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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
副操縦士編
32/144

7

 治療を受け、機体の整備が整うのを待つ。

 その間に、緊急食のクッキーのような物と水で腹を満たし、体調を整える。

 さっきまでは血が出過ぎて少しクラクラしていたが、休んでいるうちにそれも無くなり、体調は万全だ。むしろ、興奮しすぎて、包帯を巻いた傷口から血が噴き出しそうである。


「エルド君、情報集めて来たよ」


 俺が待機しているテントにブノワさんが戻ってきた。


「ありがとうございます。どうなってました?」

「四機中二機はうちの機体と現在も戦闘中。残りの二機のうち一機は町を占拠して立てこもってるね。補給路になるはずのこの町が落ちたから、立てこもって応援を待つつもりなのか、それとも物資をかき集めて自分達で動くつもりなのかは分からないけど、少しの間は大丈夫そう。一応大砲を持った歩兵部隊が向かってる」

「じゃあ俺は最後の一機ですね」


 閉じこもっているなら、急ぐ必要はない。町人には悪いが、自由に動き回れる機体の方が厄介だ。


「うん、草原をソーレ砦へ進んでいる機体がある。斥候部隊が気を引いてるけど、いつまで持つかは分からないって。場所は多分この辺り」


 ブノワさんは持っていた地図でその場所を示す。斥候のおかげで速度は大分落ちているようだが、ソーレ側に侵攻した部隊と合流するつもりなのかもしれない。ならばなるべく急いで叩かないと。

 それにしても――


「こんなにばらけてどうするつもりなんでしょうね。まともに補給線が作れるとは思えない」

「それは僕も同意見。サルサを落とした後のばらけ方が異常だ。まあ、ソーレも一緒に落ちていた場合は、補給線も確保できたかもしれないけど」

「そう言えばソーレは?」


 サルサはあっという間に陥落してしまっているが、ソーレが陥落したという情報は聞かない。


「ソーレはまだ持ち堪えている――と言うより、若干優勢みたいだよ」

「優勢? 六機相手に二機で?」

「一応巡回部隊の二機が増援に入って四機で戦っているみたい。ちょうど挟撃になっているらしくて、動こうとするたびにちょっかいを出して作戦を潰しているみたいだ。よっぽど良い指揮官がいるみたい」


 なるほど、つまりソーレに向かっているその一機は、砦陥落が難航している情報を受けて増援に向かっているのかもしれない。


「そうですか。ならソーレ自体は無視して、この一機を叩いたら即反転した方が良さそうですね」


 もしかすると、赤い奴みたいな面倒な機体がいないのかもしれない。純粋な国のアルミュナーレだけなら、特別仕様の機体は少ないみたいだし。

 と、テントの入り口の布が上げられ、オレールさんが顔を出した。


「エルド! 整備が終わったぞい!」

「分かりました! 今行きます!」


 椅子から立ち上がり、パンッと頬を叩く。


「気合い入ってるね」

「ええ、これ以上被害を広げるつもりはありませんからね」

「僕も斥候として出るよ。エルド君をサポートする」

「よろしくお願いします」


 ブノワさんが斥候についてくれるなら心強い。最悪四機を相手にしないといけないのだ、草原で敵機を探して彷徨いたくなどないしな。


「じゃあ行こうか」

「はい!」


 テントを出て、走り回っている兵士達の間を抜け、機体へと向かう。

 ブノワさんは休憩出来ている馬を借りて、すぐに出発していった。

 俺が機体へ近づくと、リッツさんが寄って来た。


「エルドよぉ、お前本当にこんな状態で出る気か?」

「ええ、頼んだように変更はしてくれているんですよね?」

「一応やりはしたけどよ、正直むちゃくちゃだろ。本当にこんなので戦えるのか?」

「問題ありません」


 自信満々にうなずき、操縦席へと跳び上がる。

 操縦席に腰をおろしベルトを付ける。

 正面を破壊されてしまっているので、各種のレバーやペダルの感触を確認。レバーは問題なし。ペダルは新しい物に変更されているのか、少し固い感じがした。

 俺が計器を確認して機体を始動させると、オレールさんが機体へと飛び付き、正面から操縦席内に顔を覗かせた。


「エルド、お主の要望に合わせて修理は行ったが、儂もかなり無茶な修理をやった。いつガタがくるか分からん。機体への負荷は最小限にしろ」

「戦いなんでできるか分かりませんけど、極力頑張ります」

「それでいい。とりあえず変更点を教えるぞ」


 俺が頼んだ機体の改修案。オレールさんはそれを、僅か一時間程度で見事に仕上げてくれた。

 まずは、視界確保の為に正面の壊れたモニターを全部取り除き、七十度程度の視界を確保する。さらに、生き残っている三枚のモニターは左手レバーの側に設置し直し、そこにはアルミュナーレの機体状況を表示してもらえるようにした。

 フットペダルやレバーの感度も俺用に調整してもらい、カリーネさんが描いた機動演算機(センスボード)との相性も合わせてもらってある。


「気付いとると思うが、ペダルを予備のパーツと交換しちょる。ちっと固くなっとるから気をつけい」

「はい」

「武装は剣二本にハーモニカピストレじゃ。魔法はカリーネがお主用のやつを設定しておる」

「ウィンドカッター、トルネード、ファイアランス、マジックシールド、ショック・グラビネスですね」

「そうじゃ」


 この魔法たちが、俺が機体を使う場合に設定してもらっている魔法だ。基礎の二つとファイアランスはそのままに、他を風系統に変更してもらっている。

 威力としては何段階か落ちてしまうのだが、やはり使い慣れた系統の魔法の方が、いざという時の判断で動きやすくなるからだ。


「分かりました。起動しますので、離れてください」

「死ぬんじゃないぞ」

「当たり前です」


 オレールさんが機体から飛び降りたのを確認して、俺は機体を起動させる。

 いつもと同じプロセスの機動だが、モニターが無いだけで気分はずいぶんと変わるものだ。

 外の空気を直接感じるのは、車からバイクに乗り換えた気分である。


「っと、いけね」


 バイクで思い出した。今この機体は前面が吹き抜けなのだ。きっちり風の対策をしなくては、走っている最中に呼吸ができなくなってしまう。

 俺はあらかじめもらっておいたゴーグルを付け、バンダナで口を覆う。


「エルド機、動くぞ。周り気を付けろ!」


 モニターが壊れているせいで、足元の確認が上手くできない。

 兵士に注意してもらうしかないので、俺は少し強めの口調で注意を促した。

 そして、ゆっくりと機体を動かし町の外へと向けて歩かせる。

 やはりだいぶ視界が狭い。厳しい戦いになりそうだ。

 それなのに、口元の笑みは消えず、俺はバンダナの下で小さく舌なめずりをするのだった。



 ブノワさんが時々上げてくれる信号弾を頼りに、俺は敵機の下へと急いだ。

 町を出てから走り続けて一時間ほど、俺は赤い信号弾と共に、その機体を発見する。

 緑色に赤のライン。帝国の機体だ。足元には王国の斥候部隊が取りつき、魔法で嫌がらせを行っている。

 そして、俺の接近に気付いた敵機が足を止め剣を抜いた。それと同時に、斥候部隊がアルミュナーレから離れていく。


「チッ、もうきやがったのか」

「ごめん、待たせちゃった?」

「待ってねぇよ!」

「つれないな!」


 駆け寄りながらファイアランスを放つ。当然のように防がれ、相手もクレイランスを飛ばしてきた。

 俺はそれを、機体を僅かに傾かせることで躱す。轟々と音を上げて飛んでくる土の槍を脇腹寸前で躱すのめっちゃ怖いな。やっぱモニターを通した映像とは臨場感が別物だ。

 だがそれも面白い。


「そんなおんぼろ機で勝つつもりかよ!」

「お前ぐらいなら問題ない!」


 一気に接近し、剣を抜く。相手も剣を抜いて来たので、俺は握った剣を相手に向けて投げつけた。

 相手は虚を突かれながらも、それを弾く。だがそこに隙ができる。

 俺は即座に、腰裏にジョイントされているハーモニカピストレを抜き放ち、相手の足関節を狙って発砲する。

 この銃、威力としてはまだ機体の装甲を貫通するほどの威力は備えていない。しかし、装甲の無い関節部を破壊する程度の力は十分有している。

 それを証明する様に、俺の放った弾丸は相手の右ひざを打ち抜くと、内部の機関を破壊する。

 弾丸を放ったハーモニカピストレは、グリップ部分に内臓されている機動演算機(センスボード)と、ノーマルエンジンにより自動で次の弾倉へとずれる仕組みになっている。前世の同じ仕組みの銃は自分でずらしていたらしいし、この世界の方がハイテクだな。

 突然の攻撃に、何が起きたのか分からなかったのか、相手は慌てたように機体のバランスを取ろうとするが――その関節壊れてるよ。


「なにが!」


 機体の重量を支えきれず、壊れた関節が折れる。そのまま機体は横転し、土煙を舞い上がらせた。

 俺はハーモニカピストレを腰裏へと再びジョイントすると、残ったもう一本の剣を抜き放ちつつ、トルネードの魔法を発動させた。

 直後、慌てながらも相手がロックバーストを放ってきた。

 ロックバーストは、クレイランスよりも威力に劣るが、その分細かい石を散弾のように放つため対応面積が広く、装甲の薄い俺の機体には相性が悪い。

 だが、小石ってことはその分重量は軽いってことだ。

 クレイランスをトルネードで飛ばすことはできないが、安全装置のせいで近づかれると発動できなくなってしまう。逆にロックバーストは威力が低いため比較的に近づかれても発動できるのだ。だからこの魔法が来ると読んでトルネードを発動させた。

 トルネードでも小石程度ならば軌道を変えるのに十分だ。

 発動されたトルネードは、俺へと迫る小石の群れをことごとく上空へと吹き飛ばしてくれた。

 さて、万策尽きたかな?


「トドメ!」


 必死に機体を起こそうとする敵機に向けて、俺は最後の剣を突き出す。

 切先は正面装甲を破り、操縦席を一撃で貫いた。

 敵機の目から光が無くなり、機動演算機(センスボード)が破壊されたことを示す。だが、あの赤い奴の前例がある。

 俺は剣を引き抜きながらも構えを解かず、慎重に相手の様子を窺う。

 敵機は、そのまま崩れ落ち動くことは無かった。


「よっしゃ、まず一機だ」


 確かこの世界、敵性アルミュナーレを三機以上破壊したら勲章授与されるんだっけ? 狙ってみるか。


「ここの処理は任せます! ブノワさん!」

「はいはい、凄い動きするね。次はどっちに行くつもり?」


 足元にやってきたブノワさんが尋ねてくる。

 残り三機。内二機はこちらの機体と戦っていて、一機は町に篭っている。まだ戦っているとなると、苦戦している可能性もあるし、もしこちらの機体が撃破されればまた別の町や村が危険にさらされる可能性が高い。

 負けるとは思いたくないが、万が一だ。決して、手柄の横取りとかは考えていない。


「まだ町に篭っているのなら、そのままでいいです。万が一に備えて、在野の二機を叩きに行きます」

「分かった。場所は把握しているから、先導するよ」

「お願いします」


 ブノワさんに続いて、草原を進む。オレールさんから、機体を大事にと言われたので、全速力は使わずブノワさんよりも少し遅いぐらいのスピードで進んでいく。

 しばらく走ると、なだらかな丘の上で小さな影となっていたブノワさんから青の信号弾が出される。あれは発射の向き的に、丘の向こう側にいる味方に知らせるものだな。

 となれば、あの先に敵機がいる。

 ブノワさんが方向転換し、丘を下って行く。これ以上先に進めば、戦闘に巻き込まれる危険性があるのだろう。

 俺は抑えていた機体の速度を上げて、丘を駆け上がる。

 丘を抜けた先で、二機のアルミュナーレが剣を打ち合っていた。


「増援か!」

「助か……それで大丈夫なのか?」


 二機の操縦者が俺の機体を見て、それぞれに声を上げた。

 まあ、心配になるのも分かるよ。操縦席おっぴろげだし、左腕ないし。けど――


「問題ありません!」


 一気に丘を駆け下りながら、剣を抜いて敵機へと接近する。

 敵機は鍔迫り合いを解こうとするが、味方機が強引に食らいついて離さない。


「そのまま押さえといてくださいよ!」

「そのつもり!」

「させるか!」


 敵機は、鍔迫り合いの状態からしゃがむと、味方機の足を蹴りバランスを崩させる。しかし、味方機もただでは倒れない。敵機に向けて剣を振りおろし、その肩を地面へと縫い付けた。


「ナイスファイトです!」

「この野郎が!」


 敵機は上に伸し掛かっている味方機を蹴って引きはがすと、即座に縫い付けられた左肩をパージして立ち上がろうとする。しかし、すぐそばまで来た俺が剣を振り上げているのを見て、とっさに転がる方に変えた。

 敵ながらなかなか素晴らしい反応だ。あのまま立ち上がろうとしていれば、俺は確実に操縦席を貫けていただろうに。

 転がったせいで目標を失った俺の剣は、思いっきり地面を突き刺したせいで半ばから折れてしまった。

 でもこのチャンスを逃すつもりはないんだな。

 本日二発目のハーモニカピストレだ。

 折れた剣を即座に捨て、ハーモニカピストレを腰から抜き放ち、転がる敵に狙いを定めて引き金を引く。

 バゴンッと大砲のような音と共に火花が散り、吐き出された弾丸が一直線に敵機へと向かう。

 そして、転がっている最中の操縦席を背中側から貫いた。正面装甲は貫けなくても、ハッチ側なら十分貫ける。


「一発必中だな」


 実際に撃つのとは違い、ロックオンのシステムがあるアルミュナーレの銃撃は非常に正確な上に、反動が少ない。と言うよりも、強引に反動を抑え込めてしまう。

 だからこそ、狙った場所に上手く飛んでくれるのだ。たった一年でここまで技術を上げてくれた研究所の皆さんには感謝してもしきれないな。

 操縦席を打ち抜かれた機体は、慣性で地面を数度転がった後に止まった。

 念のため、剣を持って近づいて操縦席の様子を確認する。

 正面装甲こそ貫かれていないものの、中はぐちゃぐちゃだ。人の原形すら残っていない。まあ、大砲の直撃受けるようなもんだし当然か。

 そう言えば、人殺しにもなれてしまったな。ここ数時間ですでに二人殺しているのに、後悔も歓喜も湧いてこない。まあ、機体越しの殺害だからかもしれないが、これがバティスの言ってた慣れるってことなのだろう。


「そちらは大丈夫ですか?」

「ああ、機体に問題は無い。やったのか?」

「ええ、操縦士を殺しました。自分はこのまま他の機体の援護に向かいますので、敵機の回収をお願いしてもいいでしょうか?」

「こちらこそ頼む。もう濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)があまり残っていないんだ」


 ああ、だから魔法を使ってなかったのか。まあ、何時間も戦っていれば、燃料も心もとなくなるか。


「ではよろしくお願いします。ブノワさん!」

「はいはい、優秀な斥候ブノワですよ。別隊の斥候に会ったから新しい情報を入手したよ。もう一機は味方機と相打ち。両操縦士死亡で、今は回収部隊が向かってる」

「ロッテはやられたのか……」

「知り合いでしたか?」

「同期だ。クソッ!」


 ガンッとレバーを叩く音が草原に響いた。

 俺は仲間が死んだことはまだないが、戦争ならばそう言うこともあるだろう。ソーレ砦は守備陣と巡回部隊が奮戦しているという話だけど、バティスやレオンは無事だといいのだが。


「ともかく、在野の脅威がなくなったのなら、自分は町を占拠しているアルミュナーレの排除に向かいます」

「そうだね。ここからだと一時間半はかかるから馬の疲労も考えると、たぶんアルミュナーレだけで行った方が速いから僕はソーレ砦の情報を仕入れてくるよ。片が付いたら、一旦パラストに戻ってきて、燃料と武装の補充と内部に問題が無いかチェックするんだ。途中斥候部隊を見つけたら、情報収集するのを忘れないようにね」

「分かりました」


 ブノワさんが再び馬で駆け出していく。


「では自分も行きますので」

「君も死ぬんじゃないぞ! アルミュナーレの操縦士は死んではいけない」

「もちろんです。まだまだ自分は満足していませんから」


 これだけ長く操縦するのは初めてだが、だからこそ余計に楽しく感じてしまう。

 ただ画面上の動く機体を操縦するのではなく、車輪の付いた機械を動かすのでもなく、俺は今二足歩行のロボットに乗って動かしているのだ。

 こんな楽しい事をこれからももっとできるのに、こんなところで死ぬつもりなんてさらさらない。

 一見ボロボロのこの機体だって、俺の望んだ行動を完璧にこなしてくれているのだ。ならば、俺は俺の腕でそれに答えよう。

 俺は折れてしまった剣の代わりに、まだ使われていない敵機の剣を一本拝借する。ついでに、味方機はハーモニカピストレを一発も撃っていないというので、弾倉を交換してもらった。全部で六発しか打てないし、二発補充出来たのは心強い。

 銃の存在が珍しい人には、ハーモニカピストレはまだまだ使い所が難しいみたいだ。


「臨時本部をパラストに設置していますので、そちらで会いましょう」

「ああ、必ず」


 味方機の見送りを受けて、俺は敵性アルミュナーレに占拠されている町を目指して、機体を進ませた。


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