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新装備の装着から一週間。ようやく俺の満足いく機体が完成した。
やはり、まったく新しい機能を乗せた物理演算器を、既存の物理演算器とリンクさせるのはなかなか苦労する仕事だった。
どこかを動かせば、別の場所でエラーが出る。いつの間にか、別の関節が稼働しているなどは当たり前。酷いときは、首がぐるんぐるん回り出し、モニターを見ながら吐きそうになったものである。
そんなバグを一つ一つ潰していき、実際に少しずつ稼働させて異常がないことを少しずつ確かめていく。
そんなことを三日続け、問題がなくなったところで次のステップに進む。
それは操縦性の向上だ。
左腕を丸々武器庫にしてしまったのだ。もはや操縦席にある左腕用のレバーは無用の長物だろう。
それならば、そこに別の機能を持たせるなどして、俺の操縦にマッチした操縦席を開発するべきだ。
そんな思考の下、整備士全員と話し合い色々と操縦席にも手を加えることとなった。
まず使わなくなった左腕レバーの排除。しかし、まったく動かせないのは、装備をパージした際に問題になってくる。
そこで、右腕のレバーに左腕の回路を連結させ、ボタン一つで右腕と左腕の操作を切り替えられるようにした。
排除した左レバーの部分には、今まで頭上に設置してあったボタンの中から、俺の使用頻度が高いものを優先して移動させ、常に手を掲げていなくても操作できるようにする。
また、モニターも新たに三枚追加した。
今までは、前面の二十四枚のモニター最下部三枚を機体状況把握用に切り替えていたが、それではどうしても足元がおろそかになりかねない。
そこで、小さめにした三枚のモニターを操縦席に直接取り付け、座った際に太ももの上あたりに並ぶようにしたのだ。
これのおかげで、二十四面前面球体モニターを無駄なく使えるようになった。
これらの変更に二日。そして、再びあふれ出したバグを修正するのに二日かかった。
占めて一週間である。
すべての作業が終わったときの、整備員たちのテンションの高さは異様だった。まあ、俺も同じようなものだったが、城の兵士から煩いと苦情がくるまで格納庫で騒ぎ続けたものである。あれは完全に祭りだった。
ちなみに、この改装で一番の功労者は間違いなくカリーネさんだろう。
溢れ出すバグの嵐に、目元に隈を浮かべながら徹夜で作業を続けてくれたのである。今年のボーナスは俺のポケットマネーから追加させてもらおう。カリーネさんがいなければ、今俺の機体は完成していなかった。
そして今日は、どんちゃん騒ぎを終えた翌日。基地に設置されたアルミュナーレの試験場で俺は機体を起動させる。
「ジェネレーター稼働率八十五%、濃縮魔力液供給システム異常なし、各部油圧計正常値、神経接続問題なし、物理演算器リンク良好。システムオールグリーン!」
さて、データ上はすべて問題なく起動している。あとは、試験運用だな。わざわざ今日のために日程を合わせてくれたんだ。思う存分戦わせてもらいますよ、レミーさん。
起動した俺の目の前には、もう一機のアルミュナーレ。
それは、第三王子の警備隊であるレミー・リシャールさんの機体だ。
装甲は基本的な近衛騎士用の物を利用している。ただ、肩の装甲がやけに盛り上がって大きくなっており、その腕には展開式の刃が装着されている。
あれはおそらく、握らなくても刃を展開させることのできるタイプだろう。
攻撃の形は限られてしまうが、手を自由にしたまま武器を保有できるのはなかなかの強みのはずだ。あれならば、剣を使いながら銃を構えたり、魔法のロックオンができる。
「どうだ、いけそうかい」
「はい、問題ありません。お願いします」
「んじゃ始めるぜ! 王族も観戦してんだ。不甲斐ない動きは見せてくれるなよ」
そう、試験場に設置された観戦スペースには、第三王子と第二王女が試合を見に来ていた。
イネス王女は単純に暇つぶしだろうけど、第三王子はどうしてだろう? 文官志望でこういうことにはあんまり興味がなさそうなのに……
まあいい。俺は、俺の機体の全力を出すまでだ。
「期待に応えましょう!」
レミー機が予想通りに刃を展開してくる。
俺は、さっそく新装備アーティフィゴージュを稼働させ、剣を抜き放つ。
「それが新装備か!」
「ええ、なかなか便利なやつですよ」
両腕から放たれる斬撃をしのぎながら、俺は攻める方法を考える。
第三王子の近衛だけあって、実力は確かなものだ。数回打ち合っただけで、剣の技量が前線の兵士よりも格段に上なのが理解できる。だからこそ、いろいろと制約の多い固定式刃で戦えているのだろう。
俺はバックステップでレミー機から距離をとり、すかさず持っていた剣を相手に向けて投擲する。
レミー機は当然弾いてくるが、その時には俺の機体は別の武器をアーティフィゴージュから取り出していた。
バンッバンッと連続して火薬の炸裂する音が響き、ハーモニカピストレから弾丸が飛び出す。
連続して放たれた六発のペイント弾は、数発を躱されつつも、二発が足と腕の装甲を赤く染めた。
しかしこれでハーモニカピストレの残弾はゼロ。だが問題ない。
俺は残弾のなくなったハーモニカピストレを投げ捨て、今度は再び剣を装備する。
「在庫を気にしなくていいのはいいですね!」
「めちゃくちゃだな! けど面白れぇ!」
ペイント弾をあてたものの、装甲の上なので機体の稼働には問題ないと判断され、試合は続行だ。
接近してくる相手に合わせて、俺も機体を前へと進ませる。
剣技では俺のほうが劣っているのは間違いない。だけど――
「操縦技術で負けるつもりはありません!」
「それは勝ってからいうセリフだぜ!」
「だったら勝ちますよ!」
「後輩のくせに生意気だ!」
再び何回か切り結んでいると、こちらの剣があっという間にボロボロにされてしまった。
だけどこれでいい。俺はボロボロにされるのを待っていた。
機体を回転させながら、足元めがけて剣を振るう。
その攻撃は後退することで躱され、地面を叩いた剣が砕けた。同時にそれを隙と見たレミー機が、無防備になった俺の上半身目がけて刃が振り下ろす。
俺たちの試合を見ていたギャラリーなら、そこで試合終了とでも思っただろう。
だが俺の狙いはそこにある。
俺はさらに機体を回転させた。その先にあるのは、左腕に装備された巨大な鉄の塊だ。
レミーさんも俺の狙いに気づいたのだろう。振り下ろしを中断し、とっさに飛び退く。
直後、ブワンッと空気を振りぬく音がして、レミー機がいた場所をアーティフィゴージュが通り過ぎた。
「ああ、惜しい」
「危なすぎんだろ! 当たったら脇腹の装甲抉れっぞ!」
「狙ったんですけどね」
俺の狙いは、最初から足ではなかった。
わざと剣を折り、それを隙と見たレミーさん目がけて、左腕をぶつけるつもりだったのだ。
左腕は、アルミュナーレの半分以上の高さを持つ鉄柱であり、その重さは相当なものだ。それが、回転の威力も合わさってぶつかれば、アルミュナーレの装甲でもただでは済まない。この腕だからこそできる力技だな。間一髪で気づかれてしまったが。
「やってくれるぜ。まあいい、ならこっちもそろそろ全力出そうか!」
「その肩の秘密ですか?」
「なんだ、知ってんのか?」
「いえ、そこだけ普通とかなり違いますからね。あるとすれば、肩じゃないかと」
だけど、俺の予想は当たりだったみたいだな。
「おうよ、俺だけのオリジナル武装。グロンディアアーミーを受けてみな!」
ガシュンっとエアーが抜ける音と共に、レミー機の肩装甲がわずかに開く。
そして、腕がゆっくりと伸び始めた。
「伸びる腕?」
「おうよ、時間制限付きだが、こいつは強ぇぞ」
いわゆるドラゴンアームというやつだろう。ただ、二の腕から肩までの伸びた部分はロープのようなものでつながっているだけで、自由に動かせるようには思えない。
けど、ただ鞭のように使うだけじゃないんだろうな。
「行くぜ」
レミー機が大きく腕を動かす。すると、ロープだったものがまるで意志を得たかのように動き出し、その鎌首を持ち上げた。
そして、獲物を見つけたかのように、俺の機体目がけて飛び掛かってくる。
俺はとっさに飛び掛かってきた腕を剣で叩き落とし、もう一方をしゃがんで躱す。
だが、叩き落とした腕が手をこちら側に向けたかと思うと、その先に火球を発生させた。
俺は発生した火球に剣を突き刺して強引に爆破させ、後方から再び飛び掛かってきた腕を横っ飛びで躱す。
「なるほど、魔法による誘導ですか、また凄いものを装備している」
いったいどんな物理演算器を組めば、自動誘導装置つきのドラゴンアームなんて開発できるんだか。
「スゲーよな。これフォルド様の発明なんだけどよ、ほかの物理演算器ライターじゃ絶対真似出来ねぇよな」
フォルド様って第三王子じゃないですか! え、なに? 第三王子って物理演算器ライターの資格持ってるの!? 文官目指してるから、頭はいいんだろうと思ってたけど、そこまでか! ってか今日見に来てる理由って、そういうことかよ!
「確かに凄いですね。けど、いいことずくめってわけじゃないでしょ? かなり燃料を使うはずです」
「おうよ、だから時間制限ありだな」
常に魔法で両腕を操ることになるのだ。濃縮魔力液の消費もかなりの物になるはずである。
つまり、この勝負――
「俺が制限時間以内にやられなければ勝ちってことで」
「いいぜ、受け切れるもんなら、受け切ってみな!」
同意も得たところで、さっそく反撃開始と行きましょう。
ドラゴンアームは、確かにこっちの世界じゃ画期的な発明だろうけど、前世じゃいろいろ考えられてた装備だからな。アニメでもよく腕伸ばす敵はいたぜ!
俺は武器を剣から銃に変更し、無防備となっているレミー機自体を狙う。
鉄則その一、本体を狙え。
だが当然のように、一本の腕が弾の射線上に飛び込み、弾丸を火球で消滅させる。
ならば鉄則その二、つながっている部分を狙えだ。
あれはロープ状の腕を肩に収納することで、距離を伸ばせるようにしている。しかし、距離が延びればそれだけロープも長くなり、それを切れば腕は動かなくなるはずだ。
俺は銃から再び剣に持ち替えて、攻撃をかわした直後のロープ目がけて振り下ろす。
しかし、ロープ自身が剣の間合いから逃れるように動いて躱されてしまった。
腕の先だけを動かしているのではなく、ロープすべてをコントロールしているからそんな芸当もできるってことか。
ならその三だ。
俺は練習場内を動き回りながら、連続で来る攻撃を躱すか受け流す。
次第に腕の出ている距離は長くなり、俺が受け流すことでその方向を強引に変えられる。
さらに、円状に動くことで、ロープを回収されないように気を付けつつ、剣で弾いた腕を狙った場所へと飛ばした。
「これならどうですか!」
「およ?」
俺がただ逃げ回っているだけだと思っていたのか、突如として動かなくなった両腕に、レミーさんが変な声を上げた。
「ふふ、なかなかいい縛り方になってますよ。簡単には解けないはずです」
「まじか!」
そう、その三は伸びた腕どうしを絡ませてしまうことだ。
円状に動くことで腕を回収できないようにし、同時にロープの大きな円を作る。そこに、剣で弾いた腕を突っ込ませ、固結びを作り上げたのである。
レミーさんは必死に絡まった腕をほどこうとしているが、一度ギュッとしまってしまったロープは簡単にはほどけない。まあ、もし解こうとしても、俺がもう一度縛り上げるけどな!
「さて、まだ戦いますか?」
「ぐぬぬ」
「そこまでです。レミー、降参しなさい」
なかなか諦めきれない様子のレミーさんに代わって、観戦スペースから第二王子の声が響く。
「分かりました。降参だ」
「ありがとうございました」
専用機初戦白星。うん、いい出だしだ。
試合を終えた俺とレミーさんは、第三王子の要望により機体を降りて観戦スペースへとやってきていた。
第三王子は、サラサラの坊ちゃんヘアにメガネと一目で文系と分かる容貌だ。
大学帽とか似合いそう。
「フォルド様、申し訳ありません。お見苦しい姿をお見せしました」
「いや、今日の試合はお前も私もいい勉強になっただろう。ただ闇雲に振り回すだけでは、グロンディアアーミーの本来の力は発揮でき無いようだな。今後は運用を含めた研究を進めるとしよう」
「ハッ」
どうやら、あのシステムはすべて物理演算器のみで運用していたらしい。まあそれなら今回の単調な動きも理解できる。
「エルドだったな」
「ハッ」
「いい戦いを見せてもらった。そちらの機体も順調に仕上がっているようだな」
「はい、今日の試合でも問題はありませんでしたので、いつでも実戦投入できるレベルで仕上がっております」
「そうか、では後ほど総隊長の下へ向かえ。第二王女警備隊としての初任務だ。励めよ」
「ハッ」
フォルド様は、それだけ言い残しレミーを連れて観戦スペースを後にした。
俺は、残っていたイネス王女に問いかける。
「初任務ということは、イネス様の公務ですか?」
「ええ、そうなのだわ。機体の完成具合で私かお兄様のどちらかが受ける予定だったのだけど、問題ないなら私の仕事になると思うわ。詳しくは総隊長が教えてくれると思うけど、簡単に言ってしまえば、前線基地の兵士たちの激励よ。前線基地の高ぶった男たちをより高ぶらせる仕事。ああ、なんて罪深い仕事なのかしら」
言い方がおかしい! けど今は疲れているからスルーさせてもらおう。
「なるほど」
イネス王女の言った仕事は、アカデミーの時に聞いたことがある。
王族は毎年本格的な冬の訪れの前に、前線基地に赴きそこの兵士たちに激励の言葉をかけるのだ。
毎年行く王族がだれかは決まっておらず、手の空いている王族が大量の食糧をもって基地を回る。王族が訪れると、その食材を使った料理が振る舞われるため、兵士たちの楽しみの一つになっているのだとか。
今回はその仕事がイネス様に回ってくるということだろう。
ならちょうどいいかもしれない。前線基地の一つはジャカータだ。副司令に預けている武装を回収するのにもちょうどいいタイミングだろう。
「分かりました。ではこの後総隊長の下へ行って詳しく話を聞いてきます」
「ええ、よろしくね」
イネス様もそういってメイドたちを引き連れ城へと戻っていく。
そこでようやく部隊のメンバーが俺の下に集まってきた。やはり王族がいるとまだまだ緊張してしまうようだ。まあ俺も、フォルド様がいる時は若干緊張してたけどな。けど、イネス様だけならもう緊張は無理だ。そんな体にされてしまった……
いけない、イネス様の思考に毒され始めている。もっと自分をしっかりと持たねば。
「機体はどうじゃ? 問題ないっちゅう話じゃが」
「操縦性はどう? 変な挙動はなかったでしょうね?」
「ええ、機体も操縦性もばっちりです。変な挙動も一切ありませんでした」
「そうか、ならあとは整備と補給だけでいいんじゃな」
「はい、お願いします」
現状はこれでOKだろう。ただ、すでに職人には追加で注文を出してるんだよな。濃縮魔力液の予備タンク。
それがアーティフィゴージュに内蔵されれば、俺の機体の稼働時間は倍程度まで伸びるはず。それも一週間以内には届くだろうし、初公務までには装備可能なはずだ。その時にはまた頑張ってもらおう。
「じゃあ機体は格納庫に戻しておきますので、後は任せます」
「しっかり整備しておく」
俺は城に戻るついでに機体を格納庫へ戻すべく、操縦席に乗り込むのだった。




