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魔導機人アルミュナーレ  作者: 凜乃 初
壊れたアルミュナーレ
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2

 翌日。俺は母さんとの約束通り畑仕事を手伝わされていた。

 アンジュは俺と一緒に仕事ができると喜んでいたが、生憎俺の仕事はアンジュができるほど優しい物では無い。なんせ、魔法が使えるのだ。八歳と言えど、力仕事を任せられる。

 それを聞いてアンジュはひどく落ち込んでいたが、まあ午後からは村長の家に行くつもりだし、その時に少し遊んでやろう。最近魔法の練習にはまっているみたいだし、コツぐらいなら教えないことも無い。

 アンジュの頭を撫でてから、母さんに連れられてやってきたのは、少し離れた場所にある畑。


「じゃあ、ここの畑耕しておいてね」

「俺得意なの風魔法なんだけど」


 作物を回収したばかりで、茎などが残ったままの畑を前に、俺はジト目を母さんに向ける。

 ちなみに、他の属性である土を移動させたり、炎を出したり水を出したりするのは苦手だ。それに属さない探索などのいわゆる無属性はそこそこできる。


「大丈夫よ。ほら、いつもの要領でパパッと魔法を改良して」

「パパッとって……」


 できないことも無い。魔法は無属性魔法を少ししか使えない母さんからすれば、魔法の改造と聞かれてもイマイチ凄さが分からないのかもしれないが、多少なりとも魔法が使える人間からすれば、俺のやっていることは革新的な魔法の発展なのだ。

 だから正直あまりやりたくない。辺境の村といっても、人の出入りはゼロではないのだし、どこから俺の噂が漏れるか分かったのもじゃない。

 変なのに絡まれない対策も、異世界なら重要なはずだし。


「出来ないの?」


 母よ……そう悲しそうな目で見るな。やるしかなくなってしまう。


「分かった! 分かったからその涙目を止めい!」

「ありがと。お母さんはいつも通り収穫に戻るから、耕し終わったら言いに来て。それで今日の仕事は終了よ」

「了解。場所は収穫が終わったところだけでいいんだよね? 新しく開墾とかさすがに無理だぞ?」

「うん、あんまり広げても、私たちだけじゃ手が回らないから。じゃあよろしくね」

「よし、やるか」


 とりあえず俺は、風魔法で何か応用ができそうなものが無いかと、思考を巡らせるのだった。



 耕し終わり、それを母さんに話して俺の今日の仕事は終了となる。

 なんとか午前中で終わったため、午後は完全にフリーだ。とりあえず家に戻って昼食をと考えていたところに、土に汚れた服でアンジュが駆け寄ってくる。


「エルド君、仕事もう終わったの?」

「ああ、今終ったところだ。これから昼飯」

「私も今日のお仕事はもう終わったの。良かったら午後から付き合ってもらってもいい?」

「魔法の練習か?」

「うん」

「いいぞ。だけど先にアンジュの家に行きたいんだけど」

「良いけど、お父さんに用事?」


 アンジュの家は他の家よりも大きく作られており、村長の仕事もまとめてできるようになっている。なので、アンジュの家に用事があると言った場合は、大抵が村長への用事だ。

 代々アンジュの家系が村長を輩出してきたから役場を別にしなくても問題は無かったらしいが、もし村長が変わったらどうするつもりだったのだろうか? 家ごと交換するとか?


「少し教えてもらいたいことがあってな。練習はその後でいいか?」

「うん!」

「じゃあ後で家に行くわ」

「待ってるね」


 大きく手を振るアンジュに軽く振り返し、俺は昼飯の為に家へと戻った。


 田舎の昼食は非常に簡単なものだ。もともと母さんたちも午前中から働いているということで料理の準備ができず、作り置きのものになりやすい。

 今日も、案の定テーブルの上にはサンドイッチが置かれていた。

 俺はバスケットからサンドイッチを適当に取り出し、パクパクと二三口で平らげた後、服を着替える。

 魔法で農作業していたとはいえ少なからず汗や土で汚れている。さすがにそのままの姿でアンジュの家に行くのは憚られた。

 箪笥の中から服を取り出して外へと向かう。家の裏にある水樽から桶で水を掬い出し、頭っから一気に被ると、ひんやりとした水に背筋が震えた。


「おおぅ、まだ少し寒いな」


 頭を振るってみずを払い、さっきまで着ていた服で水をふき取り、持ってきた服に着替える。さほど変わり映えしないが、気分はさっぱりだ。


「さて、行くか」


 アンジュの家は村の中心近くにある。といっても、村自体が非常に小さなものだ。家々もある程度密集しており、誰の家に行くのにも全く時間はかからない。

 子供の足でも歩いて数分もしないうちにアンジュの家へと着く。木造二階建てで、村長の執務の為に一階部分が飛び出たような構造になっている。

 俺は、数度ノックして玄関を開く。当然鍵などかかっていない。


「お邪魔します!」


 すると、廊下の奥からアンジュが駆け寄ってきた。


「エルド君いらっしゃい!」

「おう、さっきぶり。村長いる?」

「うん、執務室にいるよ。お父さんにも、エルド君が来ること言ってあるから、そのまま入っちゃって」

「ありがと」


 案内されるまでも無く、村長の執務室は玄関のすぐ隣だ。

 俺は、扉を数回ノックして、中に入る。


「失礼します」

「よく来たね」


 出迎えたのは、正面に設置されたテーブルに座る村長だ。白髪交じりの金髪に細い目、メガネをかけた姿は、父さんと同い年とは思えないほど落ち着いている。この人がまさか村を飛び出してアルミュナーレ乗りになろうとしたやんちゃ坊主だったなどと、やっぱり思えないな。きっと父さんの聞き間違いだろう。

 まあ、それでも村長の蔵書の中にアルミュナーレに関するものが無いとも限らない。聞くだけ聞いてみよう。


「今日は何の用事かな?」

「アルミュナーレについて知りたいんです」

「ゴホッゴホッ……ア、アルミュナーレについてかい?」


 俺が話を切り出すと、突然村長が咽た。


「はい、少し前に見る機会がありまして、詳しく知りたいと思いました」

「ムホン、なるほど、エルド君も男の子と言うことですね。アルミュナーレのどのようなことが聞きたいんですか? 騎士のなり方? それとも造り方?」

「そうですね――できれば全てといいたいところですが、とりあえず操縦方法と内部構造ですかね」


 操縦方法が分かれば、あのアルミュナーレを動かせるかもしれないし、内部構造が分かれば、齧った程度の知識でも応急処置ぐらいならばできるはずだ。

 何年も雨風に曝されて、色々な部分のメンテナンスも必要だろうし。


「ふむ、操縦方法と内部構造か。それならこの本を読むほうがいいだろうね」


 村長は席から立ち上がると、壁際にある本棚から一冊の古い本を取り出し、俺に差し出してくる。俺はそれを受け取って表紙の文字を目で追う。


「アルミュナーレ基礎概論?」

「そう。アルミュナーレの専門学校に通う時に配られる教科書だ。アルミュナーレに関する基本的なことが書かれているよ」


 ああ、教科書を持っているってことは、あの話はマジなんだ……

 村長のこれまでのイメージを少し壊されながら、俺はぱらぱらと本を捲って中身を確かめる。文字はこの世界の文字で俺でも普通に読める物だ。内容は、言われた通り基本的なアルミュナーレの知識に始まり、操縦席の色々な機材の説明、基本的な操縦方法、各種駆動系の読み方、内部機構の仕組み、そしてセンスボードと呼ばれるアルミュナーレの頭脳に関してのあれこれだ。

 一通り目を通しただけでも、涎が出そうになる情報ばかりである。


「こ、これ借りてもいいですか!」

「ああ、構わないよ。もう使っていない物だからね」

「ありがとうございます! では失礼します」


 本を抱え、執務室を出る。すると、アンジュが正面で待っていた。


「お話終わったの?」

「ああ。待ってたのか? 別に呼びに行ったんだけど」

「えへへ、なんか気になっちゃって。それが相談の内容?」


 アンジュが俺の手の中にある本に目を向ける。


「ああ、アルミュナーレに関する資料だ」

「アルミュナーレ?」


 アンジュはまだアルミュナーレのことを知らないらしい。まあ、俺も偶然あの機体を見つけなければ知らないまま育っただろうし、当然だろう。


「説明は後でするよ。それより魔法の練習だろ?」

「うん!」


 アンジュと二人で、村はずれの薪置き場へ向かう。さすがに家の中で魔法の練習などできないし、森に近づきすぎるのは、アンジュを伴ってだとまだ危険だ。

 父さんや村長からも、ここを使うように指示されていた。

 材木置き場は、森と村の境界に位置する場所にあるのだが、人の手が入っている上に、頻繁に薪を取りに人が訪れる為、動物もあまり近寄ってこない。

 ここならば比較的安全に魔法の練習ができるという訳だ。

 俺は、薪が積み重ねられている柱と屋根だけの東屋のような場所で、薪を椅子替わりに腰を下ろす。


「じゃあ今日はどんな練習するんだ? 攻撃系の魔法はダメだぞ、村長たちから禁止されてるし」


 アンジュは火を使う系統の魔法が得意で、正直言うならば俺よりも攻撃系の魔法に向いているのだが、村長や父さんたちから教えるのは固く禁じられている。まあ、子供だし暴発させても不味いしな。けど、防犯の為に一つぐらい覚えておいてもいいと思うんだけどな。その辺りは、今後村長たちと相談だろう。


「分かってるよ。えっとね、服を綺麗にできる魔法とか、物を宙に浮かせられる魔法とかないかな? やっぱり畑仕事ってすごい汚れるから、そんな魔法があれば便利だなって」

「なるほど。汚れを落とすのは少し難しいかもしれんけど、物を浮かせるのならあるぞ」

「ほんと!?」


 アンジュが笑顔を輝かせながら食いついてくる。

 俺は、近くに転がっていた一本の薪を目標に、魔法を発動させる。


「レビテーション」


 俺が魔法を掛けると、薪がゆっくりとその場に浮き上がる。


「わー! 凄い! こんな簡単にできるんだ!」

「まあ、パッと見は簡単だけど、結構難しい魔法だぞ? ちょうど今まで教えてきた奴の全部合わせって感じだからな」

「そうなの?」

「範囲指定とパスの維持だからな」


 基礎の基礎が自分の体から魔法を発動させるもの、指先に火を灯したり、火球を作る物だとすれば、範囲指定は俺のエアショックアブソーバーやエアクッションのように体から離れた場所に魔法を発動させるものだ。そして、パスの維持はその魔法を維持するために感覚を繋ぎ続けること。火を灯す魔法ならば、一度灯してしまえば後は、後は勝手に燃え続けるが、浮かせる魔法だとそうはいかない。常に浮かせるために感覚を繋げて維持しなければならない。これがパスの維持だ。

 一応それぞれの行為を必要とする魔法は全部アンジュも覚えているが、その全てをまとめて行う魔法はこれが初めてだ。だからこその集大成。


「んじゃやってみろ」

「うん、レビテーション!」


 アンジュが魔法を発動させる。すると、薪はゆっくりと浮き上がり、アンジュの腰の高さまで来たところでストンと地面に落ちてしまった。


「あっ」

「範囲指定までは問題なしだな。あとはパスの維持だ。まあこれは繰り返して体で覚えるしかないけど。見ててやるから、しばらく練習しろよ」

「うん。じゃあレビテーション!」


 アンジュがレビテーションの魔法を練習し始めたところで、俺は横に置いていた本を手に取る。

 読みながらでも練習は見ておけるからな。

 俺は口元がにやけるのを感じながら、基礎概論を読み始めた。



「エルド君! エルド君ってば!」

「んあ。あ、悪い」


 顔を上げると、目の前にアンジュの顔があった。アンジュは若干頬を赤くしながらも俺を睨みつけてくる。


「見ててくれるって言ったじゃん」

「悪い。ちょっと集中しちまってた」


 なんというか、アルミュナーレ基礎概論、非常に面白いのだ。教科書なので、もっと眠くなるかと思ったが、プラモの説明書に書かれている設定資料のようなワクワク感がある。

 最初こそ、ちらちらとアンジュの魔法を見ていたのだが、いつの間にか食いつくように読んでしまったらしい。そのおかげか、色々とアルミュナーレについて知ることができた。


「エルド君!」

「あ……」

「もう……ちゃんとできるようになったよ」

「そうか、じゃあちょっと見せて」

「分かった。ちゃんと見ててよ! レビテーション!」


 ふわりと浮かびあがった薪が、エルドの目の前で停止する。今度は落ちる様子も、最初のころのように上空に飛んで行ってしまう気配も無い。


「安定してるな」

「頑張ったんだから!」

「なら応用だ」

「え?」


 まだ夕方までには時間がある。とりあえず一つ浮かせて浮かれきっているアンジュに、さらなる課題をプレゼントしよう。主に、俺が本を読むために。


「レビテーション、ダブル・セットアップ。スタート」


 俺が魔法を発動させると、アンジュが浮かせていた物とは別にもう一つ、薪が宙へと浮き上がる。いわゆる多重起動と言う奴だ。

 俺はこれをできるようになるまで結構苦労した。今でも四つまでしかできないのだ。これならば、アンジュも夕方ぐらいまで練習することになるだろう。

 そんな思いでこれを見せてみれば――


「レビテーション、ダブル・セットアップ。スタート!」


 簡単に俺と同じことをやってのけた……マジかよ…………

 いや、多重起動はマルチタスクの問題だ。現代だと、マルチタスクは女性の方が得意だって聞いたことがある。つまり、アンジュの方が多重起動は得意ってことになるのか?


「いきなり成功させるのか……まあ、とりあえずそれでどれだけ行けるか試してみてくれ。野菜を運ぶんなら、一つずつより良いだろ?」

「うん」

「三つでトリプル、四つでクアドラプル、五つでクインタプルだ。ちなみに、俺はクアドラプルまでしか使えない」

「頑張って、エルド君を追い越しちゃうんだから」


 マジで追い越されそうで怖いんですが……まあ、とりあえず頑張ってもらおう。

 アンジュがトリプルの詠唱をするのを横目に、俺は再び本に目を落とした。


 結局、アンジュはその日トリプルまでの多重起動を成功させた。


「凄いな。俺は一週間かかったのに」

「得意不得意があるのかな? でもクアドラプルは難しそう」

「まあ、アンジュなら近いうちに出来るようになるだろ。畑仕事でも練習がてらできるしな」

「うん。今日はありがとね」

「今週はずっと暇だからな。また練習したくなったら言ってくれ」

「分かった。また明日ね」

「おう、また明日」


 俺は家へと戻り、夕食を済ませる。

 どこの家庭も、暗くなる前には夕食を済ませ、後はランタンの明かりで細々と夜を過ごすのがこの村の日課だ。

 さすがに日が沈んでしまえば、俺も本を読めない。

 今日読んだ内容を思い出しながら、俺はベッドの中でゆっくりと過ごすのだった。


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