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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
副操縦士編
34/144

9

「この機体どうしましょう?」

「うーん、破壊しちゃうのももったいないしね。けど、運ぶのも大変だよね」


 敵機を回収しても、結局こちらの機体とするときはジェネレーター以外は全て取り換えることになるし、ここで再度奪われる可能性を考えれば破壊してしまうのが一番なのだが、現状この機体が貴重な戦力になるかもしれないことを考えると、迂闊に破壊してしまうのもどうかと思う。


「他の隊の斥候ってどうなってます?」

「ほぼ全員が砦の中に撤収出来たと思うよ。後はまだ余裕のある二十六隊のメンバーが少し動き回ってるみたい」

「二十六隊。バティスが呼べればいいんだけどな」

「フハハ! 俺は運がいいみたいだな!」


 俺がどうしたものかと考えていると、森の中から声が響いた。

 俺が声のする方向にカメラを向けると、一本の木の枝に人影を見つける。


「バティス、お前こんなところで何やってんだ?」

「何やってんだって、斥候なんだから最新情報渡しに来たに決まってんだろ。敵機はサルサ側の情報を得たのか、徐々に撤退を開始してる。ソーレの指揮官が今森の中にいる部隊は全軍ソーレ砦に集結せよだと」


 敵軍が撤退を始めたのか。サルサ側からの増援が効果的だったのかもしれないな。サルサ側から来るってことは、向こう側の作戦が失敗したってことだし。


「んで、その機体の処理に困ってるんだよな!」

「ああ、担ぐのも大変だしな。捕虜の連行もあるから、ブノワさんを乗せる訳にもいかないし」

「なら俺が乗るしかないよな!」

「まあ、そうなるな……けど敵機だから操縦方法が違うかもしれないぞ?」

「何とかなるって」

「んじゃまあ何とかしてくれ」


 さすがに、ここまで期待に目を輝かせている奴に乗るなとは言えない。


「任せろ」


 バティスは枝から飛び降りると、敵機の操縦席へ入っていく。

 さて、どこまで似たような仕組みになってるのか。


「バティスどうだ?」

「ボタンの場所が違うだけって感じだな。起動させるぞ」


 バティスが操作すると、機体は問題なく起動した。


「システムはほぼ同じだな。歩かせるぐらいなら問題ない」

「ならこのままソーレに戻るか」

「おう、エルドが先導してくれ。この機体で行ったら、大砲打ち込まれる」

「確かに」

「ブノワさん、そういうことなんでこのままソーレに戻ります」

「分かった。後についていくよ」


 敵機が撤退していったことで、この戦闘は一段落を見るだろう。俺の戦果は、敵機撃破四機に、鹵獲一機か。ボドワン隊長でも二機だったし、戦果としては申し分ない物だろう。これはご褒美を何にするか考えておいた方が良いかもしれないな。

 そんなことを考えながら森の中の道を進んでいくと、ソーレ砦が見えてきた。

 砦の外壁は度重なる攻撃でボロボロになり、門も崩壊寸前である。

 本来ならば外壁の上に設置してあるはずの大砲もことごとく破壊されており、戦闘の激しさを物語っていた。

 俺達がさらに砦へと近づくと、何やら砦の中があわただしくなる。バティスの操縦している敵機のせいだろうな。普通鹵獲なんて出来ないし。


「ブノワさん、俺達はここで待機していますので、砦の連中に事情を説明してきてもらっていいですか?」

「分かった」


 俺はその場で一度足を止め、ブノワさんに連絡役を任せることにした。

 ブノワさんが砦へと近づき、外壁の上にいる兵士に何やら声を掛けている。そして、しばらくすると砦の門がギシギシと音を立てながらゆっくりと開いていく。


「二人とも、そのまま中に入って大丈夫だよ」

「分かりました」

「了解」


 戻ってきたブノワさんから許可を得て、俺達はゆっくりと砦の中に入っていく。

 門をくぐってすぐは広場になっており、先に砦へと戻って来た機体が並んでいる。近くには馬が集められており、斥候役の為にすぐに乗り換えられるようになっている。

 並んでいる機体は、損傷こそ少ないものの、傷は多く全体的な消耗が激しそうだ。ある意味ここで一番損傷の激しい機体は、操縦席の正面がごっそりなくなっている俺の機体かもしれない。

 それぞれの機体の周囲には沢山の整備士たちがおり、今も急ピッチで修理と補給を行っているようだ。

 俺がどこに機体を停めたものかと悩んでいると、旗を持った兵士がやってきて、俺達の機体を誘導してくれる。

 その指示に従って、他の機体と同じように並べて停め機体を降りると、ブノワさんも馬を預けてこちらにやってきた。


「エルド君、お疲れ様」

「ブノワさんもお疲れ様です。これで一段落って所ですかね」

「油断はできないけどね。とりあえず押し返すことは成功したと判断していいと思う」


 今は、砦の斥候役が撤退している帝国の部隊を追走しているらしい。ちゃんと国境を越えて撤退するのか確認するのだろう。もし、緩衝地帯で待機するようなら、もう一度俺達に出撃命令が下る可能性がある。まだ完全に気は抜けないな。


「エルド」


 と、敵機を操作していたバティスが、機体を停止させてこちらに飛び降りてきた。


「バティス、お疲れさん」

「そっちこそ、お前が乗ってるってことは、かなりヤバかったんだろ?」


 副操縦士が隊長に代わってアルミュナーレに乗っているんだ。何があったかはだいたい想像がつくか。操縦席むき出しになってるしな。

 まあ、そのおかげで俺が活躍する機会を得ることが出来たとも言えるが。


「取りえず命に別状はないって情報は入ってる。心配はないだろ」

「そりゃよかった」

「そっちは大丈夫だったのか? かなり激戦だったみたいだが」

「俺は斥候役でこそこそ動いてただけだからな。上から来る指示もそこまできつい物じゃなかったし、ちょっと当てては逃げての繰り返しだ。それでもここまで消耗してんだから、エルドが来なかったら結構不味かったかも」

「間に合ってよかったよ」


 二人でしゃべっていると、砦の中から出て来た兵士が俺達の下に駆け寄ってくる。

 兵士は俺達の下まで来ると、敬礼した。俺達もそれに返すように敬礼をする。


「アルミュナーレ隊の方々で間違いございませんか?」

「ああ、三十一隊エルドだ」

「同じく三十一隊のブノワです」

「二十六隊副操縦士のバティスだ。間違いないぜ」

「アルミュナーレ隊の方々は、全員作戦会議室に集合とのことです。指揮官が詳しいお話を聞きたいとのことで」

「了解した。案内してもらえるか?」

「ハッ!」


 兵士の案内で俺達は砦の中へと入っていく。見た目は石造りなのだが、やはり町のアルミュナーレに関する工場と同じで、中はしっかりと鉄で補強されている。

 廊下を進み、階段をいくつか上がって大きな扉の前へと来た。


「こちらです」


 そう言って兵士は扉をノックする。


「第三十一アルミュナーレ隊エルド様並びにブノワ様、第二十六アルミュナーレ隊バティス様をお連れしました」

「入れ」


 中からの声で兵士が扉を開けると、その兵士はそのまま扉の影に隠れるように姿を隠した。ここから先は俺達だけで行けってことか。

 しかし、なんか嫌な気配がするんだよな。こう、殺意とか殺気とかじゃないんだけど、妙な威圧感と言うか緊張感と言うか。そう、プレゼン前の準備中に客から寄せられる期待感のような妙なプレッシャー。

 つかなんで俺が先頭なんですかね? ここは年長者でアルミュナーレ隊の経験も長いブノワさんが行くべきなんじゃ?

 そう思ってブノワさんを見れば、にこやかに笑みを浮かべて俺を見返す。その笑みには、早く行けと描いてあるような気がした。


「どうしたんだ?」


 扉が開いているのに進もうとしない俺を不思議に思ったのか、バティスが首を傾げる。


「いや、なんでもない」

「なら早く行こうぜ」


 そう言ってバティスが一番に扉を潜っていく。

 お前は扉の先から伝わってくるこのねっとりとした感覚に気付かないのか!

 しかし、バティスが行ってしまった以上俺達も行かない訳にはいかない。

 生唾を飲み込み、覚悟を決めて扉を潜る。

 中は、長机が四角く組まれ、部隊ごとに集まり全員が向き合うように座っている。

 バティスはすでに自分の部隊の下へ移動し、ハイタッチを交わし合っていた。部隊の仲間との仲は良いようだ。

 そして、俺が会議室に入った途端、全員の視線が俺へと集中する。

 ああ、このねっとりした視線。明らかに値踏みされてるよ……

 すると、一人の男が席から立ち上がり、俺達の下へやってくる。


「よく来てくれた。私がソーレ砦指揮官のロッソレートだ。増援感謝する」

「初めまして。エルドと申します。こちらとしても、ソーレ砦が耐えてくれたおかげで、サルサ側の事態に集中することができました。こちらこそ増援が遅れて申し訳ありません」

「サルサ側の情報は聞いている。それを踏まえて、今後のことを話しあいたい。君達も参加してもらえるだろうか」

「もちろんです」


 俺とブノワさんも空いた席へと座り、今後の事に関する会議が始まった。

 現状、動ける機体はこの砦にいる五機のみ。それも、うち四機は動くとはいえ多少の整備や補給が必要である。現在急ピッチで行われているらしいが、それでも三時間はかかるそうだ。

 物資も厳しくなってきており、これ以上の戦闘継続は難しそうである。

 俺の増援は、かなりギリギリのタイミングだったみたいだ。


「今撤退していった敵機に関して偵察隊が調査を行っているが、このまま撤退するようであれば、私はこの砦に三機アルミュナーレを残し、残りをパラストに送ろうと考えている。現在向こうに動ける機体は一機しかいないようだからな」


 そうだ。俺がこちらに来てしまっているせいで、パラスト側に動ける機体は俺が助けた一機しかいない。早ければ今日にでも王都からの増援が到着するだろうが、それも他のブロックから侵攻が無かったらの場合だしな。なるべく、今ある戦力で防衛線を再構築できるようにしておいた方が良いだろう。


「それでどの部隊をパラストに送るかだが」

「自分はパラストに戻ります。向こうに三十一隊のメンバーは集まっていますから」

「そうだな。では三十一隊と後は――」

「私の部隊が行きましょう」


 手を上げたのは二十六隊だ。


「機体の損耗は私の機体が一番激しい。ここでの修理では満足な動きができない可能性が高い」

「そうか。では敵が撤退するようならば三十一隊と二十六隊は機体の整備が整い次第パラストに向けて移動してくれ」

『了解』


 その後、三機での防衛線の構築や、作戦、敵が撤退しなかった場合などのことを考えた配備などの話し合いが行われ、二時間程度がしたところで会議室の扉がノックされた。

 うつらうつらとしていた俺は、ノックの音におどろてハッと顔を上げる。うん、命を懸けた会議でも、眠くなるものは眠くなるのだ。しょせん会議は会議である。


「第十五アルミュナーレ隊レオン入ります」


 そう言って入って来たのは、レオンだった。レオンは、俺に気付いて少し目を見開くが、すぐにいつもの調子に戻り指揮官の下へと歩いていく。


「偵察隊から情報が入りました。敵機部隊は緩衝地帯を抜けそのまま国境を越えて帝国内に戻って行ったそうです。念の為、緩衝地帯に待機し、定期的に連絡を入れるとのことです」

「そうか、ご苦労だった。レオン君もこのまま会議に参加しなさい。君の知能は役に立つ」

「分かりました」


 そう言ってレオンは、当然のように指揮官の隣の席に座った。

 え、あいつ何してんの? 当然のように部隊側じゃなくて指揮官側に座ってるし、なんか指揮官からの信頼も厚いし。

 俺の驚いた様子に気づいたのか、指揮官が口を開く。


「そう言えばレオン君とエルド君も同期だったな。今期の操縦士は優秀な者ばかりだな」

「それは俺を含めてもいいですかね?」

「もちろんだとも」


 バティスが手を上げて主張すると、指揮官は笑顔でうなずいた。その隣でレオンが頭を振っているが……


「レオン君には色々と作戦指揮で手伝ってもらってね。彼の予想は驚くほどに的中する。ここを死守出来たのも、彼の作戦のおかげと言ってもいいだろう」

「ロッソレート指揮官、あんまりうちの副操縦士を褒めないでくださいな。優秀な人材を引き抜かれちゃ堪ったもんじゃない」

「ハハ、すまないなワッツ」


 その後、レオンが持ってきた情報も含めた会議は順調に進み、一時間ほどで終了した。

 指揮官が解散を宣言すると、各々に会議室を出ていく隊員たち。そんな中で、レオンとバティスは自然と俺の下へやってきた。

 ブノワさんは、俺に先に行って準備していると耳打ちして会議室を出ていく。気を使ってくれたのかな?


「久しぶりだな、エルド」

「おう、レオンも無事でよかった。サルサに向かったらすでに落ちてて、正直かなり心配だった」

「ふん、僕がこの程度でどうにかなるものか。奴らの動きなど分かりやすすぎる」

「相変わらず、机上だけなら最強だな」

「机上だけは余計だ。そっちはずいぶんと派手にやったそうじゃないか。撃破数を聞く限り、獅子勲章は確定だろう」

「まあ、四機撃破に一機鹵獲だからな」


 敵機を三機撃破することで授与される獅子勲章。これは言わばエースの証とも言える。この獅子勲章は、一つの勲章を縦に割ったような形をしており、さらに三機計六機を破壊することで、もう片側の獅子勲章をもらえるのだ。

 この二つを合わせてつけると、国旗にも描かれた双頭獅子が姿を現す。それを双頭獅子勲章というのだが、これを着けている者はエースオブエース、国の英雄として上位貴族と同等の権利が与えられ、毎年国から報奨金が出る。

 俺としてはそんなことどうでもいいのだが、いまだこの国の歴史において、一度の戦闘で双頭獅子勲章を得られた操縦士はいない。

 後一機仕留められれば、それが実現できたかもしれないんだけどな。前代未聞の勲章授与はお預けになりそうだ。


「そんだけ活躍すれば、もしかすると正操縦士になれるかもしれねぇぞ。今回の鹵獲機体はかなり多い上、正操縦士の死者も四名だろ?」

「ああ、全部で十以上の席が空くことになる。基本的には経験の多い者から乗ることになるだろうが、獅子勲章の授章者が副操縦士というままなのは外聞的にも不味いだろうしな」

「俺専用の機体か。色々改造できそうだな」


 ようやく俺専用の機体が手に入るかもしれないと聞いて、俺の心は高鳴る。

 もともと、谷でアルミュナーレを見つけた時から、俺専用の機体が欲しかったのだ。副操縦士でいるうちは、隊長機を借りる程度だったから、隊長の好みに合わせた装備で、機動演算機(センスボード)を弄るのが限界だったが、今度からは俺の望む改造を施せるわけか。

 色々やってみたかったこともあるし、今から夢が膨らむな。


「好き勝手改造するのは良いが、副操縦士になる奴のことも考えてやれ。お前の操縦は異常なんだ」

「ならその異常な操縦を教えてやるさ。クックック、エリート部隊の完成だな」

「はぁ……」


 レオンは諦めたように頭を振る。


「んじゃ俺もそろそろ準備しに行くわ」

「俺も準備しねぇと。あの機体動かしにく過ぎるんだよな」


 俺とバティスが立ち上がる。

 バティスは鹵獲した機体をそのままはパラストへ運ぶこととなった。ここにあっても、使い道が無いとのことだ。ついでに、捕虜も歩兵部隊が移送することになる。まあ、あんな自分から投降してくる奴がろくな情報持ってるとは思えないけどな。


「なら今度はフォートランか王都で会おう。おそらく僕の部隊も一度は整備の為に戻るはずだ」

「おう、なら余裕見つけてどっかで飲もうぜ」

「良いな」


 俺達は、飲み約束をしてそれぞれの準備の為に会議室を後にするのだった。


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