻撃を与えられるワイドウィンドカッターだ。広範囲に広がる分威力は低く、対アルミュナーレでは無用の長物であったが、アブノミューレ相手であれば関節を破壊するのに十分な力を発揮してくれる。
わずかな時間で物理演算器にこの魔法を登録してくれたライターに感謝しつつ、バティスは崩れ落ちる機体を無視してエルドの下へと敵機の中を突っ切っていくのだった。
その変化に俺が気づいたのは、戦線に突入し暴れまわってしばらくしたころだった。
「前線が騒がしいな。攻勢に出てるのか?」
どうも門の前からこちらに向けて突撃してくる機体があるようだ。動き的に俺と合流したいのだろうか。
となると、基地から何等かの命令を持ってきている可能性もあるな。
なら一度合流するか。基地内に戻らなくていいのは助かるし。
目的を適当に暴れまわることから合流へと変更し、俺も敵の騒がしい場所へと向けて動き出す。
そしてその機体を見つけた。
周囲をアブノミューレに囲まれながらも、魔法と剣技で次々と敵機を屠っていく機体。
その動きに俺は覚えがあった。
と、向うもこちらに気づいたのか、一瞬足が止まる。
「やっと合流できたか」
その声は、久しぶりに聞く、しかし耳になじんだ声だ。
「もしかしてバティスか?」
「おうよ、エルドが暴れてるって聞いてな。ソロモン司令から姫様は大丈夫なのか聞いて来いって言われたんだよ」
「そうだったのか」
バティスは一瞬止めた足をすぐに動かし始め、敵の連携を崩すように魔法を放ち、孤立した機体を着実に屠っていく。
ちなみに俺は、アーティフィゴージュで周囲をまとめて殴り飛ばしていた。
さすがに暴れまわったせいか、敵機も俺に仕掛けてこようとする機体は少ない。その分バティス機に向かっている機体が多い気がしないでもないが、問題なくさばけているし、まあいいだろう。
「姫様は別のブロックから護衛付きですでに下がっている。今頃ジャカータの後方の町にいるはずだ」
「そうなのか、なら問題ないな。んじゃ俺はそれを伝えに後方に戻るから」
「まあ待て」
せっかくここまで来て暴れているんだ。もうちょっと楽しんでいこうじゃないか。なあバティス君。
「なんだよ」
「俺は今からこいつらの後ろに控えている頭を叩きに行く。このハリボテ程度、バティスなら百機ぐらいは落とせるだろ。つう訳で後任せるわ」
「何言ってんの!? ほんと何言ってんの!? 仮に技量的には問題なくても、燃料が持たねぇっつの!」
「仕方ねぇな。じゃあ五十機でいいよ。その間に一機は潰してくるから」
そういって俺はバティスからの返事を待たずに、反転して再び戦線の後方へと突撃を掛ける。
後方で慌てたバティスの声が聞こえるが、絶好の機会なのだ。逃すつもりはない。
敵機も突然突撃を始めた俺に驚きつつも、進路を塞ごうと前に出てくるが、そんな動きでは俺は止められない。
アーティフィゴージュを敵へと叩き付け、さらにそのまま地面へと突き刺す。
機体が持ち上がる感覚に合わせて、重心を前へと動かし、敵機の後方にいた一体に向けてとび膝蹴りをかました。
メシャリと胸の装甲がつぶれる音と共に、操縦士の悲鳴が聞こえてくる。
「退け、そうすれば助かるかもしれないぞ?」
俺の言葉に、敵機たちの脚が止まった。やっぱり仲間の悲鳴は精神的に来るものがあるよな。
敵機が足を止めた隙に、一気に後方へと突っ走る。
そこで俺はその機体を見つけた。
全身が真っ黒に塗装され、赤いラインが入ったその機体色は、ドゥ・リベープルの物だ。
まさか、傭兵が部隊の指揮官だったとは。帝国も人材不足かね?
そんなことを思いつつ、悠然と構えているその機体に向けて剣を振り下ろす。
剣は敵機によってしっかりと受け止められた。
そして声が聞こえてくる。
「ずいぶんと暴れてくれたようだね! 君とはいい試合が出来そうだよ!」
「お前がここの指揮官か」
「そうだよ。ここまで来るのに三年以上もかかっちゃった。けど頑張った甲斐があったね」
「願いがかなったんなら、とっとと死ね!」
「何言ってるのさ! 今からが楽しんじゃないか! ねぇ、片腕の!」
「とっとと終わらせる。前の手負いと一緒にするんじゃねぇぞ! 戦闘狂!」
俺の前に立ちはだかったのは、俺が初めてアルミュナーレで戦った相手。
戦闘狂フォルツェだった。




