3
二年生になり九か月が過ぎる。
日の流れとはなんとも早いもので、二週間に一度の実機演習を楽しみに生活しているうちに、あっという間に雲は低く、空気は冷たくなっていた。
「ふぅ、やっぱり寒いわね」
自身の腕を擦りながら、俺の隣でレイラはどんよりと曇る空を見上げる。
「そろそろ雪が降るかもしれないな。それはそれで演習が面白くなりそうだけど」
雪原の歩行演習や、戦闘演習も面白そうだ。いつもとは違った感触の足場は、機体の性能を大きく変化させる。
そう言えば、アルミュナーレにも、雪原仕様カスタム機とかあるのだろうか。今の所、この町で生活していて、特別なカスタム機という物は見たことが無い。
魔導車のようなタイヤ式の物もすでに開発されているのだから、一機や二機ぐらい足が車輪になっているような機体があってもいいと思う。いっそのこと、多脚型や逆関節なんかもロマンがあっていいんじゃないか? 今度教官に提案してみよう。
「お前もう少し他に思うことがあってもいいんじゃねぇか? この分だと新年祭は白色新年祭になるかもしれねぇンだぞ?」
呆れたような声は、俺達の少し後ろから聞こえてきた。振り返れば、バティスとレオンが歩いてやってくる。
「白色新年祭? 何だそれ?」
去年、普通の新年祭は見たが、白色新年祭というものは聞いたことが無かった。雰囲気的には、ホワイトクリスマスに似たような物の気もするが。
「雪で町が真っ白になった時に年越しをすると、その年は一年幸せで過ごせるという、昔からのジンクスだ。今は大分意味が変わってきているがな」
「そうそう、白色新年祭に恋人と二人っきりで年を越すと、その二人は幸せになれるってな。だから、今年はどこの連中も恋人作りに躍起になってやがる」
「ああ、だから最近観客が多いのか」
俺は視線を校舎側に向ける。校舎の窓には、たくさんの生徒がおり、こちらを見ていた。六七割が女子生徒だ。ヘッドドレスもつけてるし、おそらくサポートメイド学科の生徒だろう。
操縦士はアルミュナーレ部隊の花形。その上貴族も多く、上手くいけば玉の輿に乗れるとあって、女子生徒からの人気は高い。
バティスやレオンはほぼ毎日のように誰かから告白を受けていたりもする。
「こちらの迷惑も考えてもらいたいものだ。そもそも僕たちに恋人を自由に選ぶ権利は無いというのに」
レオンは疲れた様子でメガネの位置を直し、ため息を吐く。
二人は、貴族の中でもかなり地位が高い所の家出身らしく、その結婚には恋愛感情を挟む余地が無いのだとか。いわゆる政略結婚というやつだ。
家を継がない次男や三男ではその兆候が特に強い。他家と繋がりを強くするチャンスなのだから当然だろう。
ただ、彼らに救いがあるとすれば、彼らが多くの家の中から選ぶ側の人間であるということだ。
良かったな。変なおっさんの下に嫁がされる女子じゃなくて。
「ま、付き合うぐらいは良いんじゃねぇの? 火遊びも貴族の嗜みってね。どうせ妾とか作るんだろうし、今から選んでても問題ないっしょ」
「それで先日刺されそうになったのはどこのバカだ……」
「あれはビビったな。まさかこの年で修羅場を経験するとは思わなかったわ」
バティスは笑い飛ばしているが、レオンから詳しい話を聞いた身とすると、割と洒落にならない修羅場があったらしい。
バティス……見た目主人公のくせに、性格は結構軽いのだ。
「そのまま刺されておけばよかったのに……」
「レイラ、ボソッと怖い事を言うな。まあ、バティスもほどほどにな」
「締める所は分かってるから大丈夫だって。んで、本題は白色新年祭よ。エルドは誰かいないのか?」
「恋人ってことか?」
「そうそう。知ってるぜ、エルドだって結構告られてんじゃん」
そう、俺も操縦士学科のトップクラスとあって、言ってはなんだが女子生徒からは意外と人気がある。ある子曰く、平民だからこそ良いとのこと。貴族だと感覚の違いとかがあって、不安な子がこちらに流れてくるのだ。まあ、その分貴族に喰らい付くような肉食系は少なく、押しの比較的弱い子が多いから、あしらうのも楽なのだが。
「へぇ、エルドも結構人気あるんだ」
「何言ってんだよ。こいつ、並み居る貴族連中抜かして、恋人にしたい操縦士学科生ランキング第二位だぜ? ちなみに一位は俺な」
「おい、なんだそれ。そんなランキング聞いたことないぞ」
「二位……」
レイラは何かを考えるように顎に手をあててぶつぶつと呟いている。
つか、俺がレオンを差し置いて二位だと? どうなってるんだ……
俺が考えていると、レオンはズボンのポケットから薄い冊子を取り出し、ペラペラとめくる。
「このアンケート曰く、あの眠そうな目が良い。優しそうで荷物とか持ってくれそう。少し遅れてもニコニコと許してくれそう。家事とか手伝ってくれそう。率先して子供の世話してくれそう。などなどだな」
「完全に都合のいい男と化してんじゃねぇか! ちょっと貸してみろ!」
「まぁ、ガンガン引っ張るタイプの俺と二大巨塔ってことだな」
俺はバティスの手からその冊子をひったくり、中を確かめる。確かにそんな感じのことがずらっと書いてあった。
中には過激なもので、浮気しても許してくれそうやお財布になってくれそうなど、マジで本当に俺のことが好きなのか怪しい回答まである。
つか、なんで俺が二位なんだよ。二大巨塔なら、熱血系のバティスとクール系のレオンで良いだろう。
そう思って、レオンのページを探す。
レオンは恋人にしたいランキング第四位にいた。
「レオンが四位?」
「きっぱり断ることも重要と言うことだ」
レオンは澄ました顔でそんなことを言っているが、書いてあるアンケート結果を見る限り、それは多分意味ないんじゃないだろうか。
だって
・あのすまし顔で罵ってもらいたい。
・罵倒を浴びせながら踏んでほしい。なんならもっと凄い事でも///
・レオン様のペットになりたい。首輪を付けて引いてもらいたい。
などなど、俺やバティスとは違った方向に過激なことが書かれている。どMの巣窟だ。匿名アンケートだからって何書いても許されると思うなよ!?
「んで、意外なのが三位だよな」
「ん? ああ、まあ意外といえば意外だな」
確かに第三位は意外といえば意外な人物であった。だが、俺としてはこれも少しはあるだろうなと何となく予想していただけに、さほど驚きはしない。
俺は、いまだに何かぶつぶつと考えているレイラに視線を向ける。すると、俺の視線に気づいたレイラがこちらを見た。
「な、なに?」
「よかったな。恋人にしたいランキング第三位だってさ。レオンに勝ったぞ」
「何よそれ!?」
今度はレイラが俺の持っていた冊子をひったくる。
回答
・あのキリッとした眼差しが素敵。見つめられたい。
・たくさんの男子の中でトップの成績を維持し続けるレイラ様は素敵。
・子供なんていらない。私は愛情があればいい。
だもんな。まあ、騎士のようにって普段から凛々しくしてればこうもなるわ。だが俺だけが知っている! レイラの太ももの柔らかさを!
「んで、実際の所どうなんよ。唾つけてる子とかいるのか?」
「いないぞ。そもそも、新年祭の時も俺は剣術の訓練があるからな」
一年以上続いているルネさんとの訓練だが、三百六十五日休むことなく行われている。一日でも疎かにすれば、取り戻すには三日かかるからな。
「ならその人と年越しだな。幸せになれよ」
「んな訳あるか。日が暮れるころには終わるに決まってるだろうが。その後は、まあ軽く勉強して寝るだろうな。翌日も訓練あるし」
「なんて華の無い学生生活なんでしょう!?」
おい止めろ。大半の学生は華を枯らしながら生きてんだよ!
「ちなみにおたくは?」
「知り合い四人ほど呼んで、俺の部屋で新年祭だ。今年の夜は騒がしくなるな」
「内訳を聞いても?」
「男1に女4に決まってんだろ。最初はレオンも誘ったんだけど、すげなく断られた」
「当然だ。どうして僕がそんな乱痴気騒ぎに加わらなければならない。家は昔から、新年祭は家族で過ごすと決まっている」
うん、それが正しい新年祭の過ごし方なんだろうね。つか、本当にバティスはいつか刺されるぞ。
がやがやと騒ぎながら授業の開始を待っていると、教官がやってきた。
すでに機体は待機されており、いつでも実機演習が始められる状態だ。つってもどうせ俺は最後の方に回されるんだろうけどな。
若干だらけながら、教官の説明を聞く。
「では今日はこれまでの集大成。戦闘演習を行ってもらうぞ」
はい、テンション振り切りましたよ! とうとう来たか戦闘演習。
歩行訓練に始まり、剣技訓練、魔法射撃演習、高機動訓練、転倒訓練、格納訓練と様々な訓練を受けてきた一年。その集大成を見せる時が来たようだ。
これは同時に、テストが近い事を示している。
一年目終了時のテストでは、惜しくもレイラに負けてしまったが、今回は操縦テストも追加される。つまり、オールパーフェクトに追いつける最初の機会ということだ。
俺は視線をレイラへと向ける。レイラも俺の方を向いてた。考えていることは同じと言うことだろう。
「レイラ、今度のテストは勝たせてもらうぜ」
「去年と同じように踏み潰してあげるわ」
じゃあまずは手始めに、この演習でパーフェクトを取らせてもらおう。
頬を軽く叩いて気を引き締め直し、俺は教官の説明を集中して聞く。
「戦闘演習は、草原部森林部両方に設置された的を、規定ルートを通りながら剣と魔法を利用して破壊してもらう。その後、機体に乗せた解析装置からデータを回収し、機体の最大稼働率や運用効率を調べ、それぞれに今後の訓練の方向性を決めていく。そのため、今回は機動演算機学科の教官にもお越しいただいている。各員失礼の無いように」
『はい!』
ふむ、つまり機体に飛行機のブラックボックスのような物を取り付けて、データを回収するのか。自分の操作に対しアルミュナーレがどのように感じているのか分かることができる貴重な機会だな。
無理な操作が多ければ、機体の負担は大きいだろうし、余裕を持ちすぎた操作ではそのポテンシャルを発揮し切れていないと判断される。
機体の能力を最大限に発揮しつつ、無理をさせない様に動かす。最高の操縦技術が求められる訳だな。腕が鳴る。
その後、機動演算機学科の教官がレコーダーについて説明を受けたり、コースの説明や設定されている魔法の解説を受け、出撃準備を整える。
「よし、説明は一通り済んだな。分からないことがあったら今言え。今なら質問に答えるぞ――――特にないなら実機演習に入る。呼ばれた者は搭乗し、起動状態にして待機しろ。ウェルにレスタ」
「よし!」「了解!」
呼ばれた二名が機体へと飛び乗り、呼ばれなかった生徒たちはがっくりと肩を落とし、校舎側へと退避していく。
当然俺も予想していたとはいえがっくりと肩を落とした。
ああ、ここからただ眺めるだけの時間が続くのか……
演習が進み、残りの数が少なって来た。バティスやレオンはすでに演習を終えて、感想を話し合っている。羨ましい限りだ。早く俺もあそこに加わりたい。
「では次、レイラにファラス」
名前を呼ばれた瞬間、生徒たちの空気が凍り付いた。
二人の関係が悪い事は、教官も含めここにいる全員が知っているからだ。もちろんあの事件のことも。
それ以来、二人は一度も一緒に演習をしたことが無かった。むしろ、順番に並ぶことすらも無かった。だから、教官たちが配慮してくれているのだろうと思っていたのだが、俺の勘違いだったのか?
ファラスと一緒に同時に名前を呼ばれたレイラは、一瞬体を固くしつつも、一つ深呼吸して機体へと向かっている。
ファラスは逆に何か憎々しげだ。よほどレイラに恨みでもあるのだろうか? しかし、レイラはファラスに会ったのは、アカデミーに来てからだというし、特に話もしていないという。
二人が機体に乗り込み、起動させる。
二機がゆっくりと歩きだし、それぞれのスタート位置に着いた。
俺は二機の様子をよく見るために、グラウンド一帯が見やすい教官のいる場所へと向かう。
教官は、俺が近づいて来たのに気付きつつも、気にせずマイクの魔法で二人に指示を出す。
「では戦闘演習を始める。レディ……ゴー!」
スタートの合図と共に、二機のアルミュナーレは勢いよく草原を駆け出し始めた。
好スタートを切ったのはレイラ機だ。ファラス機よりもやや先行して草原を進んでいく。
しばらくすれば、第一の破壊目標が見えてくる。
鉄パイプに括り付けられた、丸い的だ。これが草原や森林の中に設置されており、指示された攻撃方法で破壊していくのが演習の主な内容だ。
最初は衝撃波を発生させる魔法、ショックバーストによる破壊だ。
立ち止まってならば、簡単に的に当てることができるが、走らせながらではその難易度がまるで違う。
レイラ機はどうするのかと見ていると、左手を機体の左側にあるレイラ機用の的に向けて掲げた。どうやら止まらずに撃つようだ。
ズドンッと重い音が響き、レイラ機から照準をしっかりと絞られたショックバーストが放たれる。衝撃波は狙い澄ましたように的を破壊した。直後、レイラ機の右後方で同じ音がもう一度放たれる。
「なっ!?」
それを放ったのは当然ファラス機だ。しかし、まだファラス機の距離ではショックバーストの有効射程圏内ではないはず。
しかし、俺の予想に反してファラス機の魔法は、彼用の的をきっちりと破壊した。だが、驚いたのはそれだけでは無い。
ファラス機が魔法を放った直後、左前方にいたはずのレイラ機がバランスを崩したのだ。
「あいつ、まさか!」
「濃縮魔力液の過剰供給による威力の拡張だろうな。照準も絞らずに、百八十度範囲で放ったのだろう」
「明らかな妨害じゃないですか!」
俺は声を荒げるが、ガズル教官は落ち着いた様子で二機の動きを観察している。
「だが的は確実に破壊されている。相手の機体を狙った直接的な妨害には該当しない。それにレイラには厳しいかもしれんが、これはちょうどいい試練になるはずだ」
「試練?」
「俺たちはレイラに期待している。だからこそ、小さな弱点であっても、できるだけ潰しておきたいんだ」
「それが今回二人を同時に出させた理由ですか?」
「そうだ」
機体に対しての恐怖感は、俺の荒療治で完全に取り払われている。しかし、その事件を仕掛けたファラスに対しては、確かにレイラは苦手意識を持っていた。なるべく目を合わせないようにしていたし、教室の席も対角線と言えるぐらいに離れていた。
それを教官も気付いていたようだ。
「人に対する恐怖の克服。簡単な事ではないが、それができれば戦場でも恐怖に勝てる可能性は飛躍的に向上する。それはそのまま生存率の向上につながるんだ」
「確かに教官の言う通りかもしれませんが、少し急すぎやしませんか? アルミュナーレの時は、時間が無かったから荒療治も必要でしたが、ファラス克服ならまだ一年以上あるはずです」
「いや、ファラスはおそらく今回の試験で切られる」
「え? でもあいつ成績だけはよかったような」
覚えている限りでは、ファラスの成績は俺達トップグループに続いて第六位ぐらいだった気がする。それならば、十分三年目に残れるはずだが……
「成績だけで操縦士は決められない。二年間を通して、俺達はお前たちの生活態度なども簡単にだが調べてきた。普通に生活している分なら問題ないのだがな、あいつは問題行為が多すぎる。同学科の生徒に対する妨害のみならず、他学科の生徒に対する見下した態度、寮でのトラブルも多いと聞く。そんな奴を三年にあげる訳にはいかない」
「だから荒療治ですか」
「そう言うことだ。今の話は黙っておけよ、学生に知られれば大変なことになるからな」
「俺も学生なんですけどね……」
苦笑しつつ、俺は頑張れと心で念じながら、レイラ機の動きを目で追っていく。
話している間にも、レイラ機はファラス機から幾度となくショックバーストの妨害を受けながら、それでも的を的確に破壊し、一度もリードを許すことなく森林部へと突入する。
森林部では主に剣による的の破壊を指示されている。ショックバーストでは、木に邪魔されて臨んだ威力が出せないからだ。
レイラ機は木の間を器用に進みながら、的を剣で破壊していく。そして、突然ヘッドスライディングのように森の中へと飛び込んだ。
直後、レイラ機がいたところに一本の剣が飛んでくる。
剣はそのまま空を切って森の中へと消えて行ってしまった。
と、軽薄な声がマイクを通して聞こえてくる。
「悪い悪い。握りを甘くし過ぎてたわ」
剣の持ち主であるファラス機は、剣を振りかぶった格好のまま動きを止めていた。当然その手に剣は無い。振り上げた際にすっぽ抜けたとでも言いたいのだろう。
「気にしてないわ。予想してたし」
「チッ、うぜぇ女」
「褒め言葉ね」
レイラ機がクラウチングスタートの要領で機体を再び発進させる。
ファラス機は持っていた予備の剣で目の前の的を砕き、再びレイラ機を追った。
「あれも妨害じゃないと?」
「すっぽ抜けただけだろ? まあ、あれだけ器用に飛ばせる技量があるなら、もっとましな事に技量を伸ばせばお前らと同じレベルにはなれたと思うんだけどな」
「性格って大事ですね」
ほんと、つくづくそう思ったわ。しかし、レイラもあの攻撃を予想してたってことは、しっかりファラス機の動きを見ていたってことか。レイラは心配なさそうだな。
むしろこのままで心配なのは……
「今日の演習、高くつきそうですね」
「値段によってはあいつの実家に請求書が行くな」
「あ、そういう約束とかちゃんとあるんですね」
「まあな」
俺達が心配しているのは、ファラス機の濃縮魔力液だ。魔法の威力を強引に高めるために、濃縮魔力液を大量に消費し、レイラ機に追いつくために、かなりの負荷を機体に掛けているはずである。
あんな動きをしていては、消費がかなり激しい事になっているだろう。考えただけでもゾッとする。
そんなことを考えているうちに、演習も大詰めになる。
二機が森から飛び出し、最後の的に目掛けて突っ込んできた。最後は剣でも魔法でもどちらでも良く、破壊した後ゴールラインを超えれば終了だ。
レイラはすれ違いざまに斬るようで、その手に剣を構える。そしてファラス機はやはりショックバーストを選択した。
なりふり構っていられなくなったのか、明らかにレイラ機に向けられた照準。あれを放てば、即座に失格だ。
しかし、その魔法が放たれることは無かった。
「濃縮魔力液が切れたか」
「機動演算機が基本機動分を強制的に確保しますからね」
走ることは出来ても、魔法を放つことはできない。
その間にレイラ機は的を横切り、すれ違いざまに真っ二つに破壊する。そして、そのままゴールラインを超えたのだった。
機体を降りてきたレイラを出迎える。
「お疲れ。大変だったな」
「面倒だっただけよ。最初こそ驚いたけど、この機体と一緒だったしね。ほんと頼もしい限りよ」
「そりゃよかった」
「そう言えばあいつは? 最後にもう一発ぐらいあると思ってたんだけど?」
そう言ってレイラはきょろきょろと周囲を見渡す。しかし、そこにファラスの乗っていた機体は無い。まあ当然だよな。
「あっち」
俺はレイラの背後、機体が走って来た方向を指差す。そこにはのろのろとゴール目指して歩いているファラス機があった。
「プッ、何よあれ」
「燃料切れだ。あんなバカスカ魔法撃ってれば当然だな」
「あらあら、可哀想に。校舎からみんな見てるわよ」
授業の間なのか、校舎の窓にはメイド服を着た女性たちが沢山並んでいる。そんな中をゆっくりと歩かされるのはさぞ拷問だろう。
「じゃあ次はエルドの番よ。しっかり見てるから」
「おう、驚いて腰抜かすなよ」
「はいはい、頑張ってね」
ハイタッチを交わし、レイラは記録したデータを受け取りに、教官の下へと向かった。
それを見送った俺は膝立ちになっている機体を見上げ、グッとハイタッチした手の拳を握りしめるのだった。