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「百六十二。よく来たな、学生諸君。百六十三。私がここの司令サム・ソロモンである。百六十四。短い期間ではあるが、ここで学べることも多いだろう。百六十五。ぜひ色々な事を吸収し、役立ててほしい」
スクワットを続けながら話すサム司令に、誰も返す言葉が無い。と言うか、何を返せばいいのか分からない。それ以上に、どうすればいいのか分からない!
見ろ! 日頃クールで通っているレオンだって、表情が見て分かるほどに引き攣っているんだぞ! バティスに至っては、腹抑えて笑いを堪えてるし、レイラは冷め切った眼で司令官を見ている。その眼はヤバいって。一応こんなのでも、ジャカータの騎士で一番偉い人なんだから!
「自己紹介していただいた通り、サム・ソロモン司令官はジャカータでアルミュナーレに関する指揮権を有するお方だ。アルミュナーレ隊は基本的に、それぞれの隊に分かれて行動するが、その行き先や作戦などは司令官が決定することになっている」
つまり、王都やフォートランから各地にアルミュナーレ隊が派遣されるのは、総司令や王の命令。そこからより詳しく、どれだけの部隊をどのように展開するのかなどの細かい作戦を決定するのが、各基地の司令官ということか。
つまり、このおっさん。筋肉質な見た目に反して作戦指揮がかなり上手いと言うことになるはずだ。そうでなれば、オーバード帝国と小競り合いの続くこんな前線基地の司令官など任命されるはずがない。
「サム司令、今日から学生ともどもお世話になります」
「うむ、百七十。明日からは基地内の見学なども予定しているのだったな。百七十一。私は所要で基地から出る為同行できないが、案内人を付ける。百七十二。分からないことがあったらそいつに聞くといい。百七十三」
「ありがとうございます。では私たちはこれで」
教官が締めくくり、部屋を後にしようとした時、不意にサム司令がスクワットを止めた。
「うむ、では学生諸君。今度は騎士として会えることを期待しているぞ」
『…………はい!』
そんなことを言われたら、騎士として会いたくなっちゃうじゃないか。
何だろう、一見おかしな人なのだが、その言葉の節々に人を引き付ける何かが隠れている気がする。これがいわゆる、カリスマ性というやつなのだろうか。
司令部施設を後にし、俺達は今日泊まる予定の寮へと向かう。そこは司令部からさほど離れていない四階建ての建物だ。
俺達の他にも、普通に騎士や整備員たちが利用しており、すれ違うたびに懐かしそうな目で俺たちを見てくる。きっと、同じようにここや他の基地にアカデミーから行ったのだろう。
寮の一階フロアで、俺達は足を止める。
「さて、部屋分けだが」
そう言って教官はレイラを見る。レイラはなぜ見られたのかが分からないのか、首を傾げた。最近、周りが男だけ過ぎて、自分が女だってこと忘れ始めてないか?
「レイラ、お前の希望次第では、一人部屋にすることも可能だが」
レイラは教官の言葉を聞いて、ようやく見られた理由を理解する。
「それでしたら、私は大丈夫です。性別は気にせず、他の人たちと同じように扱ってください。襲われた所で、全員返り討ちに出来ますから」
「そうか。情けない連中だ……」
教官のため息に、生徒たちからブーイングが飛んだ。
教官だって、レイラの剣技や身体能力は知ってるでしょうが。ここ二年間で、ますます動きに磨きがかかって、剣筋も凶悪になって来てるんだぞ! こんなんに夜這い掛けようとでもしてみろ、一瞬で息子と切り放されるわ!
「まあ、そう言うことなら、四人部屋に入ってもらう。もともと、借りていたのは俺達の部屋と、四人部屋二つだけだったからな」
まあ当然だろうな。グループで動いているんだし、宿泊だってグループになるはずだ。
って待てよ、それだとレイラが一人部屋を希望したら、残りの六人が四人部屋に押し込まれてたってことか!?
「第一グループは2001、第二グループは2002だ。明日は七時にここに集合しろ。全員で朝食を取った後、基地内の見学を行う」
『了解』
「では今日はここで解散だ。寮周辺程度なら自由に出歩いても良いが、迷惑はかけるなよ。解散」
『お疲れ様でした!』
授業の終わりと同じ言葉で締めくくり、団体行動はここで終了となる。
「んじゃとりあえず部屋行くか」
「そうね」
「さっそく夜の街へ」
「言われたばかりだろう。寮周辺程度なら自由に出歩いていいと。まだ通行パスをもらっていないのだ。基地から出られる訳がないだろうが」
「そんな……」
若干一命襟首を掴まれ引きずられながら、俺達は与えられた部屋へと向かうのだった。
サクッと時間は過ぎて翌朝。
朝食は基地の食堂でいただきましたが、なかなかのお味でした。安定のバイキング形式で、アカデミーにも引けを取らない味。体が資本の軍人だし、飯が美味いのは大切だよな。
食堂から出て、今日最初の見学先である第一ハンガーへと向かう。そこで、案内役の人と合流するそうだ。
ハンガーの前に行くと、入口の所で細身の男性が立っていた。男性は、俺達を見つけると、自分から近寄ってくる。彼が案内人だろうか。
「初めましてアカデミーの学生さん。自分はアーノルド・ライオット、ジャカータ司令部の副司令を務めさせていただいております。今日は、私が皆さんの案内役をしますので、一日よろしくお願いしますね」
とても礼儀正しい人だ。あの司令官とは正反対のような人である。あの人、自己紹介する時も、スクワット止めなかったもんな。
それぞれに軽く自己紹介をしたのち、全員で第一ハンガーへと入っていく。
そこには、二機のアルミュナーレが格納されていた。
「ここにあるのは、今メンテナンス中のアルミュナーレですね。第二十一と二十六のアルミュナーレ隊のものです」
二機は、装甲を外され、内部機構がむき出しの状態になっている。
「この二機は、緩衝地帯の哨戒任務を終えて戻ってきたところの物ですね。期間はだいたい一か月。緩衝地帯とそれに接触する村を順番に回り、異常はないか確かめるのが仕事でした。この基地に配属される部隊の大半はこの任務を行っています。今回は特に遭遇戦も無く済んだみたいですが、最近はオーバードがずいぶんと奮起しているようで、衝突する機会も割と多いですね。大抵は痛み分けで帰ってくることになりますが」
痛み分けか……まあ、機体を取られるのが一番マズイことだからな。お互いそこら辺は慎重になるのだろう。
「攻め込まれているのにもかかわらず、こちらからは攻め込むことは無い。その事に、時々民から苦情が上がることがあります。ですが私たちは、オーバードへアルミュナーレ隊を進軍させることは無い。なぜだか分かりますか? ではバティス君」
「自分でありますか……オーバード帝国の方が、アルミュナーレの保有数が多いから。でしょうか」
現在、フェイタル王国で稼働しているアルミュナーレの数は、全部で三十六機。二年前から三機ほど増えている。
教官から聞いた話によれば、俺の渡した機体が活躍したそうだ。
オーバード帝国も、フェイタル王国も、お互いがどれだけの機体を保有しているのかを知っている。そして、その機体がだいたいどの位置に存在するのかも、諜報部隊や偵察部隊を駆使して把握しているのだ。
しかし、俺の機体はオーバードとは離れた山岳部で偶然発見された物で、その存在をオーバード帝国は知らない。しかし、町に入ってしまえば情報が帝国に伝わるのは時間の問題となってしまう。
そこで新しい機体を手に入れたことを知ったサム司令が、電撃作戦を提案した。相手に機体の情報が伝わるよりも早く、あの機体を修理し前線に投入するのだ。予備パーツで外装だけ造り、そこにジェネレーターを突っ込んだだけの突貫工事だったらしいが。
総司令がその作戦を許可し、帝国は情報にない機体の強襲により二機の機体を奪われることとなったのだ。
しかし、二機鹵獲に成功しても、まだ帝国の機体保有数の方が遥かに多いのが現実である。
帝国の保有する機体は、王国が把握しているだけで、現在四十五機。鹵獲できていなければ、四十七機もの機体がいることになったのだ。
確かに、これだけ機体数に差があると、攻め込むのは難しい。だが、実際に動いている機体はもっと少ないはずだし、帝都の警備や他の国との国境のことだってある。全ての機体がフェイタルとぶつかる訳ではないのだから、戦い方はいくらでもあるだろう。
だが、バティスの回答は半分正解、半分不正解だ。
「テストなら、六十点って所かな? じゃあレオン君の答えを聞いてもいいかな?」
「はい、お互いが侵攻戦を行った場合、フェイタル王国の国境付近の村は壊滅となるでしょう。それは、ジャカータでも人事ではありません。言わば、二頭の獣がお互いの肉を食いちぎりながら戦っているようなものです。そうなれば、たとえ帝国を滅ぼしたとしても、甚大な被害のため勝ったとは言えないでしょう」
「うん、今の答えなら九十点以上はあげられるね」
戦争はなにもアルミュナーレ同士でぶつかり合うだけでは無い。それぞれに勝利条件があり、それを達成するために、多少なりとも犠牲が出ることになる。
お互いが侵略戦を仕掛ければ、防御は手薄となり、現在緩衝地帯で受け止めている帝国のアルミュナーレが王都に向けて進軍することになだろう。
そうなれば、道中の町は焼かれ、多くの死者が出るのは目に見えているのだ。それでも、王が王ならば民の犠牲覚悟で侵攻戦を仕掛けるかもしれない。しかし、幸いなことにフェイタルの王は民を大切に思うタイプの王だ。そのため、現在のような攻めてくる者を叩き出す戦法を取っているのである。
まあ実際、これでも戦争を終わらせられない訳じゃないしな。時間はかかるかもしれないが、俺がルネさんと約束したように、相手側の機体を全て奪ってしまえば勝ちなのだ。
いや、全て奪う必要はない。今の半分にでも減らせば、その戦略差により今度はオーバードが守るための戦いをしなければならなくなる。
時間はかかるだろうが、お互いの国が何千何万と死者を出し合うより断然マシなはずだ。
「だからと言って、私たちもただ防衛をしている訳ではないよ。この後紹介するけど、新武装の開発や、より効率的な機動演算機の構築、ジェネレーターによる燃費の向上など、日々機体を強くしようと頑張っているんだ。そのために色々な所から情報を仕入れたりもしている。君達が考えたマニュアルコントロールも、騎士団で採用できないか現在実験中だ。ただ、なかなか難しいみたいだけどね」
ほう、確かにマニュアルコントロールはできれば強くなるけど、その分犠牲にするものも多いからな。なにせ、左手が忙しすぎて使用不能になる。
レイラやバティス、レオンなんかもそこが不満で、最近では足で操作できる部分だけでもマニュアルコントロールにできないかと創意工夫しているようだ。上手くは行ってないみたいだけどな。
俺はほら、最初に乗った機体がそもそも左腕無かったし、それで初戦闘も経験しちゃったから、このままでもいいかなって気がするんだよな。三年になって始まった直接の戦闘訓練でも、今んところ負けなしだし。負けたらなんか考える!
「じゃあ少しキャットウォークを歩いてみようか。格納庫で機体を見るのは初めてでしょ? 格納庫にも、便利するために色々な機能があるんだ」
そういってアーノルド副指令が格納庫の階段へと足を進める。俺たちはそれに続いて格納庫内を進んで行った。
キャットウォークから機体を見下ろすのは新鮮な気分でした。
格納庫を見学した感想としてはこれぐらいかな? 機体の肩に乗って同じ目線で外を見る機会は多いが、その機体自体を見る機会はなかなか無いから、少し嬉しかった。けど、それだけだ。だって乗れる訳じゃないし。
整備士志望としては、格納庫内の道具なんかが涎垂らすような逸品なのかもしれないが、操縦士志望の俺達としてはクレーンを見せられてもイマイチ。まあ、操作できるなら俺としては嬉しいがそれも無しだし。
と、言う訳でサクッと見学を続けて、指令部にある作戦会議所や、トレーニングルーム、救護施設などを見て回る。
基本的には司令部の近くに設置されており、重要度が低いものほど外側に設置されるようだ。魔導車の車庫などは基地の片隅にぽつんと作られていた。
「さて、君達的には今までの見学場所は少し物足りなかったかな?」
アーノルド副指令は、笑みを浮かべながら俺達の気持ちを見透かしたかのように言う。
「まあ、操縦士を目指す子たちは、基本的にアルミュナーレの操縦が好きな子が多いからね。ただアルミュナーレと関わりたいって子は、操縦士志望であったとしても、二年の間に整備士や機動演算機学科に編入しちゃうから。その方が、断然命の危険は少ないし、なにより楽だ」
確かに、レイラのような特別枠を除けば、ここに残っているメンバーは少なからずアルミュナーレの操縦が好きな連中である。
というよりも、好きでなければ続けられないほど過酷な訓練ばかりなのだ。全身の筋肉は疲労でピクピクと痙攣するし、生傷は絶えない。そんな中で、成績を維持するために勉強も続ける。自主練は絶やすことなく、まともな休みなど年に七日あるかどうか。
確かに、ただアルミュナーレに関わりたいだけでは、付いて来られないだろう。
「そんな君達にも、次の施設なら少しは楽しめると思うよ」
そう言ってアーノルド副指令は一つの建物を指差した。格納庫程度の大きさがある建物だ。
「次の見学場所は、新技術研究棟。最初に言った、アルミュナーレの新武装や機動演算機の構築なんかを作ったり、考えたりするための場所だね」
なるほど。今までの施設と違い、新武装や機動演算機の構築などは、そのまま俺達が使うものだ。
その最新技術となれば、ぜひ見たい。というか、できれば体験したい。
なにせ、今開発が行われているということは、俺達が操縦士になり、数年後メイン操縦士になる頃には、ここで開発されていたものが投入されている可能性もあるのだ。
俺以外のメンバーも、どことなくだらけた雰囲気から急に引き締まった表情に変わる。その様子を見て、アーノルド副指令は苦笑していた。
研究棟に近づくと、目に見えて兵士の数が増えてくる。最新技術を扱っているだけあって、警備も他のところよりワンランク上のものらしい。
俺たちは、アーノルド副指令に続いて一階へと入っていく。そこには何もなく、奥に続く通路があるだけだ。
副指令はそこで俺達に少し待つように言うと、隣の部屋から用紙を持ってきた。
「ここに君たちのサインを記入してね。これは、ここで見た情報を他で話さないことを約束するための誓約書だ」
俺たちはそれぞれに紙を受け取り、その内容をざっと流し読みする。本来なら、しっかりと隅々まで読まなきゃいけないんだろうけど、いちいち規約とか全部読まないタイプなんです。
流し読みした内容は、だいたい副指令が説明した通りだ。
見たもの聞いたものに関して、研究棟以外で話をしないこと。そして情報をメモなどに記すことの禁止。
まあ当然の内容だろう。
で、これをもし破った場合は、禁固刑から最悪死刑までの罰が言い渡されると。
研究棟以外での討論禁止は少し厳しいな。寮の部屋に帰ってからああだこうだと議論ができない。一人でひたすら考え、もやもやとしなければならないのか……
まあ仕方ない。この世界で情報機密を守ろうとするなら、これぐらいしなければならないのだろう。
それぞれに署名を記入し、副指令に手渡す。
全員分が集まったのを確認した副指令は、それを隣の部屋へと戻し、俺達を奥の通路へと案内する。
通路を進み、扉を開く。するとそこには、横に続く通路と格子網を一枚挟んで、格納庫があった。
いや、正確には違うのだろう。アルミュナーレを固定するためのハンガーは無く、機体も置いていない。しかし、腕だけや足だけとったパーツがアームから固定されていた。
「ここは、新武装の研究施設だね。今研究しているのは、魔法をつかわない飛び道具。いわゆる火器の研究だ。あの手がなにか持っているのは分かるね?」
副指令が指差すのは、アームに固定されたアルミュナーレの腕だ。それは確かに何か巨大な筒状の物体を握っている。と、言うよりも腕自体に固定していると言った方がいいかもしれない。
あれってもしかして大砲か?
「あれは銃を巨大化したものだ。巨大化する際に、ずいぶんと不恰好になってしまったが、機能はそのままだよ」
「なぜ今更銃なんて時代遅れの物を使おうとしているんですか?」
首を傾げたのはバティスだ。
この世界、一応重火器の類は普通に存在する。村で弓を使っていたのは、単純に火薬が高かったからだ。大抵は弓で十分だったしな。
だが、この世界の重火器の価値は、前世に比べて大分低い。なにせ、魔法なんて便利なものがあるのだ。実際に使ってみれば、魔法の方が断然便利なのが分かる。装備なし、整備なし、補給なしで自由度が高い。そりゃ魔法使いますわ。
そのせいで、深く研究する者が少なく、最近ようやく火縄銃用の弾丸が考案された所だ。そんなものを使うぐらいならば、魔法をぶっ放した方が速いというのが、世の中の論調である。それは俺も大いに賛同する。
大砲は、アルミュナーレが出現した当初こそは対抗手段として用いられていたらしいが、今のような偶発的な遭遇戦が主な戦い方になってしまうと、その持ち運びや下準備に時間がかかり過ぎる為、敵も味方も使わなくなってしまったのである。
現状、重火器とは重く不便で、城壁に設置しておけば役に立つかもね。程度の代物なのだ。バティスの意見は、この世界の住人としては当然かもしれない。
けどな、バティス! お前仮にも操縦士目指してるんなら、重火器を付ける意味ぐらいすぐに理解しろ!
なんで未だにアルミュナーレが腰に剣ぶら下げて戦ってると思ってるんだ!
レオンもやれやれと言った様子で首を振った。
「バティス……アルミュナーレの戦闘時、もっとも気を使わなければならないのはなんだ?」
「そりゃ、濃縮魔力液の残存量だろ?」
それ分かってるんなら、気付けよ!
「そうだ。アルミュナーレは全て濃縮魔力液で動いている。当然魔法も濃縮魔力液から消費されている。だから、消費が多くなると、魔法を使えなくなる場合が多い。では重火器ならばどうだ?」
「なるほど! 残存燃料が少なくても飛び道具が使えるってことか!」
「レオン君の言う通りです。これが実用段階まで進めば、濃縮魔力液の消費を抑えて戦闘をすることができるようになります。そうなれば、アルミュナーレ一機あたりの活動範囲をより広くすることができますし、なにより国庫が浮きます」
まあ、アルミュナーレが攻撃魔法を放つ時の濃縮魔力液の消費は、だいたい数十万円分らしい。物によっては、数百万に達する物もあるとかないとか……
練習機のショックバーストなんかですら、一発数千円するのだから、それが鉄の玉と火薬に変われば、財務大臣はさぞ大喜びだろうな。
「と、言っても実用段階まではまだまだ遠いんですけどね。巨大化すると、想像以上に銃が重くなってしまいまして、今はああやって腕に固定しなければ照準を合わせることもできません。弾の問題もありますし、問題は山積みです。さて、次に行きましょうか」
必要とされなかった分研究が遅れているのだろう。確か地球でも、九世紀から十五世紀ぐらいまではずっと火縄銃だったはずだ。それでも必要とされ、重視されたからこそ、ごく短い期間で爆発的に進化を遂げてきた。ってことは、この世界でも今後この銃の需要が高まれば、必然的に前世と同じように急速な進化を遂げていくのだろう。もしかしたら魔法を含めたもっと新しい形の銃ができるかもしれない。
そしたらきっと、アルミュナーレ同士の戦い方も今までと変わってくるだろう。
「さぁ、次に行きましょうか」
俺は、機体の腕に握られている砲筒をみながら、銃撃戦を交わすアルミュナーレを幻視し、口元に笑みを浮かべるのだった。




