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6

 会議室にはすでに隊の全員がそろっていた。

 そして、俺と共に入ってきたイネス様の姿を見て、一様に驚きを現す。


「んじゃ、びっくりしているところ悪いけど、今後のことについて手早く説明します」


 俺は集まっているみんなに、イネス様の指示の下ジャカータへの援軍に向かうことを説明する。


「エルド隊長よ。イネス様の護衛はどうするんじゃ? まさか一人で戻らせるわけじゃないんじゃろ?」

「ええ、むこうからも迎えが来ると思いますが、残党のこともありますからね。とりあえず大砲付き魔導車を護衛にして、一気に後方まで下がってもらいます。ハリボテなら、三台も護衛に付けば十分ですから。イネス様もそれでいいですよね?」

「ええ」

「と言う訳です。ほかに質問ありますか?」


 俺が全員を見回しながら尋ねる。


「隊長が先行するってことは、俺たちは後方から魔導車で行くんだよな? 特別持って行ったほうがいい物ってあるのか? 向こうで不足しているものがあるなら、こっちから持って行ったほうがいいだろ」


 リッツさんの発言に、俺も確かにとうなずく。そして今この場で一番情報を持っているだろうイネス様のほうを見た。


「物資はジャカータのほうが豊富よ。特に必要な物は無いわ。出来るだけ身軽にして、動きやすいほうがいいと思うわよ」

「だそうです。武装もこっちで積めるだけ積んで持っていきますので、水と食料。馬を連れていけないので、魔導二輪車。それに濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)だけ積んでください」

「あいよ」

「機体の整備はどれぐらいで終わりますか?」

「明日の朝までには終わらせる。儂らは魔導車の中で眠らせてもらうがな」

「それでかまいません。では自分はオーメル司令にこのことを伝えてきますので、準備を始めておいてください」

『了解』


 隊員たちが慌ただしく部屋を後にする。

 それを見送って、俺は姫様と共に司令室へと向かった。

 するとそこでは、オーメル司令が頭を抱えながら唸っていた。


「オーメル司令、どうかしましたか?」

「イネス様にエルド隊長。今回の戦闘で手に入れた量産型の情報を、整備班の一つに調べさせていたのですが、その情報が上がってきたんですよ」

「何か問題でも?」

「いろいろと分かったんですが、だからこそこれがかなりまずい物だと分かってしまいまして」


 オーメル司令はそう言って自分の持っていた用紙を俺に渡してくる。

 俺はそれを受け取って、ざっと説明を読んでいく。

 姫様がどういう仕様になっているのか説明を求めてくるが、先に内容の把握を優先させてもらった。

 まずあの量産型の名前はアブノミューレと言うらしい。アルミュナーレとの明確な違いは、そのジェネレーターと使われている燃料だ。

 戦闘中から予想はしていたが、やはりというかあの機体のジェネレーターは既存の魔導車やクレーンに使われているものを改造したもので、それに使われている燃料も当然魔力液(マギアリキッド)になっていた。

 捕虜曰く、既存の物と区別するためにセフィアジェネレーターと呼ばれているそうだ。

 だが魔力液(マギアリキッド)を使っている影響か、魔法を使うことが完全にできなくなっているらしく、マジックシールドは愚か対人用のショックグラビネスすら使えないらしい。

 だからこそ、左腕に大型の大砲などを括り付けていたのだろう。

 そして、燃費を少しでも良くするために装甲も従来のアルミュナーレの物より薄くされており、身長も一回り低い。

 おかげで、移動能力としてはアルミュナーレとほぼ同等なのだが、戦力として考えるといささか物足りない物になっているらしい。

 だが、だからと言って侮れるものではない。

 帝国がアブノミューレの大量投入に踏み切ったということは、量産体制が確立しているということだ。

 今後、常に大量アブノミューレが攻めてくる可能性もあるのである。

 操縦士はどうやら、これまでのアルミュナーレの操縦士候補から外されたものを順に使っているらしい。捕虜の話では、ここで功績を立てればアルミュナーレの操縦士として正式に雇用されるとか。それに結構な数の傭兵も雇っているようだ。ドゥ・リベープルのように自分たちでアルミュナーレを保有するなら話は別だが、一般の傭兵からすれば戦いの中に生きるものとして、アブノミューレはなかなかに魅力的な物だろう。となると、今後フリーだった傭兵が帝国に流れる可能性がある。

 俺にとっては雑魚なんてどれだけいても同じだけど、アズラ隊長やボンヌ隊長の様子を見ていると物量作戦もあながち侮れない。

 火器がまだ十分に発展していない今だから物量の危険性のほうが高いが、これがハーモニカピストレやそれ以上の実弾兵器開発に成功したとなると三対一でも結構危険かもしれない。


「確かにこれはマズいですね」

「私にも見せてください!」


 必死に覗き込もうとしていたイネス様がしびれを切らして俺の手から用紙をひったくる。そして読んでいくうちに眉間に皺を寄せていく。


「戦争のあり方が変わるかもしれませんね」


 今までの小規模な小競り合いの繰り返しから、大規模な前面衝突へ。一度の戦いで出る被害の数も爆発的に増えることだろう。

 その上、明確な戦争の終わりというものが見えなくなった。

 これまでならば、アルミュナーレのジェネレーターを多く奪ったものが戦争に勝つ戦いだった。しかし、魔力液(マギアリキッド)用のセファアジェネレーターはアルミュナーレのジェネレーターに比べれば非常に安価で、それこそ魔導車を作るようにいくらでも作れてしまう。

 お互いの国には両国に跨る巨大な山脈があり資源も豊富だ。となると、戦争の終結は同時に資源の枯渇という意味になる。勝っても負けても両国の衰退は免れない。

 と、そこで今まで唸っていた司令が口を開いた。


「戦争の在り方も問題ですが、目の前の問題もなかなか深刻です。今回の情報があればこちらも量産型を生産することになるでしょうが、それまでの防衛方法を考えなければならない。今回はエルド隊長がいたからこれだけの被害で防ぐことが出来ましたが、それでも砦一つとここまでの村々が焼かれています。今後同じ規模の襲撃が続くようならば、ロッカ基地で抑えきることが出来ないかもしれない」

「戦力の増強と物資は私から父に言っておきますわ。ここが落とされては、後方の資源採掘場が戦場になってしまいます。それだけは避けなければなりませんから」

「お願いいたします」


 今後方の基地で整備している機体を各前線に回せば、彼らだけでも何とか耐えられるはずだ。ただそれでも波状的に何度も攻撃を受ければいずれは瓦解する。

 早めに量産プランを立てないとまずいだろうな。まあその辺りは上層部と技術者のみなさんに頑張ってもらうとしよう。

 俺は俺のやれることをやるだけだ。


「じゃあ今後の話はここらへんにして、俺たちが来た理由を説明しても?」

「ああ、悪かったね。姫様がこちらにいらしたということは、エルド隊長も後方に下がるのですか?」

「いえ、エルドにはジャカータへの援護に行ってもらいます」

「ではイネス様の護衛は? まさか一緒に行かれるおつもりで?」

「さすがにそこまではいたしませんわ。私は別れて後方へ戻ります。つきましては、大砲を乗せた魔導車を三台ほど貸してほしいのです。明日の朝には私を迎えに魔導車が一台こちらに来るでしょうから、それを置いていきますわ」

「分かりました。後の掃討はボンヌたちで大丈夫でしょうし、問題ありません」

「ありがとう」

「しかし、突然この基地にいらっしゃってると聞いて驚きましたよ。せめて一言連絡をよこしていただけると助かるのですが」


 オーメル司令はそう言って困ったように苦笑する。

 まあ当然だろうな。いきなり王女様が来たって、まともな受け入れ準備なんてできてないだろうし。


「ごめんなさいね。どうしても今動く必要があったの」

「いえいえ、今部屋の準備もさせていますので、お茶でも飲んでお待ちください」

「ありがとう」


 まだ部屋が用意できていないのか。となると、俺もここに付き合ったほうがいいのか? けど、明日の準備もしたいしな。


「イネス様、自分は明日の準備のためにここで失礼します。後ほどアンジュを護衛に付かせますので」

「分かりました。エルドも無理言ってごめんなさいね」

「いえ、イネス様のお気持ちも理解できますので」


 とりあえず表面上笑顔を装って了承する。


「帰ったら何か褒美を用意しないといけないわね。何がいいか考えておいて」

「そのお気持ちだけで十分です。それでは失礼します」


 一礼して退室すると、俺は格納庫に向かって歩いて行った。

 そして翌朝。


「ではエルド、後はよろしくお願いしますね」

「お任せください」

「それと、昨晩話していたお礼のことを考えていたのだけれど」

「それはお気持ちだけで……」

「おっぱいの付いたハンカチなんてどうかしら。こう、胸の部分に布を詰めて、顔を拭くときに胸にうずめている感触の再現を――はう」


 俺は姫様の言葉がすべて終わる前に、チョップで言葉をさえぎる。

 一般兵たちは俺の行動に驚いていたが、イネス様の本当の姿を知っている側付きたちはみんな落ち着いた表情だ。


「バカなこと考えてないで、しっかり後方のまとめお願いしますよ」


 後方からの物資補給がなければ、ジャカータの援護に成功してもその後が続かないのだ。しっかりと補給を確保してもらえるよう釘を刺して魔導車から離れる。


「分かっているわ。私だってここは必ず成功させたいもの。では出してちょうだい」


 姫様の指示で魔導車の隊列がゆっくりと動き出した。

 それを見送って、俺は即座に格納庫へと向かう。そこには、一晩で新品同様とまではいかないものの、頭部が新しい物に入れ替えられ、全身のオイルが綺麗に拭き取られた俺の機体がある。


「みなさんお疲れ様です」

「エルド隊長か。機体は万全の状態にしておいたぞ……」

「ええ、一目見ただけでもよくわかります」

「あとは任せる。儂らは眠らせてもらうぞ」

「う……気持ち悪ぃ」

「さすがのパミラもふらふらなのですよ……」


 オレールさんは、リッツさんとパミラを連れて魔導車の中へと入っていった。中で移動中に眠るのだ。

 舗装なんてされてない道だから、スプリングが入っているとはいえ、かなりガタガタすると思うのだが大丈夫なんだろうか? まあいいか。

 俺は機体へと乗り込み、ジェネレーターを起動させる。いつもの快調なエンジン音と共に機体が目覚め、左手側のモニターに機体状況が表示された。

 燃料は予備タンクまで満タンになっている。武装は剣が十二本にハーモニカピストレが三丁。物理演算器(センスボード)のリンクも良好だ。

 軽く両手を動かしてみるが、動きも滑らかで異常は見受けられない。


「よし、では出撃します。ブノワさん、競歩で進みますので後に続いてください」

「分かったよ」


 格納庫から出て基地の入口へと向かう。そこには、アズラさんたちが待っていた。


「エルド隊長、ここは任せてください!」

「自分たちがきっちり守り抜きますから!」

「お願いします。俺たちはジャカータを助けてきますので」


 俺たちは、アルミュナーレ隊の人たちや基地の兵士たちに見送られ、ジャカータへと向かうのだった。




 ロッカ基地を出発して二日目の夕方。強行軍のおかげもあって、俺たちはすでにβブロックの範囲まで到着していた。


「これで終わり!」


 俺はアブノミューレの操縦席に剣を突き刺す。敵機は俺の機体にもたれかかるようにして倒れてきたが、俺は貫いた剣を抜く動作に合わせて敵機を横になぎ倒す。


「まさかこんなところまで敵が来てるのか」


 ここは確かにβブロックの範囲ではあるのだが、ジャカータまでは魔導車を使っても半日はかかる場所である。

 それに、ここの村を襲っていたのは三機のアブノミューレだった。

 この三機は確実に連携が取れており、スリーマンセルの動きを知っているようだった。

 つまり、敗走などで逃げてきた機体ではないということである。


「こっちの部隊は小隊で動いているのか?」


 ロッカ基地へと攻めてきた部隊との違いに驚きながら、俺は襲われていた村の様子をカメラで確かめる。

 火の手は上がっているようだが、一軒だけで密集しているわけでもないのでこれ以上燃え広がることはないだろう。

 降伏勧告に素直に従ったからか、死者もいないようだ。


「ここ村の村長は?」

「私です」


 俺が機体の中から問いかけると、一か所に集められていた村人の中から一人の男性が歩み出てきた。


「自分は第一アルミュナーレ大隊のエルドです。ここの村が襲われたのは今日が初めてですか?」

「はい、突然帝国のアルミュナーレが三機もやってきまして、降伏しなければ皆殺しにすると。我々は何もできず……」


 村人たちは、今の機体をアルミュナーレだと思っているようだが、村人からしてみれば巨大なロボットというだけでほぼ同じだし、いちいち訂正する必要もないだろう。


「降伏に関して、特に咎めるつもりはありません。民間人があれ(アブノミューレ)に対して何もできないことは私たちも知っています」


 俺がそういうと、村人たちは一様にほっとしたように肩を撫でおろす。

 場合によっては、降伏自体も罪に問われるようなことがある世界だしな。けど、一般兵ですら何もできないのに、村人にどうこうしろなんて俺は言うつもりはない。


「この後私の部隊が追いついてきます。彼らにはここで待機してもらう予定なので、空き家でもいいので一軒貸していただけると助かるのですが」


 ここにアブノミューレが現れたのが初めてというのなら、このあたりが敵の小隊での移動限界なのだろう。ならば、ここに仮拠点を作って、部隊のみんなには待機しておいてもらったほうがいいだろう。ここ以降は、頻繁に戦闘になりそうだし。

 それに、アルミュナーレ隊の人がいれば村人も少しは安心できるだろう。


「分かりました。空き家が数個ありますので、ご自由にお使いください」

「ご協力感謝します」


 俺は村長に使っていい空き家を聞いて、仲間たちが来るのを待つ。

 しばらくすると、魔導車のエンジン音と共に、隊のみんながやってきた。そして、倒れているアブノミューレの姿を見て難しい表情をする。

 ここまで攻め込まれていることに不安なのだろう。俺も同じ気持ちだが、もう日も暮れてしまう今日はこれ以上動いてもあまり意味はない。

 ロボットや魔法こそあるこの世界だが、まだまだ暗視機能に関しては手つかずと言っていいレベルだ。だから、日が沈んでしまえば必然的に戦闘は中断される。

 街頭なんてものもないから、道中も真っ暗でモニター越しだと、どっちに進んでいるのかすら分からなくなるからな。

 俺は合流したみんなに、村長から家を借りたことを話す。


「この家を借りられましたので、今日はここで一夜を明かして、明日ジャカータへ突入します」

「よっしゃ。久しぶりに部屋の中で寝られるんだな!」

「何を言っておるか! 儂らは機体の整備じゃ。ひたすら歩き続けておったのじゃ、関節部のメンテナンスをしなければならん」

「マジかよ! また徹夜か……」

「昼寝てたし大丈夫ですよ! リッツちゃん頑張りますよ!」

「パミラは元気だよな……」


 整備組はロッカ基地を出てからずっと昼夜が逆転している状態だ。昼寝て夜の間に機体を整備する。少ない光できっちり仕上げてくれる腕は素晴らしいものだ。

 オレールさんたちが整備道具を持って魔導車を降りると、その後ろからアンジュが鍋を持って降りてきた。


「私はご飯の準備するね」

「私も手伝います」


 アンジュに続いて降りてきたカトレアが手伝いを申し出、二人で料理の準備を始めた。


「じゃあ僕は周辺を少し調べてくるよ。近くに敵機がいないとも限らないからね」

「お願いします」


 ここに敵機がいたということは、他の小隊もいる可能性がある。

 ブノワさんが周辺の警戒に、魔導車に乗せていた小型魔導二輪車を使って出発した。馬がないときに、あれは非常に便利だ。ミニバイクサイズで航続距離もかなり短いが、周辺を調べるだけならあれでも十分だしな。

 んで、俺は何をするかと言えば、仮眠である。

 一日中機体を走らせていたからな。さすがに疲れたわ……飯食ってさっさと眠らせてもらおう。明日はジャカータの援護で本格的な戦闘になるだろうしな。

 後のことをみんなに任せ、俺は一足先に家の中へと入るのだった。


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