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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
片腕のアルミュナーレ
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 俺が壊れたアルミュナーレを見つけてから、早くも七年の月日が流れた。

 それまでの流れを大まかに説明しよう。

 俺が最初に取り掛かったのは、現状出来る限りの修復である。

 始動状態にしたアルミュナーレは、自分の損傷具合を診断する機能が組み込まれている。それを利用して、起動させるまでに修理しなければならない場所を割り出した。

 といっても、関節はほぼ全てダメになっているし、背中側も崖に激突したために、パイプのいくつかは罅が入っており、ケーブルも何本か断線してしまっていた。

 背中側を直すためには、崖に穴をあけてそこから修理しなければならない。そのため、一旦後回しにし、最初に各部関節の修理に取り掛かる。

 装甲はしっかりと溶接されており、ネジやボルトは見当たらない。そのため、風魔法で慎重に切断し、組み立てやすいように、ばらしておく。この辺りは、前世のプラモデル知識が役に立った。

 そして、むき出しになったアルミュナーレの骨格を足元から順番に調べ、壊れている場所をピックアップ。左腕のパーツで流用できそうな場所や、工具がなければ交換でき無さそうな場所を調べた。

 右足一本を調べ上げるまでに、半年。左足に三か月、右腕で三か月。胴体周辺や首回りでさらに三か月を要し、なんとか全身を調べ上げることが出来た。


 その間にも、俺は狩りで少しずつ稼いだおこづかいを使い、工具を集めていく。

 子供が独りでアルミュナーレを直そうといている。そんなことが知られれば、村人に気味悪がられる可能性がある。そのため、村人に気付かれない様に商人と直接交渉するのだが、これもなかなか苦労した。

 なにせ、俺は当時八歳九歳の子供だ。そんな子供が特殊な工具を欲しがることなどまずありえない。その上、今後は鉄パイプやチューブ、ケーブルを求めるかもしれないと言われれば、怪しまれないはずがない。

 しかも場所は鉄を使うこと自体がほとんどない辺境の農村。商人もかなり不審に思っただろう。

 だが、俺はここで逆に自分が子供だと言うことを利用した。

 アルミュナーレに憧れた子供が、似たような物を自作しようとしていると思わせたのだ。

 ちょっと無理があったが、そこは基礎概論を見せ、練習するんだと無邪気に笑って見せれば、なんとか納得してくれた。一応ちゃんと金も払ってたしな。

 そのおかげで、三年ほどで左腕のパーツを全て使った修理は完了する。


 その頃には、アンジュもアルミュナーレの修理に協力してくれるようになった。

 ずっと魔法の練習をしていたアンジュは、移動系の魔法を覚えると同時に、俺と共にアルミュナーレの下へとやってきた。

 アルミュナーレを見た時の感動こそ小さかったが、この場所自体を気に入ったのか、それ以降時々俺に付いてこの場所に来る。そして、ちょっと道具を取ってもらったり、物を持ってもらったりしているうちに、なんだかんだと修理を手伝ってくれるようになったのだ。

 アンジュが修理に参加してくれて一番助かったのは、アンジュの火魔法だろう。なんせガスバーナー同然の火力を指先から簡単に出してくれるのである。罅の入ったパイプや、ちょっと溶接したい場所などは、アンジュが手伝ってくれなければもっと苦労することになっていただろう。


 そんなこんなで年月が過ぎ、八年目の今日。

 とうとう、直せる限りの応急修理が終了したのだ。


「ついにやったぞぉぉぉおおおお!」

「おめでとう、エルド」


 アルミュナーレを見ながら雄叫びを上げる俺と、その横で拍手してくれるアンジュ。

 アンジュも十五歳に成長し、ますます美少女に磨きがかかっている。畑仕事しているはずの手は、どうやっているのか柔らかいままで、第二次成長を迎え女性らしさも強調させてきた。アンジュのお母さんもなかなかの大きさを持っているし、アンジュも将来的にはもっと大きくなるんだろうな。


「アンジュが手伝ってくれたおかげだ。アンジュがいなければ、後二年は伸びてただろうしな」

「そんなことないよ。エルド君が頑張ってたから、ここまで直せたんだもん。それより、起動実験するんでしょ?」

「ああ、そうだな。それじゃアンジュは崖の上まで避難しててくれ。何が起こるか分からないからな」


 素人が組み立てた機体だ。色々と歪んでいる可能性もある。

 機体を動かした拍子に、その歪みから装甲が吹き飛び、アンジュを巻き込む可能性だってゼロではないのだ。だから、アンジュにはきっちり安全圏まで退避してもらう。


「うん。頑張ってね」


 そう言ってアンジュは俺から手を放すと、河原を駆け出し、詠唱する。


「フレアブースター、ダブル・インストレーション。スタート」


 すると、アンジュの腰の横に二つの透明なブースターのような物が出現する。これがアンジュの移動系魔法の基礎だ。

 この二つのブースターから火を噴き出すことで、加速を行うのである。

 慣れた様子で崖を登り、上に到達したところで俺に手を振ってくる。

 俺もそれに振り返し、アルミュナーレの操縦席へと搭乗した。


「さて、上手く起動してくれよ」


 慣れた手つきで燃料弁を開き、始動ボタンを押し込む。各種メーターが動きだし、座席の下から低振動が伝わってきた。

 ここまでは慣れたものだ。八年間で何百回と繰り返してきた。

 そして、ここからが初めての作業。緊張のためか、手に湧き出した汗をぬぐい、ゆっくりとフッドペダルを踏み込んでいく。

 ジェネレーターの出力が上昇し、メーターの針が徐々に上へと登っていく。初めてこの作業をした時は、途中でエラーを吐いてしまった。

 睨みつけるようにメーターを見つめ、その針が中間を超えるのを確認する。

 さらに、パネルを踏み込み、出力を上げた。


「行け、行け、行け、行け!」


 出力が上がるとともに、機体内に響き渡る音も大きなものへと変化していく。

 ジェット機のエンジン音のような音を高鳴らせながら、メーターの針は、第二次安定域へと突入した。


「目覚めろ! アルミュナーレ!」


 俺は初めて起動ボタンを押し込む。


「どうだ!」


 各種メーターを確認、出力第二次安定域で維持、各部関節、オールグリーンとはいかないものの、オールイエローで何とか稼働可能。頭部可動式カメラ、起動。各部油圧、異常なし。ジャイロバランサー正常稼働。濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)残量一割。推定行動時間、五時間。


「よし! 起動した!」


 システム面では問題なく起動した! 各種計器もエラーは吐いていない。データ上は、このアルミュナーレは動くことができる!

 なら、やることは一つだけ。

 実動をかける。


「まず右手から」


 手元の操縦レバーをゆっくりと操作する。

 ギシギシと軋みながら、右腕がゆっくりと上がり、地面と水平になった。

 レバーに付いたボタンを押せば、それぞれの指がしっかりと動いている。


「俺、ロボット動かしてる! 人型ロボット操縦している!」


 心の底からあふれ出てくる感動。

 気付けば、俺の瞳からは涙がこぼれていた。苦節八年。やっとここまで来れたのだ。


「エネルギー残量はまだある。なら立ち上がらせてみるか」


 できることならば、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)も補充しておきたかったのだが、これは国が管理する特別な工場でなければ作ることができず、補充することができなかった。そのため、節約しながら使っていても、大分減ってきてしまっている。実際に動かした際に、どれだけ燃料を消費するのか分からないが、一割というのは、満足に動かすには厳しい数字だろう。だが、今この機体を立たせるだけならば問題ないはず。


 立たせるための操縦を練習したことはないが、やり方は基礎概論にしっかりと記されていた。

 あの教科書の内容は丸暗記している。今なら暗唱だって可能なレベルだ。

 だから大丈夫。あの本の通りにやれば、上手く動かせる。多少の挙動ミスは、機動演算機(センスボード)が補てんしてくれるはずだ。


「フッドペダルを押し込みながら、片足でスロットを上げて――」


 まるで教習所で発信の手順を順番になぞるように、ゆっくりと一つずつ確実に動かしていく。

 アルミュナーレはそれに合わせて、ゆっくりと足を動かしていった。

 右足を引き、左足で踏ん張りながら、上体を前へと倒しつつ、ゆっくりとその思い腰を上げていく。

 左手が無い分バランスが悪いが、そこはジャイロバランサーと機動演算機(センスボード)が自動で修正してくれている。

 ゆっくりと操縦席内の視界が高くなり、見える範囲が少しずつ広がっていく。

 片膝立ちからさらに上へ。


「立ち上がれ!」


 最後の手順を踏みながら、俺は思わず叫んだ。それに呼応するようにして、アルミュナーレが勢いよく立ち上がる。


「やった!」


 これは、人類には大した一歩ではないのかもしれないが、俺にとっては偉大な一歩である。

 見れば、アンジュも崖の上でピョンピョンと飛び跳ねている。感慨深いものがあるのだろう。

 そこで、俺は頭上のスイッチを操作し、マイクと集音を起動させた。

 この二つは、魔法だ。どのように行使されているかといえば、機動演算機(センスボード)に記された魔法を、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)を消費することで発動させている。

 現代ならビーム兵器のような感覚に近いかもしれない。

 アルミュナーレは機動演算機(センスボード)に記された魔法しか発動することができず、しかしその規模は濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)を使用しているため、人が発動するその規模とは比べ物にならないほど大きい。

 俺としては、この機動演算機(センスボード)も色々と書き換えて、オリジナルの機体にしてしまいたかったのだが、残念なことに基礎概論には機動演算機(センスボード)に関することはほとんど書かれていなかった。アルミュナーレの頭脳なのだし、おそらくもっと専門的な知識が必要になるのだろう。


「アンジュ、聞こえるか?」

「ふえ!? エルド君の声が大きくなった!」

「そっちの声も聞こえてるぞ。こいつの魔法だ」

「すごいね、そんなこともできるんだ。っとそれよりおめでとう! とうとう起動出来たんだね」

「ああ、とりあえず今日はここまでだな。この後色々とチェックして、異常がないか確かめないと」


 ガッツリ動かしたいところだが、こいつは動かない状態から修理した機体だ。立つことには成功したが、見えない所で何か起こっていないとも限らない。

 用心に用心を重ねて、徹底的な安全管理の下、動かさなければ。


「了解。じゃあそっち行くね」

「ああ」


 ハッチを開き、操縦席から肩へと移動する。

 今まで見てきた景色より、四メートルほど高くなった風景は、いつもと別物のように感じる。

 そこに、アンジュが飛び降りてきた。


「改めて、おめでとう」

「ありがとうな。アンジュが手伝ってくれたおかげだ」

「大いに感謝しなさい。そして、最大限のお礼を私にちょうだいね」

「何にするか考えておくよ」


 ずいぶん大きなお礼を求められてしまった。俺の夢を叶えるレベルと同等のお礼って、一体俺は何を用意すればいいのかね?

 まあ、それはおいおい考えて行こう。


「さて、んじゃメンテ始めるか」

「うん」


 俺たちは機体から飛び降り、機体のチェックを始めるのだった。




 静かな森の中に、巨人の足音が響く。

 一歩一歩ゆっくりとした足取りは、その足元にいる兵士達に合わせてのものだ。

 総勢二十名になる兵士達の団体は全員が馬に乗っており、黒に染められた同じ鎧を身に纏っていた。


「この先に本当に村があるんだろうな?」


 先頭を歩く大柄の男が、その横で馬の背に縛り付けられている細身の男を睨みつける。

 細身の男はその視線に怯え、震える声で答えた。


「は、はい。小さな農村で、月に一度物を売りに来る程度なのですが……」

「その時に鉄や銅線、特殊なドライバーを売ったことがあると?」

「はい……そうでございます」


 細身の男は、エルド達の村に定期的に商品を売りに来る商人だった。


「隊長、いくらなんでも考え過ぎじゃないですか? 辺境の田舎でアルミュナーレを造ってるなんて」


 声は上空、黒のベースに赤いラインの映えるアルミュナーレから聞こえてきた。

 まだ若く、明るい声だ。


「村を越えた先に深い谷がある。そこがかつて、この国を二分して行われた南北争乱の最前線だった場所だ。その時のアルミュナーレが残っていてもおかしな話ではない。この商人の話を信じるのなら、かなりいい状態のものが残っていることが予想される。もしかすると、ジェネレーターが生きてるかもな。この国の軍より先にこの情報を手に入れられたのは幸いだったな。感謝しているぞ、商人」

「ひっ……」


 たまたま、辺境の村で機械のパーツを売っていることを酒の席でポロッとこぼしてしまった商人は、今更ながらに深く後悔する。

 国に関与せずに、アルミュナーレを動かせる組織などこの世界広しと言えど、一つしか存在しない。

 大規模傭兵集団、ドゥ・リベープルだ。

 母国を持たず、拠点を持たず、首脳を持たない。一人一人が独立し、己の信念と欲望のままに動く危険な集団だ。

 その名を名乗り、ドゥ・リベープルの掟さへ守れば所属することが許される。言わば、ギルドに近い存在だ。

 戦争に参加する者。戦争を引っ掻き回すもの。戦争の中でかすめ取る物。誰もが戦うことを生業とし、戦争の中で生きていること以外に共通点は無い。そのため、国でも対処が難しい存在だった。


「そんなのを手に入れられれば、隊長は一気に有力者ですな! 俺達も金が入ってウハウハってもんですわ」

「当然だ。まだドゥ・リベープルの中でアルミュナーレを二機保有している部隊はいない。俺達が真っ先に手に入れ、戦争屋としてエルシャルド部隊の名を上げるぞ」

「頑張るのは良いですけど、僕の報酬も忘れないでくださいよー。じゃないと――」


 おもむろにアルミュナーレの右腕が剣の柄に伸び、その剣を滑らかな挙動で振り抜く。

 巨大な質量が移動したのにもかかわらず、巻き起こる風はそよ風程度。馬たちは特に気にした様子も無く行軍を進めていた。

 しかし、突如後方を進んでいた部下の一人が悲鳴を上げた。


「う、うわぁあああ!」

「どうした?」

「お、俺の馬の首が」


 震える手で指差す先は、部下が乗っている馬の首。その首はまるで最初から無かったかのように切断されていた。

 しかし、馬は首を斬られたことすら気づかない様子で、首のないまま男を乗せて歩き続け、やがて地面から飛び出した木の根に躓き崩れ落ちる。

 乗っていた男は、腰を抜かしてその場から立ち上がれない。


「フェルツェ!」

「あはは、ちょっとした余興ですよ。でも、分かってますよね?」

「分かっている! お前には最高の戦場を用意してやるさ」

「それならいいですよ。僕に戦う場所を与えてくれる限り、僕は隊長についていきますからね」


 アルミュナーレから聞こえてくる声はどこまでも無邪気だ。無邪気故に、とてつもない狂気を孕み、団員達を震え上がらせるのだった。


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