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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
エルド専用機
44/144

5

 近衛に着任してから早三か月。

 季節は秋を過ぎ冬の入口へと来ていた。

 外の空気は冷たくなり始め、山岳部ではすでに初雪が観測されているとか。そろそろαブロックでは積雪時戦闘用の装備がアルミュナーレに装着される頃だろう。

 しかし、王城から見える城下の姿には、まだまだ秋の姿が残っている。

 路上の隅には落ち葉が積み上げられ、広場の中心では落ち葉を使った焼き芋が行われている。

 一度暇を見つけて行ってみたが、なかなか面白そうな企画だった。

 自分たちで落ち葉と芋を持ち寄り、焼いてもらってその場で食べるのだ。子供たちはあっちあっちと言いながら芋を頬張り、奥様方は井戸端会議に花を咲かせる。

 町の平穏さを象徴するような景色に、思わず頬が緩んだものである。


「さて、そろそろか」


 壁に設置された時計を見て、そう呟く。

 時刻は十五時。奴が廊下を駆け抜ける時間だ。

 自分のデスクから立ち上がり、ドアへと向かう。

 すると、ドアの向こうからちょうどトットットっとリズムのいい足音が聞こえてきた。

 ぴったり過ぎるタイミングに苦笑しながら扉を開き、走ってきた人物の妨害をするように、俺は対象の前へと躍り出る。


「イネス王女、どこに行かれるのですか?」

「お手洗いですわ。そこをどいてくださいな」

「お手洗いでしたら反対ですよ。というか、勉強部屋の隣なんですから、そんなすぐに分かる嘘なんてつかないで、勉強に戻りましょう」

「それは私に漏らせとおっしゃっているのね!? 確かに私の放尿シーンは一見の価値があるかもしれないけど、ここではさすがにどうかと思うわ!?」

「誰もあんたの放尿シーンに価値なんか見出さねぇよ!」


 イネス王女はわざとらしく頬を染め、内股になってもじもじと足をこすり合わせる。その姿は確かにトイレを我慢しているようにも見えるが、俺は騙されない。いや、正確に言えばもう(・・)騙されないだ。


「だいたい、何回同じ方法で逃げようとしてんだ! 少しは違う理由も考えてみろや!」

「王女のトイレを邪魔できる部下などいないわ! これが一番効率よく逃げ出せる方法なのだわ!」

「逃げ出すって自分で認めてんじゃねぇか! ほら、とっととお部屋に戻りますよ!」


 俺は手早く王女を捕まえて肩に担ぎあげる。こいつにお姫様抱っこはもったいない。


「ああ、こうして檻から逃げ出そうとする王女は、人のいない部屋に連れ込まれるのね」

「ちゃんと教師がいますから安心してください」

「まあ! 複数人で回そうというのね! とんだ鬼畜だわ!」


 あんたそういう情報どこで仕入れてくるんだよ……

 お姫様のくせして、やけに下ネタのレパートリーの多い王女に大きくため息を吐く。陛下がそんな変な本を渡すとは思えないし、兄弟の誰かか?

 けど、第一王子はもう二十過ぎてるしそんないたずらをするとは思えない。一番下は生真面目でそんな本はむしろ見つけ次第焼き払いそうだ。となると、第二王子か? けどあの方はジャンさんがきっちり管理しているはずだ。あの人、近衛というより執事に近いよな……近衛ってなんだっけ…………

 逃げ出そうともがく王女が肩からずれてきたので、軽く反動をつけて位置を直す。

 グエッと変な声が王女から洩れるが気にしない。どうせ脇腹にでも肩が当たったんだろ。


「転属希望、出せないかな?」


 上司に恵まれない時の転職サイトってこの世界にあるのかな? そんなことを思いつつ、俺は王女を家庭教師の待つ勉強部屋へと放り込むのだった。



 半ば日課となっている一仕事を終え部屋に戻ると、部屋には一人の騎士が待っていた。


「隊長、待ってましたよ」

「パミラか、どうした?」


 部屋の中にいたのは、俺の部隊に新たに配属になった女性のうちの一人で、整備担当のパミラである。

 小柄な体躯に小動物のような雰囲気と、体力勝負の整備士として大丈夫なのか心配になるが、そこはファンタジーな世界。筋力強化の魔法を使えば何ともないのだとか。むしろ、オレールさんやリッツさんでは手の入らないスペースに、彼女の細腕は活躍してくれているらしい。


「おやっちゃんから、格納庫に来てほしいって伝言頼まれてたんですよ」

「格納庫に?」

「隊長が職人たちに頼んでたパーツが届いたみたいで、装備するなら機体を動かす必要があるのですよ?」

「ああ、新装備のことか。了解今から向かうから、先に行っててくれ」

「わかりましたよー」


 パミラはピシッと敬礼すると、スタタタタと部屋から駆け出していく。そして入れ替わるように別の騎士が入ってきた。


「あ、隊長。ちょうどよかった」

「カトレアか。どうした?」


 彼女はカトレア。彼女も俺たちの部隊に新たに補充された斥侯担当の騎士である。名前も性別も立派に女性なのだが、騎士として鍛えられた肉体に、持前の高身長。そして、そのルックスのせいで男性に間違えられがちなのが悩みだとか。

 この二人が新たに俺たちの部隊に配備された騎士なのだが、なぜ二人とも女性なのかといえば、俺たちの護衛対象が第二王女だからだ。

 いくら下ネタ好きの天然おバカ娘だとはいえ、一応王族なので男ではさすがに入れない場所の警護に女性騎士が必要なのだ。そこで、デニス大隊長が便宜を図ってくれたらしい。


「隊長が頼んでいたパーツが完成したとのことで、ジャカータのアーノルド副指令からお手紙が届いております」

「おお! 完成したのか! 想像よりかなり早いな!」


 俺はカトレアの答えにテンションを高めながら、カトレアから手紙を受け取りすぐに内容を確認する。

 それは、俺が近衛になると同時に頼んでおいた武器が完成したことを報告する手紙だ。専用機に積む実弾兵器を欲しかったため、ハーモニカピストレの開発者であるアーノルド副指令に白羽の矢を立てたのだ。いやー、副指令に指示を出せる立場って素敵すぎるわ。

 頼んだ品物は完成したらしいのだが、物が物だけにうかつに外に運び出すと情報漏えいの可能性があるので、ジャカータまで取りに来れないかという内容だった。

 確かに、俺の依頼したものはかなりの技術がつぎ込まれた逸品だ。それを最前線近くのジャカータから出すとなると、どこで見られるか分からないしな。俺が直接取りに行ってその場で装備するのが一番だろう。

 となると、俺の機体をもっていかないといけないけど、そうなるとイネス王女の近衛としての仕事ができなくなってしまう。

 一度デニス大隊長に相談してみるか。


「お返事はどうしますか?」

「早急に返すのは無理だな。カトレアは戻っていいぞ。俺もこの後格納庫に行かないといけないからな」

「分かりました。あ、そういえばアンジュさんが今日の夜ご飯はどこで食べるのか聞きたいって言っていましたよ」


 新装備が届いているのなら、それの調整でかなり時間がかかるだろうし、今日はもしかすると帰れないかもしれないな。


「じゃあアンジュには、整備メンバーと俺の分は格納庫に運ぶように伝えておいてくれ。あ、あとできればサンドイッチみたいな手に持って食べられるもので」

「分かりました。伝えておきます」


 カトレアは敬礼して部屋を後にする。

 俺は、机の上に広がっていた書類を簡単に片づけ、さっそく格納庫へと向かうのだった。



 近衛用の格納庫は城壁の内側。城の庭の一部に併設されている。併設されているからと言っても、その作りはしっかりしたものであり、外装も王族の視線に入るためかなり綺麗なものだ。外側だけならば、ここは城の別館かとも思える美しさである。

 しかし、その中に一歩入れば、そこはほかの格納庫とまったく変わらない。鉄で補強された内装に、キャットウォーク。倉庫の隅にはいろいろなパーツが積み上げられ、クレーンが軋み声をあげながら部品を持ち上げている。

 俺はその音になぜか安心しつつ、作業をしているオレールさんの下にやってきた。


「オレールさん」

「エルド隊長、やっときおったか」

「パーツが届いたと聞きましたが」

「今朝届いたところじゃ。言われた通り組み立ててはあるが、本当にこんなもんつけるつもりか?」


 機体の横にドンと鎮座しているそれをみて、オレールさんは眉をしかめる。

 俺はそのパーツを見ながら、満足げにうなずいた。


「ええ、かっこいいでしょ?」

「儂には分からんのう」


 どうやら俺の美的感覚はオレールさんとは共有できないらしい。


「そりゃ残念です。とりあえずパーツの組み立ては終わってるんですよね?」

「そうじゃ。ただ、起動実験は行っておらんぞ? 仕組み上、取り付けんと動かんからのう」

「ええ、機体の濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)を流用しますからね。とりあえず取り付け準備をお願いします。カリーネさんは?」

「もう物理演算器(センスボード)の描き換えに入っとる。かなり苦戦しておるようじゃがな」

「まあ、物が物ですからね」


 新しいパーツを機体に取り付けるとなれば、調整のために物理演算器(センスボード)の描き直しが必要になる。そのうえ今回は、機体と直結させて動かすため、そのプログラムも描き込まなければならないのだ。簡単に言って大仕事である。

 前々からこんな駆動になるとは教えていたため、ある程度基礎設計はできていると以前言っていたが、実際につなげて動かしてみないと、どんなバグが出るかは分からないからな。


「んじゃ取り付け始めましょうっか。あ、今日は時間かかるだろうと思って、晩飯をここに運ばせるようにアンジュに言ってありますから」

「おお、それは助かるのう。嬢ちゃんの飯は美味いからな!」

「今日アンジュちゃんが作ってくれるの! なら俺頑張るぜ!」

「私もやりますよー!」


 アンジュの飯と聞いて、リッツさんやパミラも俄然やる気を出したようだ。まあ、アンジュの飯は美味いからな。毎日食える俺はやや優越感に浸りつつ、操縦席へと移動する。


「カリーネさんお疲れ様」

「隊長、これきつ過ぎるわよ。やっぱり物理演算器(センスボード)の描き込む場所が足りないわ」

「ああ、やっぱりですか」


 開幕カリーネさんから苦情が来た。まあ、それは予想していたことでもあるんだけどね。

 現状物理演算器(センスボード)は操縦席後部の棚の中におさめられており、その大きさは畳半分程度の大きさしかない。

 そして、そこにはすでにびっしりとプログラムが描き込まれており、さらに別の駆動を描き込もうとすると、どれかを削るか統合するか、紛れ込ませるように描き込むしかないのだ。そうなれば、描き込む難易度は自然と高くなり、エラーやバクの発生率も飛躍的に高くなる。いくらベテランといえど、無理な領域に入ってくる。


「やっぱりって……分かってたなら、こんな無茶な注文しないでくれる?」


 ジト目を向けてくるカリーネさんに、俺は笑顔で返す。


「それはあれですよ。カリーネさんの実力なら、もしかすると俺の想像を超えた成果を出してくれるかもしれないじゃないですか。出来て困ることはないんですし」

「出来て困らなくても、私の疲労は着実に溜まるんだけど。はぁ、まあいいわ。それで分かってたのなら対策ぐらいあるんでしょうね?」

「もちろんですよ。総司令に頼んで、もう一枚新品の物理演算器(センスボード)をもらってきましたから」


 それが俺の解決策。描き込む場所がないのなら、新しい用紙を用意すればいいじゃない戦法である。


「もう一枚って!? どこに積み込む気よ!」

「それはもちろん新しいパーツにですよ。幸い、あれには大量のスペースありますから。それに、描き込む新しい部分はほぼパーツに関することですからね。もしパージしてしまっても影響はないでしょう」

「それはそうだけど……」


 一応これまでにも、ハーモニカピストレなんかで物理演算器(センスボード)を武器の中に積み込む方法はあったからな。前代未聞ってわけじゃない。

 まあ、今回はあれとは比較にならないほど大量の情報を描き込まないといけないし、アルミュナーレ本体の物理演算器(センスボード)とも同調させないといけないから、物としてはだいぶ違うけど。

 ぶっちゃけ脳みそをもう一つくっ付けるようなもんだ。理解しがたいのは分かるが、そっちのほうが楽なんだからいいじゃないか。


「あとは、物理演算器(センスボード)どうしの同調を注意するだけですからね。一つにまとめるよりもずいぶん楽だと思いますよ」

「わかったわよ」

「パーツの接続も今からやりますので、ゆっくりでいいですよ」

「新しいのに描き込むなら、構想時に描きだした奴を少しいじればいいだけだし、三十分もあれば終わるわよ」

「凄いですね。装備の装着に一時間はかかると思うので、調整もお願いできます?」

「はいはい。任せておきなさい、隊長様」

「今度ボーナス出しておきますよ」

「期待してるわ、隊長様!」


 うん、現金な人だ。きっとそのボーナスもホストに消えるのだろう。


「さて、んじゃこっちも始めますか」


 機体に乗り込み、起動させる。

 モニターに映し出されたパーツを見て、俺は思わず笑みがこぼれた。

 それは、アルミュナーレの胴体ほどの太さがある鉄柱だ。今は地面に寝かされているが、立てれば機体の胸ぐらいまではあるだろう。

 それがオレールさんの操るクレーンによってゆっくりと持ち上げられていく。


「エルド隊長、そっちで位置の調整頼めるか?」

「分かりました。そのままにしておいてください」


 横のまま持ち上げられた鉄柱は、機体の目の前で止まった。

 俺は、鉄柱へと機体の手を伸ばし、蓋になっている上部を開く。


「入れますよ」

「おう」


 そして、開いた口の中に、機体の左手をゆっくりと挿入する。

 手首から肘、二の腕と鉄柱の中に消え、最後には肩までがすっぽりと埋まってしまった。

 それを確認して、整備班の別の人が操縦するアームが蓋を閉じる。

 ガチャンと接続される音と共に、機体の左腕がそのまま鉄柱となった。これが俺の頼んでおいた新なパーツ。俺の機体専用の装備だ。


「クレーン外すぞ。重心に注意せい」

「はい、どうぞ」


 カチンッとロックが外れる音と同時に、握った左手のレバーにもの凄い重みがかかる。それを強引に抑え込みながら、機体が鉄柱の重みで前に倒れようとするのを、足を出して防いだ。

 水平に伸ばしていた腕をゆっくりと下すと、鉄柱の底はちょうどふくらはぎ程度の高さとなった。予定していた設計通りだ。

 その後、何度か腕を上げたり下ろしたりして、接続に異常がないかを確かめる。


「問題なさそうですね」

「そうじゃな。なら次じゃ。その状態なら、手動でハッチの開閉や回転ができるようになっておる。動きにおかしなところがないか、試してみれくれ」

「はい」


 右手を操作して、鉄柱に付いた取っ手をつかみ回す。すると、三十度ほど回ったところで一度ガチンと音がした。

 さらに回してみると、三十度毎にガチンとロックがかかる仕組みになっていることがわかる。

 次に、ハッチの部分の開閉を試す。

 本来ならば、物理演算器(センスボード)を同調させ、操縦席のボタン一つで開ける仕組みなのだが、その物理演算器(センスボード)を今カリーネに描いてもらっている最中なので、手動でハッチを開く。こちらも何かに引っかかることなく、スムーズに稼働した。


「稼働は問題なさそうですね。武装が入るか試してみます」

「おう」


 そう、この左腕の装備はもともと武器庫として使う予定の物だ。

 俺の戦闘は右手しか使わない分、武器を手放すことが多い。そのせいで、既存の装備量ではすぐに武装切れを起こしてしまうのだ。

 そこを解決するために考えたのが、この左腕一体型武器庫。

 三十度毎に設置されたハッチの中に剣や銃をいくつも仕込むことで、武器切れをなくそうという何とも脳筋装備である。

 だが、空洞部分に物理演算器(センスボード)を増設することも可能だし、中心部にタンクをつければ濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)をそこに備蓄することも可能だ。つまり、単独での長時間稼働が可能になる意外と優れものな装備である。

 欠点は左腕が使えなくなることと、バク転のような身軽な動きができなくなることだが、もともと左腕は使ってないし、そんな稼働をする以前に物量で押し込むのがこの機体のコンセプトである。いざとなったらパージも可能だしな。

 当初はよくあるロボットもののように背中に積むことも考えたのだが、背中では操縦席の入口やジェネレーターの取り出し口とかぶってしまうため、このような形になったのだ。

 俺は、腰から外した剣をハッチの中へと挿入する。

 剣はするすると鉄柱の中に入り、柄だけを鉄柱から出す状態となった。そして、ハッチを閉じると、その柄も完全に鉄柱に格納される。

 その後すべての格納スペースに異常がないことを確認し、いったん機体を停止させる。

 稼働させたことで異常がないかを調べるためだ。

 そこで、問題がなければ、今さっき完成したばかりの物理演算器(センスボード)を挿入し、実際の稼働を試すことになる。


「みんなー! ごはん持ってきたよ!」


 整備班が機体の点検を始めようとしたところで、アンジュが数名のメイドを引き連れて格納庫にやってきた。その手にはサンドイッチの乗ったお盆がある。


「お、ちょうどいいところに来たな」


 ちょうど一区切りがついたところだし、いったん休憩を取らせるか。今日は徹夜で作業になるだろうし。


「全員いったん休憩しよう。今夜は長くなるから、しっかり食べておけよ」

『はい』


 整備士たちに指示を出して、俺も機体から降りてアンジュの元へと向かう。


「エルド君、お疲れ様」

「アンジュも悪いな。持ってきてもらって」

「いいよ。それにしても、凄い形になってるね」

「本当の意味で俺専用にしたからな。もう俺以外じゃまともに動かすこともできないだろ」


 あの重い鉄柱を装備して動かすのだ。マニュアルコントロールでなければ、パワー不足ですぐに燃料が切れてしまうだろうし、そもそも歩くのも一苦労になるはずである。バティスやレオンならある程度は動かせるだろうが、それでも戦いとなると無理だろう。

 そんな機体なのだが、まぎれもなく俺専用だ。


「この後はいろいろ試しに稼働させないといけないから、今日は徹夜になる。アンジュは先に帰っててくれ」

「ううん、それならお夜食も用意するよ。ピリ辛で元気の出るやつ」

「ありがたいが、あんまり無理するなよ? 王女の付き添いで疲れてるだろ?」


 近衛隊のサポートメイドは、それぞれが担当する護衛対象のメイドも兼ねることとなっている。あの王女に付き添わなきゃいけないのだから、相当疲れているはずだ。


「大丈夫だよ。それに家に帰っても、エルド君がいないんじゃ寂しいし」


 アンジュはそういって頬を染めながら目を逸らす。

 クッ、この胸のときめきは、あのバカ王女の下ネタじゃ絶対に手に入らない代物だ。むしろあいつのせいで、アンジュの何気ない仕草がすごく可愛く見える。

 俺はこの場で抱きしめたくなる衝動を抑えて、アンジュの額に軽くキスをした。


「じゃあ悪いけど夜食も頼む」

「任せて! とびっきり美味しいの作るね!」

「ああ、期待してるよ」


 メイドたちから受け取ったサンドイッチを齧る整備士たちがいるほうから舌打ちが聞こえた気がしたが、俺はあえて無視することにした。


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